第16話:絶望の足音
***
気付くと冷たく、堅い石の床のような感触がした。
ゆっくりと瞼を上げると己の両手足は枷をはめられていて…目の前には椅子に腰掛け、机に身を任せ眠る倭の姿がそこにあった。
微かに見ることの適うその横顔はとても安らかで、今まで柳が見てきた表情からは想像も出来ない優しい顔。
それが本当に倭なのかを疑うくらい、彼は子供のように無防備な寝顔をしていた。
「ん、んんっ…………」
柳が見ていると彼は、やがてゆっくりと目を覚ました。
倭は暫くは眠気が抜けきらないのかぼーっとしていたがやがて軽く頭を振ると柳に視線を合わせた。
「――ああ、目覚めたのか。神の器…ちょっと待っていろ。今、朝食でも持ってきてやる」
「…やけに優しいんだな。どうせナイクレーゼントが復活したら俺は殺されるのに」
「勘違いをするな。大切な儀式の途中に倒れでもされたら困るだけだ」
先程までの寝顔は何処へやら。倭の表情は冷酷に変わっていた。
柳は彼から瞳を逸らし、そして、思い出し、がばっと顔を上げた。
「稜基は…稜基とティレイスは!」
倭は嗤いを浮かべ、目を細めた。
「安心しろ。傷は負わせたが殺しはしていない。――いずれにしろ奴等は死ぬのだから放っておいても問題は無かろうと思ってな」
その言葉に柳は少しほっとした。
ティレイスならあの位のダメージはすぐに回復させることは可能だし稜基もあの神は助けてくれるだろう。
だがそれでも気を許すわけにはいかなかった。まだ最悪の事態は終わっていない。
「儀の準備はすでに完了している。必要な触媒も十年の歳月をかけて集めた。後は神の器。お前が儀式を行えばいい…」
「絶対に嫌だ」
夢見るように語る倭に、柳はきっぱりと言った。
「何で世界を失うような真似を俺がしなくちゃ駄目なんだ。俺は絶対にナイクレーゼントを復活させたりしない」
そんな柳の言葉に倭は嘲笑を浮かべた。柳はそれを訝しげに眉を寄せた。
「何が可笑しい?」
「くくっ…いや、予想通りの反応だと思ってな―――安心しろ。そう言うと思って別の方法も考えてある」
「別、の…方法?」
柳が呟くと倭は大きく頷いた。
「単純だ。私が儀式を行えばいい。…ただ、私にはあの方を呼び覚ます力がない。…そこでだ神の器、一つだけ方法があるのだよ。その方法とは――――」
それを聞いた瞬間。柳の顔には驚愕が浮かび、胸の奥で絶望を感じた気がした…………。