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竜を殺す者  作者: 東雲
”西の魔女”編

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20/25

ミギの実と疾風の刃

書けた順に投稿していきます!

「しかし……よく馴染んだもんだね」

魔塔の窓辺から、森へ向かって歩くゼランの背を眺める。

煙管をくゆらせ、ふぅと紫煙を吐き出す。

あいつをここに連れてきた時は、正直ギリギリだった。

“竜の顎”をもろに喰らい、全身に“竜血”を浴び、右目には呪いまで刻まれていた。

治癒の儀式に二日、鎮静の儀式に二日。

ようやく目を覚ましたと思ったら、生きる気力が残っていなかった。

気力がなければ、人は簡単に死ぬ。

だから、()()()()()()()()()

右腕に関しては──たまたま“古代人のミイラ”があったので、移植した。

右目の呪いは、使いこなせば武器になる。

だから、魔術で縛って使いやすくしておいた。

問題は、“竜血”の方だった。

“竜血”とは、瘴気の塊。

瘴気を長く浴びれば、動物は魔物と化す──王都の魔術学院がそう発表していたっけ。

そんなこと、知ってるわ。と言いたくなったが、黙っておいた。

長く浴びれば魔物になる。

では、大量に、瞬間的に浴びたら?──学者どもは知らないだろうね。

答えは“変質”だ。

魔物なら、より凶暴に、より凶悪に。

では人間は?

人が瘴気に長く当たると、魔術師になる。

瘴気を魔力に変換する能力が備わるからだ。

だから魔術師は、山奥や森の奥、辺鄙な土地を好む。

町中の魔術師?──あんなのは詐欺師だ。

……話が逸れた。

人が、大量に、瞬間的に瘴気を浴びると──魔物と同じように“変質”する。

瘴気を魔力に変換しきれなかった分が、骨を、筋肉を、臓器を、脳を……変質させる。

今のゼー坊は、言ってしまえば“真人(ハイヒューマン)”か“竜人(ドラゴニュート)”ってところか。

古代人のミイラも、良くなかった。

あれは瘴気が今よりずっと濃かった時代の人間だ。

馴染み方が、半端じゃない。

変質した身体は、年齢が進みにくい。

ヤツも、ここに来た時と見た目がほとんど変わっていない。

二年。十六の小僧が十八になったというのに、見た目が変わらないのは──異常事態だよ、まったく。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔塔の森を抜けてすぐのところに村がある。ミドラス村だったかな、とにかくのどかな村だ。

何度か薬を売りに行く魔女についていった記憶がある。

その村の先の川を渡った林の中に、ミギの実の群生地がある。

高級食材でもあるミギの実だが、高級な理由がちゃんとある。

まず、ミギの実は“亜竜種”の二足竜(ラプター)の好みでもある。

二足竜自体は中庸属なので、こちらから手を出さない限り敵対はしない。

……だが、ミギの実に限っては話が別だ。

まるで嫌がらせのように、攻撃を仕掛けてくる。

ちょっとひっかく、ちょっとかみつく、弱酸の唾を吐きかける──

「こちらから危害を加えなければ何もしない」と言わんばかりに。

実に、めんどくさい相手なのだ。


「さて、と……今日も何個か頂きますよ」

まるで盗人のように、ゼランはそろりそろりとミギの木へ近付く。

ミギは低木で、大人の腰ほどの高さになると実をつける。

苗を植えて量産したり、種から発芽させたり──そうしたことは何故か出来ない。

野生種しか存在しないのだ。

魔女曰く、「土の精と水の精が喧嘩しない土地なら、まあ根付くんだろうさ」とのこと。

味わいは苺に近い。甘酸っぱく、舌に残る。

果実は手のひらに収まるほどの小ささ──それでも一つで銀貨二十枚。

だからこそ、盗人のように採るしかないのだ。

一つ目の木には、青い実がいくつかぶら下がっていた。

まだ採れない。前に口にした時は、舌を刺すような苦味と、喉に残るえぐみが酷かった。

二つ目の木──あった。橙色の果実が二つ、丁度いい。

これなら一つは売りに、一つは薬に調合できる。

「よし、頂きますよ」

手を伸ばした瞬間、森に響くギャウという鳴き声。

二足竜(ラプター)だ。しかも三匹。

二つしかない実を巡って、お前らも取り合いになるだろうが──俺の分は譲らん。

腰の鞘から小刀を抜く。採取にも戦闘にも使える相棒だ。

小声で詠唱する。

「我が身は風、我が身は疾風、我が身は刃」

最も簡単で、最も原始的な付与術(エンチャント)。名前すらない。

だが、切れ味と刃こぼれを防ぐには十分だ。

逆手に構え、息を殺す。

三対一──森の空気が張り詰めた。


最初に動いたのは二足竜(ラプター)

左右に展開した二匹が、同時に飛びかかってくる。

「見えてンだよ!」

左の二足竜(ラプター)にはポーチから癇癪玉を投げつけ、爆ぜる閃光で牽制。

右の二足竜(ラプター)には逆手の小刀を振り抜き、鋭い爪と刃がぶつかり合う。

森に甲高い金属音が響き渡った。

すぐさま三匹目が飛び掛かってくる。

空いた左手を前に突き出し、魔力を込める。

「爆ぜろ、爆ぜろ──風よ、爆ぜろ!」

簡単な風の魔術の詠唱。

轟音とともに、ラプターの眼前で風が炸裂した。

「くそっ…魔法名まで言えなかったか…!」

本来なら首を弾き飛ばすほどの威力。

だが今は、ただの風塊を投げつける程度にまで減衰してしまった。

「ババァにどやされる…!それだけは御免だ!」

焦りはある。だが、冷静に対応する。

森の空気は張り詰め、ゼランの呼吸だけが静かに響いていた。

右手の小刀に魔力を通す。

付与術のおかげで、魔力の流れは驚くほど滑らかだ。

風の刃を伸ばし、腰の刀ほどの長さにまで拡張する。

この二年で身につけた、ゼランの誇りとも言える術だ。

小刀型の魔法発動器に付与術(エンチャント)を流し込み、刃そのものを変質させる。

小刀から両手剣まで──自在に形状を変えることができる。

他にも棒型の発動器を試作中だ。槍、斧槍、短槍……長物への応用を探り続けている。

おかげで、形状変化だけは誰よりも得意になった。

「疾ッ!」

腰だめの姿勢から、一閃──刀が風を裂くように滑る。

風の付与の力か、ゼランの技量か。真ん中にいた三匹目の二足竜(ラプター)の首が、鮮やかに飛んだ。

最後に飛び掛かってきたのが群れの長だったのだろう。三匹目が絶命すると、他の二匹は尻尾を巻いて森の奥へ逃げていった。

二足竜(ラプター)の素材……ありがたく使わせてもらう」

ゼランは落ちた首に手を合わせ、静かに一礼する。

そして刃を走らせ、皮を裂き、血の匂いが森に広がる中、手早く解体を始めた。

解体の手を止めぬゼランの背後に、紫煙がゆらりと立ち上った。


ありがたいことに300PVを超えました。

10人くらい読んでくれたら嬉しいなって思ってたのにユニークアクセスが142人!

ありがとうございます!今後もお付き合い頂ければ幸いです!

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