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竜を殺す者  作者: 東雲
”西の魔女”編

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19/25

魔女と弟子

ここから再度スタートです。


昔話に出てくる“悪役”といえば、決まって“魔女ウィッチ”だ。

呪いをかけ、毒を煎じ、怪しげな術を使って子供を攫う──まったく、都合のいい怪物だよ。

その空想のせいで、辺境や森に住まう魔術師は、今もなお迫害を受けている。

系統違いの魔術は“魔女のウィッチ・クラフト”と呼ばれ、忌避される。

だから“魔女”は人と関わることをやめ、隠者のように、世捨て人のように暮らす。


その中でも、私──“西の魔女”は、ひときわ変人として知られている。

占術を操り、怪しげな魔術を使い、薬や毒を作っては売り歩く。

自分が忌避されていることも、迫害の対象であることも、とうに理解している。

それでも人と関わるのは、そうする方が都合がいいからだ。

いつしか“西の魔女”は「良い魔女」などと呼ばれるようになったが──知ったこっちゃない。

他人のために力を使ったことなど、今はまだない。


勝手に弟子を名乗り、勝手に探索者になって、勝手に死んだ──あの娘は、最初から最後まで“勝手にやった”のだ。

私の知ったことじゃない。

……知ったことじゃないんだ。


だから、何年ぶりかにメールバードが飛んできた時も、無視してやろうと思った。

勝手にやらかしておいて、危なくなったら師匠に頼るだなんて──情けない。

けれど、その文面の短さに、ただ事ではないと判断した。

「緊急事態発生。助け求む」──それだけ。


ミルゼに向かってみたら、街はすでに滅びていた。

“竜”が、我が物顔で闊歩していた。

バーンの坊主との約定がある以上、手出しはできなかった。だから、ただ見ていた。

よりによって、“ヘイシン”だった。

あの享楽の化身め。破壊を娯楽にするとは、よくもまあ。

また好き勝手暴れよって……よくも弟子を殺してくれたな。


様子を見ていると、なんとあの“ヘイシン”に立ち向かう小僧がいる。

バーンの坊主以来か?

愚行と見るか、蛮勇と見るか、勇敢と見るか──それはまだわからない。

だが、その小僧は“ヘイシン”に名乗らせた。

“竜”が人に名を名乗るなど、虫に向かって自己紹介するようなものだ──極めて、極めて稀なこと。


おもしろい。

今のバンダイン王国に渡すわけにはいかない。

あの小僧、私が貰おう。私が育ててみよう。

あの馬鹿娘ができなかったことを、私がやってやろう。

“西の魔女”リリーナ・マーキュリーの名に賭けて──

あの小僧を、一端の戦士に仕立て上げてやろう。

あの小僧が、どこまで耐えられるか──見ものだ。

楽しくなってきたよ、本当に。


──そして二年が経った。

拾った小僧は、今や魔塔に住みつき、私を「クソババァ」と呼ぶまでに図々しくなった。

右腕は人間のものではなく、右目には呪いが刻まれている。

記憶は封じられているから、過去を思い出すことはない。

それでも、あの黒い竜の影だけは、彼の心に焼き付いているようだ。


「クソババァ!!俺の採ってきた“ドルマ草”と“ミギの実”、勝手に使っただろ!」

バンッと音を立てて、扉が乱暴に開かれる。

室内には、煙管から紫煙を燻らせる女がひとり。

年齢は──二十代か、いや三十代か。

美しい銀髪に黒のローブ。長く尖った耳が、彼女の“人外”を物語っている。


「ババァ?お姉さんと呼びな」

煙管の先をくゆらせながら、女は言う。

「あの“ドルマ草”なら、今ここにあるよ」

煙管の先に目をやると、火皿の中で“ドルマ草”が燻されていた。

「“ミギの実”は食っちまった。あんなとこに置いておくのが悪い」


悪びれた様子は一切ない。謝罪もなければ、反省もない。

それの何が問題か?とでも言いたげな態度。

“西の魔女”と呼ばれる彼女の性格は、傍若無人。

天上天下唯我独尊──悪い意味で、だ。


「食っ……お前、あれがいくらするか知ってんのか!?」

絶句するゼラン。

“ミギの実”といえば、市場価格で銀貨二十枚はくだらない。

卸値でも銀貨十枚は取れる高級素材だ。


「知らんね。私は興味がない」

魔女は一息ついて、煙を吐き出す。

そして、急に真剣な顔になる。

「それよりもゼー坊──着替えるから、外にお行き」


スイッと煙管を振る。

その瞬間、ゼー坊と呼ばれた男の身体が宙に浮く。

「自分で──」

言葉は最後まで発せられず。

彼は、扉の外へと吹き飛ばされた。


「クソっ…また取り直しに行かないと…」

西の魔女の住処、西の魔塔とか、賢女の庭とか、色々な呼ばれ方をしているが、ゼランからしてみればただの廃城である。

あの魔女に拾われてもう2年の月日が経った。

ここに来るまでの事は何も覚えていない。

自身の右腕が人間のものではないのも、右目だけやたら色々見えるのも、様々な武器が扱えるのも、何か理由があるのだろう。

しかし、覚えていないものは覚えていないし、思い出す事も出来ない。

覚えているのは黒い竜の影。

あれは一体何なのだろうか?


とりあえず、“ミギの実”と“ドルマ草”を再度採集しに行かなくては。

あれらが無いと、回復の水薬ポーションの精製が出来ない。

別に無くても構わいないのだが、あれが一番売れるのだ。

行商のおっさんが来るのが二日後だから…今取りに行ってギリギリ間に合うか?

「よし、行くか」

ボロボロの背嚢を背負って魔塔の門をくぐった


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