第53話 反響:ニック
◆日本 東京都 現地時間 21:18
「みんな聞いてくれ!!!」
彼――米国のライブストリーマー・ニックは、四ツ谷ダンジョン近くの公園で配信を開始した。
・やあニック!
・おや? その景色は……
・やはりこの日程だったか
・もしかして東京かい?
「そうだよ東京だ! 憧れの街さ! そして僕はとんでもない経験をしたんだ!」
・アイビスのレンに会えたのか
・とんでもない経験だって?
・念願の記念撮影か
「【ニンジャ】だ! ニンジャは居たんだよ!!」
・??
・レンはニンジャだったのか?
・日本の配信者にはそういうクラスがあるということだろうか
「違うんだ! レンには会えなかったけどニンジャだ! 僕は《《ニンジャされた》》んだ!!」
・ニンジャされた、とは?
・まずは落ち着くんだ
・興奮しているということだけは分かる
「そうだね、順を追って話そう……! 僕とニンジャの話をね!」
・レンはどうした?
・これは期待していいのか困惑すべきなのか
・LMAO
・いつも以上の奇行だね
ニックは先日、蓮の配信を見てから訪日を決め、実行に移した。
成田空港に着くなりまずはSNSをチェック。蓮がちょうど本日開催のイベントクエストに参加することを知り、急いで四ツ谷ダンジョンに直行したのだった。
「東京観光もしたかったんだけどね、まだ早朝だったし、何よりレンに会うのが先決だと思ったんだ」
・それは間違いない
・ニックにしては正常な判断だ
・ここまではニンジャが割り込む隙はないね
「そこでニンジャさ!!!!」
・それが分からない
・彼は時差ボケなのか?
・きわどい薬を服用しているという噂もある
「いやね、僕は始発電車に揺られて【ヨツヤ・ダンジョン】に到着したのさ! そしたら……これは運命だと思うんだが、トーノ・レンがダンジョンに入るところだったのさ! そこで僕は走ったね。スマートフォンを片手に、彼へとアタックをかけた!」
・不審者だね
・危険人物とみなされる
・目に浮かぶよ、狂喜しているニックの姿が
「するとだよ!? 歩道を走っていた僕の体が、ふいに細いビルの隙間へと引き込まれたんだ! 僕自身すら気づかないほどに、スルリとね!」
・ほう?
・警察か?
・日本の治安は良いと聞いていたけれど
「驚くことに、僕の体は逆さ吊りになっていた! あらためて言っておくが、そこはダンジョン内部ではない、普通の町並みさ。なのに僕は『何者か』の手によって、あっさりと拉致されて、空中に浮かされていた!」
・夢でも見ていたのでは?
・まさかそれが……
「そうさ、ニンジャさ! 相手はおそらく1人! しかも姿も見せないんだ! 早朝の路地裏、薄暗いその空間のどこかに溶け込んで、僕がどれだけ叫んでも、目をこらしても……まったくわからない! でも相手の声だけは響くんだ――『おはようございます、ミスター』とね!」
・その人物も配信者か?
・話を聞いていたかい、そこはダンジョン内ではないんだよ
・魔力を使わず、そんな芸当が可能なのか?
・ニンジャは〝ニンジュツ〟を使えるらしい
「まさにニンジュツ! 僕を宙づりにしたその彼は――いいや、男性なのか女性なのか、日本人の声を生で聞く機会は少ないから判然としないけれど……ともかくその人物は続けたんだ。『マスター・トーノを応援するのは構いません。ですが節度を守って。約束できますか?』、と!」
・クールなニンジャだ
・紳士だね
・命までは取られなかったか
「ああ! これも驚くことに、そんな乱暴をされたのに、宙づりから解放された僕の体には、ひとつの傷もなかったんだ! ひとつもだよ!? かすり傷さえね!」
・神業だ
・日本人らしい気づかいだ
「僕は感動してしまったよ! その人物は、トーノ・レンに忠誠を誓っているニンジャだったのさ! やはり彼は只者じゃなかった……!」
・肝心のダンジョンはどうなったんだ?
・レンのストリームは?
「ああ、そっちも最高だったよ! 無謀にもレンに挑んできた下品なヴィランがいたんだけれどね、見るも哀れに撃退されていた!」
・僕も見たよ
・あれは痛快だった
・テクニカルだったね、物量ではなく技量で上回っていた
・あれこそ、実力の何割も使っていなかっただろう
「レンなら、目をつぶっても勝てる相手だったね。ヴィランのやつは本当にもったいない。あんな良い装備を持っているのに! 僕はああいうタイプが一番嫌いだね! 宝の持ち腐れさ。しかしレンには、もっと骨のあるライバルが現れてくれるのを望むよ……そんな相手がいればだけどね!」
・アイビスのシイナなら面白い戦いをしてくれるかもしれない
・彼女の乱数戦闘は、スタンピードを制したレンともいい勝負になりそうだ
「うんうん、そうだね。……そうだ、今度はアイビスの事務所にでも突撃してみようかな? 日本の素晴らしいストリーマーがそろっているからね!」
・彼はまだ懲りていないようだ
・またニンジャされるぞ
・グッバイ、ニック
「いやぁ、今からワクワクが止まらないね! 次こそはライブストリームでこの興奮をみんなに届けるよ! じゃあね!!」
これが彼の最期の言葉に……なったりならなかったりしそうだった。
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