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ソラニカの王子



ウィリアムと話せば分かるかもとか、ノルンと話せば婚約破棄できるかもとか、どれも宛が外れている。

それどころか、ノルンの言葉が本気なら、婚約がまとまってしまう危機が迫っている。

ノルンが幻術を使っているのなら、対話は無意味ということでもある。


手詰まり感が、否めない。


「お嬢様、最近何かお悩みではありませんか?私でよければ、相談していただけませんか?」


「ローナ…」


捨てる神あれば拾う神あり。

流石はローナお姉さま。



ーー


「ノルン様と円満に婚約候補の話を破棄したい、ですか。それにノルン様に嫌われていて、苦しませるために婚約を望まれていて、話し合ってもらえないと。」


ローナお姉さまは、私の要領を得ない話に、大真面目に考えてくれる。


「にわかには信じがたいですが、お嬢様の言うことですから、事実なのでしょう。その上でアイディアですが…」


ローナは、3つの提案をしてくれた。


「ウィリアム様と協力して、ノルン様と誰かの婚約をプロデュースするという手はいかがでしょうか。いざとなったら、ウィリアム様と良い関係という誤解を生めば、ノルン様もお嬢様との婚約をご遠慮されるのではないですか?」


ウィリアムが協力してくれるかがネックだけど、誰かほかの相手を推薦してしまうというのはありかもしれない。


「そして2つ目ですが…国外に逃亡されてしまう、というのはいかがでしょうか。具体的には居城を移すということですね。フローリカの別荘には、相当遠方の場所もあります。ノルン様は国王となられますから、アルガーデンから居城を移せません。婚約は避けられなくても、ほとんど関わらないということは可能かと思います。」


私は首を振る。

幻術を使えるノルンには関係ない気がするからだ。


「では…3つ目ですが…どなたかと婚約してしまってはいかがでしょうか。相手が見つからないのであれば、仮面夫婦として、どなたかに演じていただくとか。レミリア様のお相手が益々見つからなくなるかもしれませんが、少なくともノルン様とのお話は消えるのではありませんか?」


