探索者の悔しさ
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「えぇっと……四つ腕熊と角猪……」
互助会に隣接する資料館。
魔物の出現記録、薬草の採取地、鉱石の分布などがまとめられた、簡素な部屋だ。
リゼ曰く、「この資料がなければミルゼの平和は維持できない」らしい。
「四つ腕熊……あ、あった」
羊皮紙を乱雑に束ねた巻物のような資料を広げる。
「獣型、熊科、悪属……雑食性で、肉でも木でもなんでも食べる。気性は荒く……」
ファルは項目を一つずつ目で追う。
読み書きと計算は、探索者登録時にリゼに叩き込まれた。
「読めなきゃ依頼は受けられない。計算できなきゃ報酬を減らされる。自衛のためにも覚えなさい」
この一年半、ほとんど座学。採取に出られるようになったのは、つい半年前のことだ。
おかげで資料の複雑な記述も理解できる。
魔物は大きく四種に分類される。
獣型、亜竜型、悪精型、鳥型。
さらに「悪属」「中庸属」「正属」の三属が付き、人族への脅威度が定められている。
たとえば四つ腕熊は「獣型・悪属・中型」で、脅威度は3〜4。
角兎は「獣型・中庸属・小型」で、脅威度は0〜1。三匹以上でようやく2に達するかどうか。
木版に重要な部分を書き写し、角猪の資料を探していると──
「おい、雑草摘み……じゃねぇや、ファル」
背後から声がかかる。振り返ると、ミケルとニーナが立っていた。
少しバツが悪そうで、少し恥ずかしそうな顔。
「お、ミケーナ。どうした?何か用か?」
“ミケーナ”──互助会で二人を揶揄して呼ばれる愛称。
「くっつけるなよ、ったく……お前、昇級試験なんだよな?」
ミケルは片手剣と皮盾、腰に短槍を下げた中衛寄りの前衛スタイル。
ニーナは槍と小型ボウガンを装備した後衛寄りの中衛。
幼馴染で息もぴったり、互助会でも相性の良い徒党と評されている。
ただ、ファルとは付かず離れず。ライバル関係で馴れ合わず、でも互助会の仲間として助け合う。
そんな二人が、珍しく真剣な顔で言った。
「昇級試験……手伝わせてほしいの」
ニーナがまっすぐファルの目を見る。
「俺はありがたいけど……いいのか?」
賤鉄級の二人にとって、試練の同行はメリットがない。
貢献度にもならず、報酬も出ない。
「こないだの依頼で、四つ腕熊とやったんだ」
ミケルが口を開く。
「……ドランに怒られてたな」
「ぐっ……そうだよ。下調べもせずに火属性の魔石使ってさ。獣だから火に弱いと思い込んで……」
拳を握りしめるミケル。
「結局、討伐はドランさん一人でやったんだ」
ファルは興味なさげに資料を探りながら聞いていたが、ニーナが続ける。
「功績には“討伐数2”って書かれてるけど、私たち何もしてない……」
「つまり、復讐戦したいってこと?」
ファルは資料の束を探りながら、ぽつりと口を開いた。
「俺はさ……わかんないんだよね。探索者の矜持とか、こうあるべきとか、そういう崇高な志」
独白のような、でもしっかりとした口調。
「孤児院出だからさ。明日食う飯があるか、寝床があるか。それだけで探索者になった」
「でも最近、分かる気がしてる。いや、分かりたいって思ってる」
スッと一枚の羊皮紙を取り出す。角猪の資料だった。
「手伝ってくれ。よろしく頼む」




