第9話:友達
柳と稜基の二人がテインの町を出発して三日が過ぎた。
二人は首都への道の最中にある森の中を歩んでいた。
「すっごく茂ってるね……」
稜基は正直鬱陶しそうに呟き、柳はそれに呆れるように溜息をついた。
「仕方がないだろう。今は植物が大きく成長する時期だ。このぐらい茂っていないとおかしいだろう」
「だって…雑草とか多くて歩きにくいしさぁ………」
「なら、無理して付いてこなくてもいい。俺はお前を危険に巻き込むことはしたくない」
「それは断るよ。僕だって柳が危険な目に遭うのを見過ごしたりしたくないから。だって僕達もう友達じゃないか」
「友…だち………?」
柳が呟くと稜基は寂しそうな瞳をしながら頷いた。
「駄目………?」
まるで子犬のような仕草は柳の胸にぐさりと刺さった。
「いや、駄目じゃない。そう思ってくれるなら…嬉しい」
「本当?」
無邪気な笑顔を浮かべる稜基に柳は大きく頷いて見せた。柳はそれがとても嬉しかった。
もしかしたら自分の記憶が戻ってしまったらこの優しい彼とは別れることになるかもしれない。
だが、そうだとしてもまた巡り会える様な気がするから、柳は少しだけほっと安心できた。
そんな時だった。柳はふと、誰かの声を聞いた様な気がした。
「稜基、何か聞こえないか?」
「え、何が………?」
稜基は首をかしげた。どうやら彼には聞こえないらしい。柳は一人で静かに耳を澄ました。
『神との会話を許された者よ………どうか私の処へ―――――』
(俺の…ことか?)
柳は声のする方へと進むことにした。
稜基が慌てて後ろに続くのを感じながら柳は道無き道を進み、やがてやや大きな泉に辿り着いた。その側には小さな祠がある。
「………」
しばらく黙って泉を見ていると突然、その泉からスーッと現れたのは輝かしい衣を纏った美しい女性の姿であった。
柳と稜基の二人は息を呑んでその女性を見詰めていた。
「よく来てくれましたね、神との会話を許された者―――神の器よ………」
「貴女は、一体―――?」
柳が問うと彼女は微笑み、柔らかい口調で答えた。
「私の名はリティアール。この世の調和を保つ者です」
「調和の神、リティアール様っ!」
「って………誰?」
柳がそう言うと稜基は呆れ混じりに柳に慌てて言った。
「リティアール様だよっ! ほら、僕達が今向かっている神殿に祀られている神様っ!」
「あー………」
柳はそういえばそうだったなぁとのんびりと受け止めていた。女神は苦笑して言った。
「事情は分かっています。彼には今一部の記憶が失われていると。安心しなさい、稜基よ。彼は神の器……決して私達神族は彼が私達に対する不躾を咎めることはありません」
「その神の器って何なんだ? 倭も俺のことをそう呼ぶが………」
柳が問うとリティアールは柔和な表情をした。
「神の器とは神々の長が選んだ神と人を結びつける人間のことです。神の器は神と対等の会話をすることを許されており、神の力―――神術を使うことを可能とし、また、神を降臨させたり神をこの世に呼び覚ませることを可能とする。神の力を集められる器。よって神の器と呼ばれるのです」
「………神の降臨とはどんな神だとしても可能なのか?」
「ええ、だから朔夜は貴方の力を求める。貴方が望めばこの世を闇にも光にも変えることが出来る―――――」
そしてリティアールは柳の目の前で手のひらを広げた。
「貴方の記憶を戻して差し上げましょう」
これを書いていた時の自分に思います。
「展開早くないか……?」