狩猟開始 II:隠された武器
2話ずつ投稿しています
~2日目、夜明け前~
この日は1日目と違い、早朝から動ける。昨晩の食事後に交代で夜番をし、まだ夜が明けきっていない薄暗闇の中ファルは動き出した。夜行性の動物が眠りにつき始め、昼行性の動物が目を覚まし始める——今が、罠を張るには最も適した時間帯だ。資料館でそう読んだ記憶がある。
昨日の調査の結果、爆裂罠などは湿気の問題で利用出来ない。対”角猪”向けには恐らく毒餌は無意味だろう。なんせ土の中のキノコの匂いを嗅ぎ分ける嗅覚だ。無視されるのは当然だろう。
「毒餌が使えない、爆裂罠も無理…あとはどんな罠があったかな…括り罠は大きすぎて無理だし…」
「落とし穴とかどうだ?」
「いや、”角猪”は体がデカいから掘ったら相当な大きさに…いつから起きてたんだよ?」
ミケルは「おう!」と元気よく返事をし、火に薪をくべながら食事の準備を始めた。
「まぁ、動きを止めるとか、鈍らせるくらいで十分だろ」
ミケルは昨夜の残りのスープを温め直し、器に注ぐ。具はない。狩猟前は胃を空にしておくのがいい。ドランがそう言っていた。
「足元に草束でくくり罠を作って…箱罠…いや、設置に時間がかかる…囲い罠なら…あ、でも”角猪”の突進力で囲い罠は危険か…うーん…手元にあるのは…」
ブツブツと呟き地面に何かを書いては消すを繰り返すファル。
「おーい…かえってこーい」
ミケルはファルの眼の前で手を振るが、まだブツブツと呟いている。
「おはよー。どしたの?」
寝ぼけ眼でニーナがテントから出てくる。スープ片手に地面とにらめっこしているファルを見て、首をかしげる。
「我らの頭役は、今まさに知恵を絞っておられる…スープ、飲むか?」
「いただく~…そんな難しく考えなくてもいいのに…縄とか石とかを投げるんじゃだめなの?」
ニーナが、湯気が上がるスープの器を口につけながら何気なく、湯気越しに呟いた。
「投げ縄…?石…?」
ファルはハッと顔を上げ、ニーナを見やった。目が輝いている。
「それだ!“ボーラ”!!」
「”ボーラ”?なんだそれ」
聞き覚えのない名称に首をかしげるミケルとニーナ。
「紐と錘で作る武器だよ!そうだ、それだよ!大型にも有効だし、作るのもそんなに難しくない」
ふーん…と若干引き気味なミケルとニーナを置いてけぼりにし、ファルは準備を始める。
「紐は、森の中に”鞭枝垂れ”があったな…あれなら、十分使える。錘は…」
「石なら野営の裏の河原にいっぱいあったぞ?」
-昨日の守備の際、一応見回りをしていたミケルが思い出して、ファルに告げた。
「今日は、“ボーラ”を作って、再調査に行こう!」
ファルは思考の迷宮から抜け出し、指示を出す。
「ミケルは裏の河原でこぶし大の石を…そうだな、とりあえず15個…いや、30個拾ってきてくれ」
「お、おう」
「ニーナは”鞭枝垂れ”を少し茹でて柔らかくしたいから、お湯をたっぷり作っておいてくれ」
「りょうかーい」
「俺は、森の浅い場所で”鞭枝垂れ”と素材をちょっと採ってくる!」
短槍と背嚢を肩にかけ、勢いよく駆け出した。
「うーん、楽しそう」
駆け出していく背中に向かって呟くニーナ。
「やっぱ”特別教習”受けきったヤツは変わってんな」
-ミケルは苦笑いを噛み潰しながら、薪をくべ直した。
「頭役が戻るまでに準備しておくか…ニーナ、火消すなよ」
「わかってるわよ!ミケルも転ばないようにね!」
「転ぶか!」「どうだか」といつものように軽口を叩きあう2人。
狩猟の準備は着々と進んでいる。
「にじゅう…さん、にじゅう…っとこれはちょっと小さいか。こっちだな、にじゅうし…と」
背負子の籠にこぶし大の石を積んでいくミケル。
ファルの指示の的確さと知識量、実行力に少しばかり驚いていた。
「はぁ…あの時が、どれだけ無策だったか…今ならよく分かる」
思い出すのは、前回の”四つ腕熊”討伐依頼の散々な結果。あの時はドランが居たからなんとかなった。ドランが居なければ、探索者を続けることさえ出来なくなってただろう。ニーナと2人で罠なんて思い付かないし、毒草の扱いだってロクに出来ない。俺にできるのは、剣で斬って盾で守ることだけだ。それ以外は、任せるしかない。
「有利に立ち回るには、下準備と計画が必要。か」
”銅”級時代にドランに散々言われていたことだ。当時は叩き斬ればいいんだろ?とか思っていたっけ。情けない。
「ファルは今回中衛に回るだろ…って事はニーナは後衛。俺が前衛で…ファルの得物は短槍だったから…間合いはこんなもんか」
悔やんだって仕方ない。次のことを考えなければ、罠や策はファルに任せよう。自分は、戦闘の際にどう立ち回るか?を考えよう…。そうだ、適材適所。俺は俺の役割を果たすだけだ。




