第75話 試験③
「シイナの代名詞、【夜嵐】を前に遠野蓮の【荒ぶる海神の槍】、すべて撃墜されました!!」
配信で実況の声が響く。
・マジかよ蓮くんの必殺が
・これがシイナ様よ!!
・豚ども歓喜感涙です!!!
・遠野だけじゃなくてこっちも魔王だな
・魔王vs魔王やんこんなの!
・アイビスってこんなレベル高いんか……!? 知らんかったわ……!
「形勢逆転、今度は遠野蓮が防戦一方です!」
膨らみ続ける風の結界による殴打、斬撃。飛来する瓦礫。そして何より、シイナの双銃から放たれる風の凶弾。
「いやいや、よく防いでいるでござるよ!」
解説のキューゴも興奮しっぱなしだ。
「夜嵐は乱戦に向いたスキルでござるが、1対1でも当然脅威! あの暴力がすべて1人に向かうのですからな!!」
「大きなダメージを負っていない遠野蓮も、また化け物ということですね……! しかし、反撃の糸口は掴めるのでしょうか!?」
・蓮くんさんならやってくれる!
・いやもう充分やっただろ、ここで負けても試験は合格ちゃう?
・そんな性格じゃない、っつーか蓮くんが負けるワケない!
・信者さんたち吠えてるねぇw 若いうちから敗北を知るのは大事だぞ?w
【双銃の舞踏家】の称号を持つシイナ。嵐の中の激しい舞踏に合わせ、次々と発砲する。
蓮は回避行動を取る。
重力魔法を活用した瞬動。黒翼を触腕のように使い、地面を掴んで体勢を変え、片手剣を振るい、四方八方からの攻撃に対処するが――
・ジリ貧やな
・まあようやったよ
・最強とか言われてたから見て見たけど、普通だったな
・上位陣には敵わんよね
・お!? シイナが……!
乱流の中でシイナが、その細い腕をぐんと伸ばして銃口を揃え――キリキリと照準を合わせる。
「【夜嵐】――――」
シイナの双銃は、風魔法を一定以上の威力で安定させられる特注武器。最低ラインの威力を担保する武器だ。だが、《《上限はない》》。
「凶星」
双銃から放たれる、最高威力の弾丸。
標的を追尾し必ず撃ち抜く、2つの禍つ星。
「――――ッ!」
蓮はとっさに足を止めて防御態勢に移行。
顔の前で剣を縦に構え、さらに黒翼で前方を覆ってガード――そこに、2発の弾丸が直撃する。
「………………ッッ!?」
黒翼を貫き、ブロードソードの刀身を、《《削った》》。弾丸はそれで逸れたものの――
・なんだ今の!?!?
・ひぇえ!?
・剣が欠けてるが……!?
・よく防御しきったけど……さすがに終わりか
「フン――――」
シイナは何事もなかったかのように夜嵐を維持する。
「武器破壊まで――!? これは遠野蓮、万事休すか!」
「シイナ殿はまだまだ余力はあるでござるからな。あの銃弾、いくらでも撃てそうでござるよ!」
「……ハ、アハハ」
「!? 遠野蓮、笑ってますか?」
「むむむ!?」
・蓮くん壊れちゃった?
・やっと敗北を受け入れた感じか
・受け入れられずにバグってんじゃね?w
だが蓮は、欠けたブロードソードの切っ先をシイナへとかざして、
「――やっぱり、接近するほうが早いかな」
・なんでまだイキってるんだ
・万策尽きたんだろ
マキ・テクノフォージの工房から提供されたこの剣は、ひたすら魔力伝導率だけを追求した一振りだ。つまり、蓮の魔力を余すことなく隅々まで行き渡らせることができる。
そこへ、蓮は――
「【創造の炎】」
《《2属性》》の魔法を注ぎ込む。
・なんだ!?
・剣が、燃えてる!?
炎が片手剣を丸ごと包む。その灼熱は、鋼鉄をも溶かす。
――ガィンッ、ギィンッッ
「こ、これは何の音でしょうか!?」
「金属音……!?」
――ガインッッ、ガギンッッ
「ブロードソードの形が……炎の中で変わっていきます!?」
工房で閃いた新たなユニークスキル。
鍛冶――とは少し要領が違うが。
「炎魔法は分かりますが――」
「……まさか、重力魔法でござるか」
「え」
鉄を鍛える火造槌の代わりに、重力魔法の打撃を加える。
創造の炎。
片手剣を基礎として、新たな武器を造りあげる。
だが、それを待ってくれるシイナじゃない。瓦礫と銃弾を蓮へとけしかける。
「炎の剣で――斬る! 斬り払っています!!」
「ま、待つでござる!? 刀身が、大きくなってござらんか!?!?」
・あれって瓦礫も溶かしてね!?
・取り込んでるんか!
・蓮くんの得意属性! 重力と炎だ!
・蓮くん、夜嵐に突っ込むぞ!?
「遠野蓮、炎の刃で夜嵐を切り裂いていきます! 止まらない、止められないぞぉッ!?」
防御は黒翼で。【創造の炎】で道を切り拓く。
「…………~~~~ッッ!?」
蓮の炎は、シイナの銃弾すら食う。
切り裂いた風も、その魔力を取り込んで自身の刃に変える。戦えば戦うほど、戦い続けるほど強大になる蓮の刃が――シイナに届く。
夜嵐の中心部へと地を蹴り、【創造の炎】を振るう。
「くッ!」
その斬撃を、シイナは渾身の蹴りで迎撃した。
――ギャリィンッ!
蓮のスキルで酷使され限界が近かったブロードソードが折られ、【創造の炎】が消滅する。だがシイナのピンヒールも折れたうえ、蹴りに全霊を込めたために【夜嵐】も解除された。
「――――っ!」
「――――ッ!」
着地は同時。バランスを崩して膝を突いたシイナの、右腕が跳ね上がる。拳銃の銃口が蓮を向く。
左の手刀でシイナの手首を打ち据え、
――【スタンスティール】
電撃に開かれ硬直したシイナの指から、拳銃を奪い取る。
シイナの反応も速かった。
もう片方の拳銃で、躊躇なく蓮の顔面へと発砲――風の弾丸はしかし、蓮の皮膚すら切り裂けなかった。首をひねって躱した蓮の、黒い髪だけが虚空を舞う。
その刹那の間に、蓮は奪取したシイナの銃を眉間に突きつけていた。見よう見まねで生成した風の銃弾を装填して。
「…………」
「…………」
しばし互いに無言で視線をぶつけ合ったが、やがてシイナが小さくため息を吐き出した。
厳しい表情のまま、けれど、どこか憑き物が落ちたような顔で言った。
「…………私の、負け」
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