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竜を殺す者  作者: 東雲
”西の魔女”編

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21/25

立ち合い

予約投稿をすっかり忘れてました…

「魔法の発動が遅い。あと半秒は早められる。形状変化も、相手は待ってくれないよ……野生の獣だから待ってくれただけさ。対人なら、そうはいかないね」

ラプターを肉と皮、それに牙と爪へと分け、背嚢の袋に詰めていると、背後から声が飛んできた。

「リリーナ……見てたなら手伝えよ」

「嫌なこった」

紫煙をくゆらせながら、魔女は肩をすくめる。

「手伝うくらいなら、最初から自分でやるさ。お前の仕事だろ?」

ゼランは舌打ちしつつ、血の匂い漂う森の中で黙々と解体を続けた。

「どれ、久々に見てやろう」

煙管を構えるリリーナ。

見た目は二十そこそこの小娘──だが、纏う空気は桁違いだった。

ただ煙管を構えているだけなのに、その威圧感は、先程の二足竜(ラプター)三匹を束ねても足元にも及ばない。

反射的に小刀を構える。

魔力を込めようとした──だが、指先が凍りついたように動かなかった。

リリーナが煙管を軽く振る。

「爆ぜろ。《風の暴弾》」

至極簡単な詠唱。

次の瞬間、爆ぜる風がゼランの腹を打ち抜き、肺の奥まで震わせた。

「ほら、立て。相手は待っちゃくれない」

容赦なく、風の暴弾を二連射。

腹に受け悶絶するファルの足元と側頭部へ、風の暴力が炸裂し、地面を抉るように吹き荒れた。

ゴロゴロと地面を転がり、必死に体勢を整えるファル。

左手が腰のポーチに伸び、爆裂石を投げつけ、そのまま突っ込む。

「クッソ……!」

爆裂石の閃光など意に介さず、煙管が鋭く振り下ろされる。

ファルの右手を打ち据え、小刀が地面に落ちる。

次の瞬間、リリーナの足がそれを蹴り飛ばす。

刃は木に突き立ち、震える音を残した。

「どうした、坊や。武器を失っただけだろ?魔術はまだ潰れてない。他に小細工は?……そのポーチには何が残ってる?」

リリーナの挑発が、背中に突き刺さる。

「坊やはおうちでお布団かぶって寝てなっと」

紫煙を吐きながら、わざとらしく笑う。

ゼランは歯を食いしばり、ポーチの中身に指を伸ばした。

ポーチの中を指先で探る。

癇癪玉、剣菱の実、火炎札……駄目だ。どれも、あのババァには通じない。

考えろ。使える魔法は──

小規模爆破の《爆発》。

風の塊を飛ばす《風の暴弾》。

小さな火を灯す《灯火》。

「爆発……威力不足。風の暴弾……さっき潰された。灯火……論外だ。」

発動器なしで使えるのは、この三つだけ。

「……情けねぇな」

歯を食いしばり、ゼランは次の一手を必死に探った。

「情けない。あぁ情けない……どうした?亀みたいに蹲って……踏んでほしいのか?」

嗜虐的な笑みを浮かべ、リリーナが近寄ってくる。

「クソ……やってみるか」

ゼランはリリーナの足元に《爆発》を三連発。

小さな穴が穿たれ、その中へ《風の暴弾》を叩き込む。

砂煙が舞い上がり、視界を白く濁らせ、喉にざらつく粉が絡みついた。

その隙に、地面へ”剣菱の実”と火炎札をばら撒く。

二歩下がり、癇癪玉を投げつけて火炎札を起爆。

炎が走り、剣菱の実が音を立てて爆ぜ回り、地面を跳ねるように炸裂した。

煙の向こうから、くぐもった笑い声が響く。

「へぇ……少しは考えるようになったじゃないか、坊や」

このババァに一泡吹かせるには、これしかない。

地を擦るように低く突進し、足元を掬い上げる勢いで飛び込む。

「馬鹿な子。その程度、避けるに決まってるじゃない?」

リリーナは軸をわずかにずらし、舞うようにかわす。

「──予測通りッ!」

胸に手を当て、風の棒弾を叩き込む。衝撃が体を流し、軌道を逸らす。

足が地面を掴んだ刹那、足先から再び《風の暴弾》が炸裂した。

「あぶなっ」

視覚の外からの強襲も、リリーナはあっさりとかわす。

ゼランは顔面から地面に叩きつけられた。

「今のはなかなか良かったわね」

カラカラと笑い、まるで遊びの延長のように楽しげだ。

「当たらなきゃ意味ねぇだろ、クソが!」

ペッと口に入った土を吐き出し、ゼランは悔しげに顔をしかめる。

くそ、また届かなかった。

「さ、約束どおり今晩はアンタが飯番だよ」

「約束してねぇだろ!!」

「じゃあ今した。さっさと作れ。あたしは肉を所望するよ」

戦いの余韻も何もなく、師匠は当然のように夕食の話を始めるのだった

「肉って……()()()()()()でいいか?」

いつものやり取りのはずだった。だが、リリーナの顔が歪む。

()()()()()()……ねぇ?」

紫煙を吐きながら、じっとゼランを見据える。

「お前……誰の好物と勘違いしてる?」

困惑するゼランの頭に、ふと別の光景が浮かんだ。

焚き火の上で煮え立つ鍋。

ホロホロ鳥の肉がほろりと崩れ、ヒルルク草の香りが湯気に混じる。

温かい匂いが鼻をくすぐり、仲間の笑い声が耳に届く──。

「……ミケル?」

名前が頭にちらついた瞬間、霧がかかったように記憶は掻き消える。

「なんだ、今の……」

困惑するゼランの顔を見て、リリーナの瞳が静かに揺れた。

笑みが消え、眉がわずかに寄る。その表情は、何かを決めた者の顔だった。

今夜──彼に、真実を告げると。


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