第10話:取り戻した記憶
彼女の手のひらが淡い光を放ち柳の身体を包んだ。
その途端柳の脳裏を幾つもの映像が駆けめぐる。
「――――っ!」
「………思い出しましたか?」
リティアールの問い掛けに柳は静かに頷いた。柳は驚きを隠せない稜基に見詰められ、ただ静かに語る。
「俺の本当の名は彼方・スメラギ。………ティレイス神殿に仕える神子だ」
柳――否、彼方は暗い表情をしていた。稜基はそれを怪訝そうにしていた。
「…………どうして、そんな顔をしているの?」
「いや………これでお前は俺と共に旅をする理由が無くなっただろう?」
稜基はそれを聞くとやけに納得したようだった。
「そっか、もしかしてお別れになると思って寂しくなってくれてる?」
「あ、当たり前だろう!この五日間ずっとお前が共にいたんだから!」
稜基は可笑しそうに笑うと優しい声音で言った。
「大丈夫だよ。僕は中途半端は嫌いなんだ。…………ちゃんと全部が終わるまで君といるよ」
稜基の言葉に、とても安堵している自分がいた。稜基は笑ってからふと思案顔を浮かべる。
「それにしても彼方、か………いい名前だと思うけど―――僕はやっぱり柳の方がいいな」
「好きに呼ぶといい。お前は俺の友達なのだろう?」
稜基にそう言うと彼は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「うん、ありがとうっ柳!」
こうして、もうしばらくは柳となった彼方はリティアールに視線を向ける。
リティアールは微笑ましそうに二人を見ていた。
「………貴方達ならこれから待ち受けているはずの困難にも屈することなく立ち向かっていけるでしょう。――しかし暗黒の神の力が立ち塞がった時、神の器はともかく稜基、貴方は苦戦するかもしれません。その時の為に私は貴方に力を与えます………」
リティアールが言った瞬間、稜基の身体が光に包まれた。
「これで貴方は本当に彼の手助けをすることが出来ると思います。でもその力は全てが終わったとき、消えてしまいます」
稜基の身体に浸透するように光は消えていった。
「………ありがとうございます。リティアール様…」
リティアールは柔らかく微笑して姿を消していった――。
「………柳、これからどうする?」
稜基はその直後に柳に訊く。柳は少し考え、そして呟いた。
「………やはり神殿に一度戻ろうと思う。俺がいなかった間の様子が気になる」
「そっか…ティレイス神殿はここから来た道を引き返さないと駄目だね」
「だが―――無駄では無かった」
柳が言うと稜基はうん、と頷いた。
「頑張ろうね、柳っ!」
「ああ、そうだな」
柳は笑顔を浮かべて頷いた―――――。