第14話:時は無い
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「こんの大馬鹿者共がぁぁぁー!」
のこのこと逃げ帰ってきた部下達に倭の怒号が浴びせられた。
「ティレイスに恐れ神の器を放って逃げ帰るなど言語道断! 私達はすでに彼の神の神殿を荒らしている。ティレイスに許しなどは乞えるわけなかろうが!」
部下達はハッとした表情をとった。
倭は抑え切れなさそうな激情をなんとか押し留め、冷静を取り戻す為に一、二回深呼吸をすると真剣な顔つきをした。
「仕方ない、私が行こう。誰か共に来い。………時が迫っている。好機は明日だけだと思え」
そう、もう時はない。
そして、己の命も――――。
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ティレイスは今日一日は二人の側に居てくれると約束してくれた。
明日になれば例の儀だ。
明日一日中はティレイスはナイクレーゼントの封印を掛け続けなければならないし、朔夜の連中も一日で準備、儀式を行うのは難しいと思われるからだ。
つまり、今日中柳を守りきることが出来たならナイクレーゼントの復活を阻止することが出来るというわけである。
柳は常に剣を常備し、稜基も杖をぎゅっと握り締めた。
二人の緊張は高まっていた。
「神殿の周りに結界を張った。これで奴等がここに入り込むのは至難の技だが…油断は禁物だ」
「それぐらい分かってる。朔夜の奴等のほとんどは魔術の使えない奴等ばかりだ。唯一気を付けるとすれば幹部――倭だ。あいつの魔力は計り知れない」
柳の言葉に稜基が頷く。
「今まではずっと油断してたみたいだけど………柳の力も、僕の力量も知られた今、必ずあの人は本気で来る」
苦戦必死だと予想される戦いを思うと二人の少年は自然に顔が強張っているのに気付かないぐらい心にゆとりを持つことも出来なくなっていた。
そんな二人を見ていた神はふと視線を神殿の扉の方へ向けた。
「来たぞ」
柳と稜基の二人は立ち上がり、それぞれの武器を前に構えた。
そして二、三回、大きな音が響いたかと思えば神殿の扉が勢いよく吹き飛び、神殿内に五人の男達が侵入してきた。
「………私の神殿を壊すなど良い度胸をしているな朔夜の者よ…」
ティレイスは冷笑を浮かべて彼らを見下した。
「――神の器を貰い受けに来た。大人しく渡して貰えないだろうか、統率神ティレイス」
倭と神の睨み合いで、戦いは始まった――――。