探索者の矜持
この物語は、“竜”が災害として認識される世界で、ひとりの少年が“災厄”に名を刻むまでの記録です。
文字数は少なめですが、楽しんでいただけたら幸いです。
互助会に登録して一年半。
ファルはリゼの特別講習やドランの戦闘教習を受けながら、都市内の依頼をこなす日々を過ごしていた。
薬草摘みから始まり、害獣退治や小さな探索。少しずつ、任される仕事も増えてきた。
そんなある日──。
「死にてぇのか、クソガキ!」
依頼から帰ってきたばかりのドランの怒声が、互助会に響き渡った。
今回の依頼は“四つ腕熊”の討伐。依頼主は隣村の村長。
ドランに同行したのは、新人賤鉄探索者のニーナとミケル。
二人は先週ようやく賤鉄に昇格したばかりで、これが初めての本格依頼だった。
賤鉄級になれば、害獣討伐や遺跡探索、都市外遠征──仕事の幅は一気に広がる。
だからこそ最初の数回は鉄級が同伴し、そこで学ぶのがしきたりだ。
「ろくに下調べもしねぇで依頼に向かうってのは、馬鹿か?無謀か?無知か?どれだ!」
ドランは顔を真っ赤にして二人を詰める。
リゼはその様子を見ているだけで、仲裁に入る気配はない。
「リゼさん、止めなくていいの?」ファルが小声で尋ねる。
「止めなくていい喧騒なのよ」リゼは顎に手を当て、首を傾げる。
「下調べをしてない。それは減点対象ね。ドランが怒るのも無理はないかな」
「ふーん……下調べか」ファルは頷きながら聞き入る。
リゼはカウンターに草束を並べて説明を始めた。
「薬草だって種類がある。ヒルルク草は傷薬、カミツレは化膿止め、他にも解毒用……。調べて選んで摘んでくる、それも立派な下調べ」
トントンとカウンターを叩き、後ろの本棚を指差す。
「ファルが嫌いな座学も、下調べの一つだと思えば探索者冥利に尽きるんじゃない?」
「うげっ……」ファルは顔で返事をした。
「さ、ドランのお説教が終わるわ。次に叱られるのはファル君かしら?」
「げっ、なんでだよ!俺は何も──」
背後から声が飛ぶ。
「おい、“雑草摘み”!お前もネズミ駆除に毒餌使わなかったらしいな!」
振り向くと、青筋を立てたドランが笑顔で肩を掴んでいた。
「お前もニーナとミケルと一緒に自習室だ!叩き込んでやる!」
ガシッと掴まれ、そのまま引きずられるファル。
「いってらっしゃい」リゼはにこやかに手を振った。
今日も互助会は、騒がしくて賑やかだった。