ローナの言う通りだ。

ソルトや紅蘭のように本気で婚約を考えている人に勢いで頼み込むことは、正直難しい。

私はその辺りの考えが甘かった。


それなら、お互いにビジネス的に婚約して、終わったら破棄してくれるような相手を見つけるのがいいかもしれない。


「どんな相手が良いと思う?」


独断で決めては、また息詰まる気がした。

ローナの案を聞いておきたい。


「そうですね。口の堅い相手が良いでしょうね。それから…誠実な方が良いですね。」


義理堅く誠実な人。

それでかつ婚約と婚約破棄を許してくれそうな人。


そんな人いるかなあ。


「お嬢様、この件、このローナにお任せいただけませんか?」


ローナなら、何とかしてくれると思う。

私は昔のように、ぶんぶんと頷く。


ーー



両親に土下座を決めて、偽の婚約話をでっちあげることにした。

当然両親は露見したらどうするとか、破棄された状態で相手が見つからなくなったらどうすると大変抵抗したが、ローナの言葉で丸く収まった。


「婚約ではなく、婚約の噂を流し、お嬢様をしばらく他国に逃がします。」


「そんなの、王家にはすぐばれるんじゃないか?」


「ですので、南の禁制区ジャッカルの王子ルーメス様との婚約という噂にします。」


ゲームでは全く聞いたことが無いけれど、この世界で暮らして居ると時折聞く。

大陸の特に大きな4国が、アルガーデン、グリニア、古群、そしてソラニカ。

ジャッカルはソラニカにある禁制区と呼ばれる地区で、外界から閉ざされ、ソラニカの王族のみが暮らして居る場所らしい。

王族を神聖視しているから、彼らが穢れ無いために山奥に篭っているとかで、内部の情報は一切漏れない謎多き地域だ。


「実際には、ルーメス様に会いに行き、教えを乞うてはいかがでしょうか。後学のために良いでしょう。」


母は納得していないようだけど、父はそれに唸る。

ソラニカの王族との関りには興味があるのだろう。


「ツテはあるの?」


母が、当然の疑問を言う。

外界と交流を断っているジャッカルにアポを取る方法なんて見えないだろう。

私にも、心当たりはない。


しかしさすがはローナだ。


「実は…私は以前、そちらにお世話になったことがあります。ですから、問題なく入れるかと思います。」


結局、ただの噂であれば失礼に当たることもないとして、両親は認めてくれた。

ローナのテキパキとした仕事で、私は次の週にもジャッカル行きの馬車に乗り込んでいた。



ーー



禁制区の中は、非常に懐かしい景色が広がっていた。

前世で生まれた日本に似ていたからだ。


山の上にある神社のようなそこには、僧侶のような人々が集まっている。

彼らが王族であることは、信じられない気持ちになるけれど。


流石にルーメス様は、剃髪などはされていなかった。


「はじめまして、レミリア様。そしておかえりなさい、ローナ。」


あれ、何だか見覚えがあるような。

誰かに似ている気がする。

エキゾチックな少し濃い肌に見覚えは無いけれど、さらさらとした黒い髪は、グリニアのものによく似ている。


「実は、ルーメスは弟なんです。少々ややこしい事情があるのですが。」


(ローナとルーメスは姉弟…?)


聞いてみると、事情は結構重かった。


ローナの母は、グリニアの姫で、ソラニカに嫁いできたらしい。

しかし、元々は別の人の嫁だったところを、ソラニカの王族が横取りした形で、その時点で赤ん坊のローナが生まれていた。

その後ソラニカの王族との間に生まれた子がルーメスで、ローナとここで育ったのだという。

ただ、ローナは一応長女であり、立場上無用な争いが起きかねない。

だから弟の身の安全のためにも、アルガーデンに出たのだという。

その後、身寄りのなかったローナを、バンさんが養子として迎えてくれたのだとか。


「ローナ…すごく苦労してきたのね。」


驚いた。

元お姫様だったなんて。

だからソルトの髪は、あんなに似ていたんだ。

あれはグリニアというより、グリニア王家の遺伝だったのだ。

ソルトも二人の親戚のようなものかもしれない。


「いえ。バン様やフローリカの方々のおかげで、平穏に暮らせています。」


「弟として、お礼を言わせてください。それに、ここでの静養中、しっかりもてなしをさせていただきます。次回はバン様も是非お呼びください。」


ルーメスとローナは、久しぶりに会っただろうに、非常に仲が良かった。

かくして、私達はジャッカルのもてなしを受けながら、ローナの家族と顔を合わせることになった。


「ローナには、どの程度話を聞いているのですか?」


ルーメスを巻き込んでしまうことになって、どう思っているんだろうか。


「しっかり全て伺っております。私と婚約するという噂を流したいのですね。少なくともここから外に情報が出ることはありませんから、婚約の話を否定するような要素は出てこないでしょう。逆に、レミリア様がここに入国されたことは、既に知れ渡っているかと。」


アルガーデンの貴族の間では、すごく噂されていると思う。

レミリア様はジャッカルに嫁いだ、と。


「婚約で使われるものに近いような白い衣装を用意しておきます。それで1度ソラニカの王城を訪れれば、内々で婚約の儀を行っていると誤解されるかと思います。ルーメスがいつか婚約をするときには誤解が解けますが、まだまだ先ですからね。」


「先?」


ルーメスの年齢では、とっくに婚約者がいると思う。

何より、第1王子なのだし。


「実は、私には前妻が居ります。10歳で亡くなりまして。お恥ずかしながら、まだ整理がついていないのです。ずっと共にあるものだと考えていましたから。」


ルーメスはまだ15歳。

身近な者の死というのは、相当にショックだったのだろう。


「ですから、レミリア様の偽の相手として、私以上に丁度良い相手はいないのではないでしょうか。私に姉の役に立つ機会を与えてくださいませんか?」


私は頷く。

願ったり叶ったりだ。

むしろそうした事情があるのに巻き込んでしまって、申し訳ないけれど。





遠い地にきて、故郷を想う。

ノルン達はどうしているだろうか。


ノルンの婚約者候補は、私だけではない。

それでも浮いた話が出ないのは、私との婚約という噂があるからだと思う。

私が他の人と婚約したとなれば、今頃、私こそが!と次々に立候補して来ているんじゃないかと思う。

良い相手が見つかると良いんだけど。


ルーメスとローナに呼ばれて向かうと、豪華な食事が用意されていた。

楽しい旅行は始まったばかりだ。



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