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君主たる魔導書-マスターグリモワール-  作者: 逸れの二時
第四章 集結する思い
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対決

 草木も眠る丑三つ時。夜の帳が下りてステンドグラスから月の光が降り注ぐ大聖堂にて。邪悪な気配が辺り一帯を包み、夜にも活動する動物たちが一斉に逃げていく。


 明かりのない聖堂の室内にぼんやりと浮かぶ人の影。それがスッと伸びたその刹那。聖堂内のステンドグラスが割れて砕け散る音がけたたましく鳴り響いた。


 聖堂を守るはずの十字架は邪悪を退けることはせず、ただ黒い本を手にする魔術師の影をその上に映すだけだ。教壇を飛び越えてステンドグラスの窓から侵入したカイルは、迎え撃つ三人の人物を流し見る。


 剣を握って静かな気を練っている元騎士団長のディルク。魔術の灯で聖堂を照らし、身構えつつも集中を切らさない大賢者アマデウス。そしてこの聖堂を守ってきた清らかな聖女のクラリスだ。


 彼らは宙に浮かぶカイルを見上げて各々戦闘態勢を取る。一触即発の空気が張りつめ、教壇下の三人と教壇の真上にいるカイルは睨み合った。その均衡状態をふと破ったのはカイルだった。


「お久しぶりだ。我を止めようと無駄に足掻く人間たちよ。新たな犠牲者も加わったようだがすべて無意味だ」


「随分なご挨拶だな。貴様が、というよりお前の本体が燃やされるのも時間の問題だろうに」


「ほざけ。無力な人間如きが何をしようと、全魔導書の頂点たる我に敵うわけがないだろう」


「そうやって油断するから不要な魔導書として処分されることになるのだぞ」


「そうですね。いくら強力な力でも、人々に害を為すものならば浄化してしまうのが一番ですから」


「愚か者どもが。わからないのか? 魔術が禁止されれば困るのはお前たちなのだぞ。我が魔術たちがどれだけお前たち人間の発展に寄与したと思っている。どれだけ歴史の流れを良い方向に導いたと思っているのだ。賢者などと呼ばれているアマデウス。お前ですらこんな簡単なこともわからないとは……やはり人間とは計り知れないほど愚かな生き物だ」


「わからず屋め。その力で人間を支配しようなどおこがましい。確かに魔術の力は偉大だが、それを使う者がいてこそ真価を発揮する。意志を持つ魔導書のお前すらその力を正しく使えないとは情けない限りだな」


「……どうやら全く相容れないようだな。それならば、大人しく我に頭を差し出すが良い!」


 カイルの持つ黒い本が闇の中で妖艶に発光する。しかしそれよりも早く聖女の魔術が聖堂に強い光明をもたらした。


聖域展開(サンクチュアリ)


 教壇付近を囲むようにして、聖域の魔術が円と十字架の魔法陣を生み出した。その円の内側にいるカイルは、その影響を受けて黒い魔力を弱めている。


 まるで大きな雲が手の平を覆うかのように溢れていた魔力が、聖域によってまとまりをなくし、沢山の小さな粒のようにバラバラになっている。どこから相手が来てもいいように聖女は準備を整えていたらしく、胸の聖印が聖域の魔法陣と同じく白く光を放っていた。


 カイルの魔術は悪意と殺戮に満ちている。それが神の思し召しには叶わず、聖域で力をそがれているようだ。ところがそれでもカイルの魔力を完全には封じることができず、カイルも遅れて魔術を発動した。


永久の氷結地帯タイムレス・アイスエリア


 聖域の影響を受け辛い現界の魔導書の魔術が猛威を振るい、三人のいる地帯において吹雪が暴れだした。魔術の範囲内では吹き付ける雪と氷の暴風がそれぞれ白く氷付き、そして光を受けると真っ新な青色に輝いた。


 教壇に敷かれたレッドカーペットには霜が降りて、付近に並んでいた長椅子も氷付き、ものの見事に吹き飛んでいる。だが範囲に残った三人は見たところ全くの無傷だった。


 それどころか、彼らの周囲の足元から噴き出す黒い豪炎が、連なる炎柱となって吹雪をすべて押しのける。


地獄の嵐(ヘルストーム)


 地獄の炎は現界の氷に負けることなく未だ高熱の煌めきを維持し、アマデウスの魔力操作によって、ついにカイルの下の地面から数本の炎柱を噴射する。


 空中にも逃場がないことを悟ったカイルが範囲外の地面、置かれていたグランドピアノの横にサッと降り立つ。するとそこに勢いよく何かが飛び出した。


 それは獅子の如く素早いディルクの剣撃。一撃二撃と撃ち込まれる剣は魔力を纏った手でいなされるが、相手にはそれ以外の余裕はなく、防戦一方だ。莫大な魔力を持つ魔術師でもここまで接近されて剣先に晒されれば手を出しにくいらしい。


 殺意が込められた剣によってどんどんと追い詰められ、その足元で粉々に割れたステンドグラスの破片が小さく砕ける。鮮やかな色の断片がさらに細かな粒になる。


 やがてディルクから逃げるその足元が壁にぶつかり、逃げ場のなくなったカイルに頭上から剣が振り下ろされた。カイルはそれを避けるべく、咄嗟に転移魔術を使って逃げ去ることに成功する。


 ピアノとは反対側の方へ瞬間移動した彼は、なんと息つく暇もなくまた攻撃にさらされた。天から降り注ぎ身を貫く聖光が天罰のごとく召喚される。


神界の聖光ヘヴンズ・ホーリーライト


 地面で白く輝く魔法陣に向けて、どこからともなく墜ちる光が巨大な光線のように降り注ぐ。転移魔法による瞬間移動によってできた一瞬隙を突いた攻撃だったために、対処する暇もなくカイルは光をすべて受けた。

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