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ジル・ヴァイツェンという人



まずはノルンの死亡フラグを回避しないと。

ノルンとのフラグを回避して命を救う方法としては、やはり他の人に愛を教えてもらうのが良いんじゃないだろうか。

例えば兄弟愛とか。


私の推しでもある、ノルンの兄ジル。

長男であり、本来は継承権1位。


しかし彼は、平民の想い人エリカと駆け落ちして出ていってしまう。

その結果突然王子として祭り上げられてしまうのがノルンだ。

推しカプであるジルエリを引き離すわけには行かないし、出ていくまでの間、ノルンを気にかけてもらうのが良いと思う。


ゲームのジルは、ノルンがそういった目に遭っていることを知らない。

自分が近くに居てはノルンに悪いと遠慮して、疎遠状態だったと語られていた。

それなら、事情に気づけば解決できるような気がする。


「ジル様はいらっしゃいますか?」


10歳となったある日、王城のお茶会に初めてお呼ばれした。

実際のところ、デビューは13歳とまだ先だけど、わがままを言って連れてきてもらったのだ。

最近、ノルンが離れに暮らすようになったと聞いたから、もう事は起きてしまっていると思う。


会場に着き次第、まだ幼いことを盾に、真っ先にジルに会いに行くことにした。

本来は未婚のレミリアが第1王子に特攻するのは生意気だと思われるけれど、レミリアとジルは7つも年が離れているし、目くじら立てられることは流石にない。

何よりジルは5年後には駆け落ちしてしまうから、噂されてもいつかは誤解と知れ渡るわけで。


「おや?可愛らしいお客さんだね。君は…」


実のところ、お手洗いと嘘をついて両親を撒いている。

早めに目的を果たさないと探しに来てしまうだろう。

両親が知ったら、第1王子にとんでもない無礼だと顔を青くすると思う。


「レミリア・フローリカです。」


ドレスの端を持ち、丁寧に一礼する。

ジルは私の名乗りに暫し考えたあと、思い出したように口を開く。


「あ、もしかして弟の婚約者かな?こんにちは。」


「いいえ。」


そこはきっぱり否定しておく。

フラグ回避。フラグ回避。


「え?ノルンと喧嘩でもしたの?」


あまりにも強い否定だったからか、ジルは首をかしげる。


時間が無い私は、首を振って、強引に言いたい話に捻じ曲げる。

子どもの話なんて、要領を得ないものだし。


「ノルン様は寂しそうなので嫌です。私、楽しいことが好きなのです。」


言っている意味がわからなくても、ノルンが寂しそうと聞けば、ジルは気にかけるはず。

ちゃんと弟思いの兄だから。


「寂しそう?ノルンが?」


予想通り、ジルは不思議そうに尋ねる。


「はい。とっても悲しそうです。孤独そうです。」


「そんなはずはないんだけど…」


ジルはノルンが平穏に暮らしていると思っているから、意味がわからないだろう。

冷遇にあっているなど知る由もない。

だからこそ、どうにか2人を引き合わせないといけない。


「ジル様は最近お会いしましたか?会ったらわかると思います。まるで毎日泣き腫らしているよう。」


「離れは距離があるからあまり会うことはないけど…、何か辛いことでもあったのかな…。わかった。聞いておくね。もしかしたら家族と離れてすごく寂しがっているのかも。」


弟が心配になったのか、早速手帳を取り出して日程を確認している。

この分なら、ノルンは大丈夫だろう。


「ちゃんと本人に聞いてくださいね!もしかしたら周りには隠しているのかも。でも、ジル様になら打ち明けてくれるはずです」


周りに報告されたら、彼らは責任を問われまいと嘘をつくかもしれない。

王族に虚偽の報告なんて、とんでもないことだ。

しかし、その命令をしている乳母も王族である以上、そういうこともある。


それでも抜き打ちで生活環境を見に行けば、ジルならすぐに異常を察してくれるはず。

急いで部屋を片して誤魔化したって、痩けて不健康そうな顔までは一朝一夕では誤魔化せないと思う。


「そうかな?じゃあ珍しく兄貴らしいことをしようかな。」


弟に頼られることに満更でもないらしく、ジルは少し照れながら、一肌脱ごうと意気込んでいる。


「良いと思います。あ、でも私が言ったってことは、内緒にしてくださいね。」


「どうして?」


これがとっても大事。

しっかり言っておかないと、私がノルンに気があると早合点して、婚約話が浮上してしまうかもしれない。


「…ここだけの秘密ですが、私、運命の人と結ばれたいんです。だからノルン様が私に惚れては困ります!」


私の言葉に、ジルは目を丸くする。

そして、すぐに吹き出した。

私の自信過剰な言葉が、意外だったのだろう。


「あはは!レミリアちゃん、その年でもう好きな人がいるんだ。それに王家よりも結ばれたい人…か。うん。いいね。応援するよ。」


その言葉に、微笑み返しておく。


(ジル様、ごめんなさい。)


貴方がそうするってわかって言いました。

貴方は数年後、王家よりも駆け落ちを選ぶ人なので。


ジルとエリカを思い浮かべる。

ソナ束で一番好きなカップリングだから、よく知っている。

2人はもう出会っている。

だから、今のジルが私の嘘に共感してくれるのは当然だ。


私はジルと別れた後、両親に見つかる前にそそくさと戻る。

これでノルンが救われると、フラグを建てずに救えたってことになるはず。

上手く行くといいんだけど。



ーー



1ヶ月くらい後、律儀にもジルからお手紙が届いた。

内容には、ノルンのことでお礼が綴られていた。


『どうやらノルンは大きな寂しさを抱えていたようです。早く知れて良かった。レミリアちゃんのおかげです。』


豪勢なお菓子に、王家は気前がいいわね、と嬉しそうにする母。

しかし私は、手紙を手に思わず苦笑いを浮かべる。


多分、私の想像を超えて、相当劣悪な環境だったのではないだろうか。

収拾に1ヶ月も掛かるくらいには。


ゲームでは乳母のせいだったけれど、実際は離れの城の関係者が皆グルとかだったのかもしれない。

乳母1人が嫌な人だからといって、絶望して死亡フラグが立つことなんて無さそうだし。


「お母様、ノルン様に何かあったの?」


「ノルン様?興味が出てきたのかしら?そういえば王城で生活することになったとは聞いたわ。お会いしたい?」


私はしっかり首を振って興味はありませんと意思表示をしておく。

母の押しが強い。


「じゃあお城で何かあったのかな?ジル様忙しかったって!」


私はジルに気があるとばかりに嬉しそうに手紙をアピールする。

母はそれを見て、あらあらと微笑ましそうにする。


年齢差があるし、幼子の恋だと思われているのだろう。

ジルには申し訳ないけれど、大変都合が良い。


「そういえば…しばらくお城に入れない期間があったわね。お城に盗みでも入ったのかも。」


箝口令が敷かれているのだろうか。

詳しくはわからないけれど、ジルは流石は王候補。

テキパキとすべて解決してくれたらしい。


あとはノルンとの婚約さえ回避すれば、ノルンについては私に関係ない話になると思う。



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