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第9話 マネージャー

「それでは蓮さん、今日の配信ですが――」


 四ツ谷ダンジョンの1階層。レンタルスペースの打ち合わせテーブルで、マネージャーの衛藤と向かい合う。


「昨日できなかった自己紹介と。あとは定番の装備紹介がいいでしょうね」

「――うん」

「いきなり【ダンジョンカラオケ配信】なんかもギャップでウケると思うんですけど」

「無理」

「ですよねー。じゃあ料理とか?」

「まあ、それくらいなら……したことないけど」

「蓮さんの強みを活かすなら、もちろん戦闘でしょうけどね」

「うん」

「昨日のバンデット・オウガとの戦闘。いい感じにバズってますからね」


 メインにしている動画配信サイト【Wave(ウェーブ)】のコメント欄や、蓮の配信を再編集した切り抜き動画。戦闘の様子を分析した解説動画。それから、SNSの投稿――。




★Waveコメント欄

・初配信お疲れさまです!ファンになりました!次の配信待ってます!

・アイビスの新人としては、もう少しトークに力を入れるべきですが、年齢を考えると仕方ないかもしれませんね。今後に期待です。

・かわいい!好き!

・戦闘シーンだけは見ておくべき。これは伝説になる。



★切り抜き動画:急上昇ランキング

2位

衝撃の初配信!? JKお姉さんに付き添われてガチガチ(意味深)のまま自己紹介する遠野蓮【アイビス/遠野連】


5位

アイビスの新人が小っちゃいけれど大物すぎた!?【アイビス切り抜き】


6位

【検証】中学生配信者は10階層モンスターを倒せるのか?【疑惑】



★SNSの投稿

・なんやこの新人ww

・ユニット組ませてあげたほうが良さそう、カレンあたりだと上手く回してくれそう

・はー好き!弟にしたい♡

・女の子がレギュラーになるならフォローするわ。胸デカいし!

・もっと戦闘見てみたい。魔法次第かな。

・アイビスの方針が変わって来たのを感じる。初期のころのように、戦闘能力で選んでいるのかもしれない。この流れは歓迎したい。



 衛藤が見せてくるそれらを眺めながら、蓮はミーティングに応じる。


「10階層のモンスターに遭遇してしまったせいで、蓮さんの強さまで『やらせじゃないか』なんていう輩もいますが。――これは、絶対に許せませんし許しません」


 語尾に殺気を込めながら衛藤が言うが、蓮は、彼女のように熱くはなっていない。


「まあ、そのうち分からせてやればいいし」

「そのうちなんて甘いですよ? 私がすぐに裏アカで論破して黙らせてますから、安心してください」

「……逆効果じゃ?」

「片っ端からエゴサして、データとロジックでボコボコに殴ってます。効果はてきめんですよ……フフフ!!」


 メガネの奥で衛藤の目が血走っているのは、徹夜でネットにかじりついていたからだろうか?


「――というか蓮さん」

「?」

「今日は打ち合わせにも積極的ですね?」


 そんなつもりはなかったが、確かに我ながら素直に応じている気がする。


「…………。あそこと比べたら……」

「?」


 あの四面楚歌な状況と比べたら。年上の、テンションの高い女子高生に囲まれて質問攻めに遭うのと比べたら――面倒だと思っていた衛藤とのミーティングのほうが、幾分か落ち着く。


「バズるといえば、昨日の女の子も人気になっちゃってますね。うーん、どこの誰なんでしょう。配信者ではなさそうですがねー」

「…………」


 そういえば、結乃のことは衛藤に報告していない。

 あくまでダンジョン内で別れて、学校名も分からない――という情報までしか伝えていない。


 ふと、朝食のあとのこと、結乃を見送った光景を思い出す。


〝行ってきます――〟


 笑顔で手を振る彼女のことを思い出すと胸が締めつけられるのだが――これは何なのだろうか。寮に残る選択をしたことと、大いに関わりがある気がするが。


 社長からの申し出も正式に断ってしまった。これで良かったのかは分からないが――意外と昨夜はぐっすりと、久しぶりに熟睡できた気もする。


「あの子の人気も利用できるといいんですけど」

「言い方……」

「何でも使うんです。あ、チャンネル登録者、8万人行きましたよ!」

「凄さがよく分からないけど」

「凄いですよ!」

「……アイビスの新人って、簡単に増えるって聞いたけど」

「初動は確かにいいです」


 人気配信者が多数所属する事務所だけに、新人が現れると、配信前であっても登録者はぐんと増える。いわゆる『箱推し』と呼ばれるフォロワーも多く、アイビス所属というだけで無条件に応援してくれたりもする。


「しかし蓮さんの場合、あの配信時間の短さ、内容、ファンサの悪さ――それでこの登録者はヤバイです!」

「ファンサービス……」


 そんなもの、一生かかっても上手くできそうにないが。

 

「あ、蓮さんのキャラもウケてるんですよ? 共感する男性もいるようですが、人気なのは特に女性から――アクセスを解析したところ、十代後半から二十代のお姉様がたから、『可愛い』と」

「可愛い……は、嬉しくないな……」


 人気者になりたいわけではないが、どうせなら『カッコいい』のほうが嬉しい。


 ダンジョン配信は特に二十代までの層に人気のコンテンツだ。そう考えると、衛藤の解析が正しいなら、確かに伸びる要素にはなりそうだ。


「蓮さんは、謎に年上キラーですからねぇ。ま、調子に乗りすぎる過激なファンは、反転アンチになる前に私が裏で抹殺しますけど……」

「?」

「いえいえ、なんでもないですよー。ただ、社会人の武器は根回しと政治力と、お金ってだけの話ですー」

「……? なんでもいいけど」


 よく分からないミーティングもそこそこに、蓮は今日も配信のために2階層へ向かうのだった。



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