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第七話 魔を断つ刃

 結論から言えば、ゴールドフィールドの『極点爆エクストリームバースト』は火属性魔法としては強力ではあるが、使いどころの難しい魔法だった。


 魔神化した巨体はそれだけで大きな武器ではあるが、僅かにデメリットも存在する。その点を連也は見抜いていた。術の発動よりも先に、ゴールドフィールドの巨体の足元へと一瞬で踏み込んでいたのである。


「その魔法は強力だが、果たして己の足元で発動出来るのかな?」


「ぐッ───────貴様ッ!」


「魔神の巨体が仇となったようだな。圧倒的な体格差は時に、間合いの内側に大きな隙を生む。如何に強力無比な力を得ようとも、その使い手に思慮が足らねば諸刃の剣となろう」


「我を愚弄するか!」


 自爆覚悟で足元に範囲魔法を炸裂させる思い切りの良さは、ゴールドフィールドは持ち合わせてはいなかった。


「その熱量は、この涸れ川の底の地下水の熱を奪って生み出したものだ。つまり今、貴様の足元の地中の水分子同士が水素結合により膨張する。体積が増えると地表面はどうなるか───────クーナ!シヴィル!そしてアステリオス!『合成術法コンポジットファンクション』だ!」


 連也の掛け声にクーナはともかく、つい先程まで敵対していたアステリオスが応じるのか。


「大地の咆哮よ!」


 しかしアステリオスは目の前の邪悪に、反射的に動いた。


「甦れ水の迸りを!」


 続いてクーナが水属性魔法を上乗せする。


「凝結せよ天の疾風!」


 最後にシヴィルが風属性魔法で地下のメタンを凝縮し、凝縮熱反応によって瞬間氷結を引き起こす。


合成術法コンポジットファンクション』は複数の属性魔法を掛け合わせる事により、より強力な魔法を行使する高等技術だ。一人で複数属性を掛け合わせる事も可能だが、膨大な魔力消費を要する為、複数人で協力した方が効率が良いとされる。


 通常、多くの者は一種類の属性魔法への適正があり、複数の適正を持つ者は稀である。


 クーナは水属性に高い適正を持ち、シヴィルは風属性、アステリオスは土属性に高い適正を持つ。


「「「『鎮魂氷結獄アイシクルレクイエム』!!」」」


 三者の魔力がひとつとなり、ゴールドフィールドの足元から数多の氷柱が大地を貫く!


「ええい、鬱陶しいわ!──────『焦熱波スパーキングインフェルノ』!!」


 ゴールドフィールドは不発に終わった『極点爆エクストリームバースト』の熱量を再利用し、自身の周囲を駆け登る火炎の渦を生み出す事によって氷柱の数々を吹き飛ばし、同時に連也を巻き込もうとした。氷結空間は熱放射によって相殺された。


 空間に満ちる、無数の氷塊。


「──────何ぃッ!?」


ゴールドフィールドの六つの眼に映る、光速の軌跡。


「──────秘剣・撃掛無間うちがかりむげん──────」


 それは尾張柳生、江戸柳生に伝わる口伝に無いものであった。まず、『跳ぶ』という動き自体があり得ないのだから当然と言える。地面が無ければ体を落とす先が無く、力は入らずに太刀は切れ味を無くす。


 『撃掛無間うちがかりむげん』とは、かつて誰にも伝えられる事の無かった幻の秘剣なのである。対人戦闘を想定したカウンター剣術である柳生新陰流は、人間相手を想定した剣術である。『魔神』を想定した剣など誰にも伝えられる事は無かったのである。『魔神』が地面を揺るがし、無数の岩盤を周囲に弾き飛ばす事を前提とした秘剣。そもそも対人に使いようが無いのである。


「──────」


 連也はゴールドフィールドによって粉砕され、中空を無数に埋め尽くしていた氷の足場を縦横無尽に跳び、三十一勢の無限大の動きが円環となって包囲殲滅を成したのだ。つまり、ゴールドフィールドの巨体は賽の目の如く細切れになって分解された。


 まるで閃光を伴って球体のグリッドが茹で卵を縦横にスライスしたような光景に、クーナたちは圧倒された。


「……な、何が起きたの?」


「私にも早すぎて、レンヤ殿が氷塊を足場に跳んだところまでしか見えませんでした」


「これが『七英雄』の力なのか…」


 敵であった筈のアステリオスでさえ、事の成り行きに呆然としていた。


「我ら柳生、魔を断つ刃となりて転生てんしょうせし者なり」


 細切れとなって大地を真っ赤に染め、蠢く肉片。しかしやがては硝煙を残して朽ち果てる。痕に残されたのは怨嗟の轟き。


「──────お、おのれ、口惜しや。しかし、忘れるな。力を蓄え、いつの日か必ず復讐してやる!それまでしばしの別れよ──────」


『賢者』ゴールドフィールドの思念は霧散し、『魔神』による強烈なプレッシャーは何処かに消え失せた。


 一瞬の静寂のあと。


────────────うおおおおおおおおおおッ!!!!────────────────


 両軍の兵士たちが、一斉に歓声を上げた。このような人知を超えた戦いを見せられたら、人間同士の戦など馬鹿馬鹿しくなって彼らは戦う事を止めたのである。


「よ、よかったわぁ。もうダメ。魔力切れよー」


「レンヤ殿ぉ!よ”、よ”よ”よ”、よ”ぐぞ、ごぶじでぇええええっ!」


「……なんかあなたたち、距離感近くない?」


「そ、そんなことは、ないんじゃないかな」


 力が抜けてその場にへたり込んだクーナと、感極まってガン泣きで連也に抱きつくシヴィルであった。

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