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君主たる魔導書-マスターグリモワール-  作者: 逸れの二時
第四章 集結する思い
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暗転

 聖堂全体を白く染める聖なる光。眩しかったそれが収まったと同時にカイルは立つ力を失うようにその場に膝をついた。神界からの光は邪悪な意志に効果を発揮したようだ。


 だがカイルが伏せた目を憎しみに染めたと同じくして、魔導書からは再び黒い魔力が湧き出てくる。そしてそれはみるみる内に緑色に変わっていき、魔界の魔術を形作った。


悪魔の光線(デモニック・レイ)


 魔力と同じ色の緑の光線。魔術師でもないディルクが瞬時に危険を察知するほどに強すぎる緑光の筋がカイルの元から聖女を襲った。邪悪な魔術師の目前から、まるで地を這うように低く伝ったそれは聖女の足元を瞬時に薙ぎ払う。


 脅威にさらされる寸前で、ディルクが聖女を捕まえつつ横に飛び退いた。倒れ込んだ二人が見たのは、光線の這った後の黒く消滅した床。焦げているのか、あるいは闇に呑まれたかとも思えるような闇が地面を覆っている。


 難を逃れて体勢を立て直す二人にさらなる魔術の応酬。


悪魔の魔導書デーモン・グリモワール


 特殊な名称の魔術はカイルの目前に次々に黒い影を生み出した。それは既にこの世に解き放たれた悪魔たちと同じ姿。奴らは現れた途端にクラリスが生み出していた魔術光を消し去って聖堂を闇に包み込む。


 暗闇の中では不可視に近い三匹の悪魔は聖堂内にも関わらず不自由なく飛び回り、賢者も騎士も聖女も関係なくそれぞれを襲った。影が通り過ぎると同時にディルクはざっくりと肩を切り裂かれる。


 だがそんなことは微塵も気に留めない彼は神経を研ぎ澄ませ、高速で移動する悪魔が自分に近付く瞬間を狙って剣を振り抜いた。見事その剣は悪魔を深く切り付けて長椅子の地帯に悪魔を叩き落とす。


 アマデウスは気配を察知するもその速さには対応しきれずに悪魔の腕に掴まり、空中に投げ出されたかと思えば聖堂の入り口、正面の大扉に叩きつけられた。


 それでも強靭な精神力で集中を切らさなかった賢者は聖女に守りの魔術を展開する。


防護の円陣プロテクティブ・サークル


それにより、間一髪悪魔の攻撃を防いだ聖女は仲間の期待通り、悪魔たちに完全なる浄化をもたらした。


広域浄化マス・ピュリフィケイション


 魔術が発動すれば悪魔は容易く光に消えて、その影をすべて消し去った。ここまでの攻防にそこまで長い時間はかかっていないが、それぞれが肩で息をしている。


 特に消耗が激しいのは聖女のクラリスだ。彼女の魔術はどれも効果が高い故に切り札だが、5界の魔導書の力を使えば魔力が切れるのも時間の問題だ。魔力によってまた空中に浮いたカイルは降参を促す。


「我に歯向かうのは諦めよ! いくら魔導書を所持していても魔力の量は雲泥の差。勝ち目などない」


「何を言うか。わたしに負かされてみすみす逃亡したのを忘れたか?」


「今回は三人もいるのです! 聖女の名に懸けて、あなたを倒します!」


「我を倒すなど夢のまた夢よ。この体も今は回復している。おとなしく魔導書を渡せば長く苦しまずに済むものを……」


「碌な使い方をしない貴様に渡せるか! 仲間の仇、取らせてもらう……!」


「勇敢な騎士団長の儚い希望が打ち砕かれる様を見たかったがもう良い。遊びはそろそろ終わりとしよう……」


カイルが不敵に笑う。その次の瞬間、聖女は緑の閃光に包まれる。


悪魔の囁き(デビルズ・ウィスパー)


 最初こそ聖女は戸惑っているだけだったが、徐々に様子がおかしくなる。過呼吸のようになって息が荒くなり、首を左右に振って何かを振り払おうとしている。


「嫌、やめて……!」


「どうした? どうなっている?」


「魔界の魔導書の魔術の影響のようだ。しかしこれは……わたしの力ではどうにもできん。無理に術を解こうとすれば、彼女の自我が崩壊しかねない」


「どうすればいい!」


「彼女が耐えるしか――」


「耐える!? 何にだ?」


 その答えはすぐに明らかになる。クラリスはやがて抵抗することを辞めて、一歩ずつカイルに向かっていく。緑の閃光はもう消えているが、彼女は正常な状態にはとても見えない。


「これを渡せば……わたくしは……」


「おい! しっかりするんだ!」


 ディルクがクラリスの肩を揺さぶっているが、彼女は虚ろな目でカイルを見つめるのみだ。力ずくで抑えようとしても尋常ではない力で振り払われて、ディルクは壁に激突する。


 アマデウスが魔術で彼女の進路に魔力の障壁を生み出すが、それも強い魔力をぶつけることでかき消された。そして二人が引き留めようとするのも空しく、彼女はカイルの元へ向かって、あろうことか神界の魔導書を差し出した。


 カイルは魔導書自分の元まで浮遊させてしっかりと受け取り、代わりに――剣を生み出して聖女を貫いた。突然のことに聖女は目を丸くして血を吐き出した。そして口を微かに動かすものの、結局何も言えずに聖堂の床に惨たらしく倒れた。


 心臓を貫かれたのだろう。それ以降全く動く気配はなく、後には不気味な静寂だけが残る。


「所詮は人間。神聖な魔術の力を借りなければいつかは心が闇に染まる」


「クソッ! なんてことを……」


 ディルクはヒビの入った壁に手をついて起き上がる。憎しみが彼を支配しているが、空中にいるカイルに剣が届かないためか、剣の柄を強く握るも動き出せずにいる。


 アマデウスは表情を変えずにその場に留まっているが、目は鋭くカイルを見据えている。口元が少しも緩むことがないのは、打開策を必死に考えている証なのかもしれない。


「さあ、どうする? 聖女の魔術はもう使えぬぞ」


 その言葉を遮るように、マデウスの元から地獄の炎が迸る。カイルはそれを避けもせず、手でそれを払った。強力なはずの地獄界の炎はあっさりと姿を消し、それが消えた途端に、カイルがアマデウスの元に移動している。


 白く聖なるオーラを纏う黒い魔導書を手に携えて、ただ一言。


【地獄界の魔導書を渡せ】


 奇妙な響きを含んだその声は、聖堂全体に反響して振動を起こした。そして――あろうことかアマデウスは地獄界の魔導書をカイルの手に収めた。何の抵抗もせず。ただ当たり前のようにカイルに魔導書を手渡した。


 用済みとばかりにアマデウスは黒い魔力に体のあちこちを引き裂かれたあと放り投げられ、ぐっしょりと濡れた血の海に倒れた。剣を捨ててディルクがその元に駆け付けても、血の海は広がるばかりだ。


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