"竜"と出会った日
この物語は、“竜”が災害として認識される世界で、ひとりの少年が“災厄”に名を刻むまでの記録です。
文字数は少なめですが、楽しんでいただけたら幸いです。
エピローグ
この大陸には“竜”が存在する。
歩けば大地が震え、羽ばたけば突風が吹き荒れ、息吹ひとつで森が燃える。
“竜”は災害である。
災害に遭えば人は悲しむ。だが怒りはせず、憎みもしない。
ただ受け入れるしかない。
──それでも、過去に“竜”を打ち滅ぼした者がいた。
嘘か誠か、首を切り落としたという。
重ねて言う。
“竜”は災害である。人は災害に抗うことはできない。
しかし、もし抗ったなら。
その人こそが、災害となるのではないか。
“竜殺し”──。
彼は、どこにでもいる普通の少年だった。
ありふれた、ただの少年であった。
プロローグ 「竜と出会った日」
その日は、とても、とても良く晴れた日だった。
一昨日の大雨が嘘のように晴れ渡り、適度な風が吹き、過ごしやすい春の日。
草原を一人の少年が掻き分けていた。
少年の名は、ファル。辺境都市ミルドの互助会に登録して三日。
まだ“薬草摘み”程度の仕事しか回してもらえない。
“角兎”くらいなら狩れる力はあるのに、新米はまず薬草摘みから──それが“シキタリ”だ。
少なくとも一ヶ月は続けるのが決まりらしい。
ファルはしゃがみ込み、草をかき分けながら小さくため息をついた。
「またカミツレか……」
薬草袋はすでに半分ほど埋まっている。あと少しで今日のノルマは達成できる。
そのときだった。
地の底から響くような、低く重い音。
風が止まり、鳥のさえずりが消える。
草原の空気が、ぴたりと凍りついた。
ファルは顔を上げた。
遠くの丘の向こうに、何かがいた。
それは山のように大きく、空の青を裂く黒い影。
入道雲を引き裂き、悠然と頭上を通り過ぎていく。
「竜だ……!」
目を爛々と輝かせ、宝物を見つけた子供のように興奮する。
自覚している──“竜”を見たのだ。あの“竜”を!
この国では“竜”を見た者は成功すると噂されている。
“遭う”でも“対峙する”でもなく、“見る”こと自体が稀なのだ。
「すげぇ……でっけぇ」
遥か上空を悠々と飛んでいく竜の影を見送りながら、少年ファルは薬草摘みの仕事に戻った。




