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蝶々姫シリーズ

【ラゼリード誕生日2024】吾輩はポッチリ二世である【短編】

作者: 薄氷恋

─世界暦???年─

「戴冠」で登場したポッチリの忠誠心と、その後ラゼリードと再会する話です。

言うほどラゼリードは出ていませんが

2024年ラゼリード誕生日書き下ろしです。

 私は猫である。名前はポッチリ。

 幼かった私にラゼリード様という幼い姫君がつけてくれた。

 由来は額のど真ん中に黒ブチが「ぽっちり」とあるかららしい。自分では見た事がないから分からない。

 ラゼリード様は毎日、城の厨房係から魚をもらっては、私に与えてくれた。

 今思い出しても旨い魚であった。じゅる。おっと、思い出しヨダレが。


 しかし、こっそり私を飼ってくれていた日々も終わりを告げる。

 いつものように姫様から魚を貰い「ぶにゃ~ん」と猫なで声を上げた瞬間、侍女にホウキでぶっ叩かれた。

(なにをする!)

「やめて! 何をするの!?」

「王妃様の命令です! 猫は生かしておくなと!」

 ラゼリード様はすぐに私を小さな身体で庇ってくれたが、これでは主が怪我をしてしまう。

 私はラゼリード様の腹の下から逃げ出して森の奥へと逃げた。


 振り返ると、ラゼリード様が斜面に向かって落ちる所だった。私は悲鳴を上げた。

「ぶにゃ~ん!!!!」

 危ない、と声を掛けようにももう遅い。

 しかし、そんな時に奇跡が起きた。

 火が。火がツンツン跳ねた髪を持つ少年の形を取ってラゼリード様の胴周りに腕を回すと、空いている片手で斜面の下に火を放ち、ラゼリード様諸共姿を消したかと思うと、斜面の下へ降りたったのだ。


「ぶにゃ!?」

 未だにあれはなんだったのか分からない。


 とにかくラゼリード様は助かり、その翌日から城が騒がしくなった。

 どうやら猫嫌いの王妃が亡くなったらしい。

 それならまたラゼリード様は私に魚をくれるだろうか?

 しかし、いくら待ってもラゼリード様はもう厨房から魚を持って出てくる事は無かった。

 飢えた私は厨房のごみ捨て場を漁った。

 惨めだった。


 そのうち、私をホウキでひっ叩いた侍女がお仕着せの腕に喪章?というのか?

 兎に角、黒い布を肘の上に巻いた侍女が、バツの悪そうな顔で厨房から出てきて魚をくれた。

 主はラゼリード様と決めている。

 私は魚をすぐには口にせず、侍女がしびれを切らして地面に魚を放り出すのを待ってから、サッとくわえて走り去った。

 侍女は悔しそうに悪態をついていた。


 ねぐらで魚を食べていると、ラゼリード様を思い出して泣けてきた。

 あの方はもう私に興味が無いのか?

 悲しくて、ぶにゃー、ぶにゃー、と鳴いていると声を聞きつけたのか黒猫の雄が近くにやって来ていた。

(何故鳴いている? 悲しいのか?)

(悲しい! 主に捨てられて悲しい!)

(俺は野良だから捨てられた気持ちは分からないが、寂しいのは解る。俺が側にいて、餌の取り方を教えるよ)

 そうして私は一匹ぼっちではなくなった。


 長い年月が経過した。


 私が黒猫との間に産んだ仔猫達も大きくなり、孫も、曾孫も、産まれた。

 どういう訳か、産まれた仔猫の中には一匹は必ず額に「ぽっちり」と黒ぶちがあるのだが、惜しい事に私と寸分違わず同じ位置にある子はいなかった。


 そして、黒猫に看取られて私は逝く。

 生まれ変わったらまた「ポッチリ」と呼ばれたいと願いながら。


 ◆◆◆


 暖かな場所に居たと思ったら急に寒くなった。

 私が寂しくて寒くて、ぶにゃー、ぶにゃー、と鳴いていると

「うわぁ、可愛いなぁ」

 と、誰かが私を拾い上げた。

 そのまま運ばれる。


 ◆◆◆


「モニ、ちょっとどうにかならないかしら?」

「なんだ? いきなり」

 目が開かない。眩しい。

「ヨルデンがわたくしの誕生日の贈り物にと、産まれたばかりの目も開いていない仔猫を拾って来たの。それが以前飼っていた「ポッチリ」にそっくりな黒ぶちの猫で……わたくし、放っておけなくて!

  でも誓ったの、母様が亡くなった時にもう猫は飼わないって」

「あぁ。それで俺か、俺の近しい人に飼って欲しいと」


(ポッチリ! それは私の名だ!)


「ぶにゃー」

「あら、鳴き声までポッチリね。なら決めたわ、お前の名前はポッチリ二世よ!」

「おい、俺が飼うのに何故ラゼリードが名付けるんだ? 別に構わないが」


(ラゼリード様! ラゼリード様! 貴女のポッチリですよ!)

「ぶにゃあ、ぶにゃあ」


「ポッチリってこんな不細工な鳴き声だったか?」

「え?」

「いや、なんでもない」


 私は力を振り絞って目を開ける。

「あ。目が開いたわ!」


 仔猫のうちは目が開いても見えてはいないと云う。

 だが、私は見た。


 幼かったラゼリード様は白銀の髪と、紫と赤の色違いの瞳を持つ美しい女性へとお育ちになられていた。

 髪と目の色が変わっても私には解る。

 我が主、ラゼリード様だ。

 その隣にはツンツン跳ねた黒髪と暖かい気を持つ赤目の青年。


 とてもお似合いのお2人だと思った。


 何故なら私は察したのだ。

 この男性は幼いラゼリード様を何らかの方法で助けたあの火の少年だと。


(ありがたい、ラゼリード様にまた会えた)


「ぶにゃー、ぶにゃー」

「お腹が空いているのかしら?」

「参ったな、仔猫用に牛の乳でももらってくるか」

 

 カツカツカツカツと聞いた事が無い音を聞いた。

 

「おや? 仔猫の声がするね」

「父上!? どうしてミルクの入った哺乳瓶やら猫じゃらしやら猫の好きそうなものを両手いっぱいに抱えて俺の執務室へ!?」


(うるさくなりそうだにゃー)


 そうやって鳴き疲れた私は目を閉じて、先程の青年より更に熱い手に抱っこされながらミルクをおなかいっぱい飲んだのだった。


 暫くして毎日ミルクをくれて、遊んでくれるアゴ髭ではなく、名義上の飼い主のツンツン頭が

「ありがとうな、ポッチリ二世」

 と、礼を言ってきた。

「ぶにゃあ?」

 彼は私の頭を撫でながら頬を赤くする。

「お前のお陰で、毎日ラゼリードが俺の所に会いにくる。お前には感謝してもし切れない。例えばそう『ポッチリ二世が歩いたぞ』『ヘソ天も見せてくれた』なんて言った日には……」

「本当!? モニ?!」


 バタンと、窓が開いて我が主ラゼリード様が飛び込んでくる。

 

 猫なのにいいダシにされたにゃー。

 私はコテンと床に倒れてヘソを見せてお手上げした。



 ─完─

猫のヘソ天にキャーキャー言うラゼリードが見えますか?

これ現代ならスマホで連写または、録画してますよ……。

誓いはどうなった、ラゼリード。

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