"互助会"の日常
この物語は、“竜”が災害として認識される世界で、ひとりの少年が“災厄”に名を刻むまでの記録です。
文字数は少なめですが、楽しんでいただけたら幸いです。
「でっけぇ竜だったんだってば!雲を割って飛んでったんだぞ!」
ファルが受付カウンターに身を乗り出す。
リゼは書類に目を落としたまま、ペンをくるくる回している。
「はいはい、でっけぇね。で、鱗の色は?角は何本?」
「……それは見えなかったけどさ……」
「ふーん。じゃあ“でっけぇ影”を見たってことでいい?」
「いや、絶対竜だったって!」
リゼはペンを止め、ファルの目をじっと見た。
からかい半分、でも真剣さも混じる視線。
「じゃあ、見たってことでいいじゃない。あたしも昔、見たことあるし」
「ほんとに?」
「うん。銀級の頃ね。遠征帰りに空見上げたら、雲の向こうにでっけぇ影。みんなで『竜じゃね?』って盛り上がったけど、結局確証はなかった」
「それでも、見たってこと?」
「そう。見たってことで、ちょっと誇らしくなった。で、互助会に帰って薬草仕分けして、飯食って寝た」
「……なんか普通だな」
「そうよ。竜を見ても日常は続くの。でもね、その日常の積み重ねが、いつか竜に届くのよ」
リゼはそう言って、ファルの薬草袋を受け取った。
「今日の分、合格。お疲れ、ファル君」
「おい、“雑草摘み”!竜見たんだって?でっけぇって、どれくらいだ?」
ドラン・ゴランが酒のグラスを片手に背中を叩く。重いが、痛くはない。
「雲を割って飛んでったんだよ!ほんとに!」
「ほぉ。じゃあ次は雲割るくらいの角兎でも狩ってこいよ」
「バァカ!俺は害獣退治から帰ってきたばっかだよ!」
「角兎だろ、今日のこいつの獲物は」
別の探索者がヤジを飛ばすと、ドランは肩をすくめて笑った。
「まぁ、無事に帰ってきたならそれでいい。なあ、リゼ」
「はいはい、鉄級さん。昼間から酒臭いのは減点よ?」
リゼが顔を出すと、ドランはグラスを掲げて応えた。
「減点されるうちが華だぜ。なあ、“ニュービー”」
ファルは少し笑い、グラスの代わりに薬草袋を掲げた。




