ノウキョウ卍リベンジャーズ(アオモリの鴉)
「いやぁゴメンゴメン。そんなまさか卒倒するとまでは思わなかったからさぁ」
「あ、き、き、気にしなくてもよいのだ……。少し……その、驚いてしまっただけなのだ。私はこういうの初めてでな……」
「ウチの旦那がこうなの忘れてたんだよね。私は普通に見えるから。でも普通は見えないわよね。悪かった悪かった」
トキがカラカラと笑う度に、オーリンは死んだような目で俯き、レジーナはますます無言になり、イロハは怯えた。
「ウチの旦那、ちょっとハンディキャップがあるのよ。昔事故に遭ったせいで身体が見えなくなっちゃっててさ。あと塩も体質的にダメになったの。でもそれ以外は問題なくすごせてるから心配ないわ。愛の前には障害なんか関係ないってホントなんだぜ?」
ね? とトキは幸せいっぱいの眼差しで、何もない空間を見つめて微笑んだ。
絶対にハンディキャップではないことをあくまでハンディキャップと言い張る、この胆力というかなんというか。
レジーナやイロハはまだいいが、こんなのが義兄となってしまったオーリンの胸中は今頃とんでもないことになっているだろう。
そのレジーナの予想通り、オーリンは何かブツクサと聞こえない声で呟きながら俯き、絶対に姉と視線を合わせようとしない。
「あ、イロハちゃん、だっけ? 旦那が驚かしたことを謝りたいってさ。仲直りの握手してやって」
「あ、いい、全然いい! そんな丁重に握手なんて、別に喧嘩したわけでもないのに……!」
「ウチの旦那は義理堅いのよ。そうしないと本人が気にするからさ。お願い」
「う、う、そ、そうか……。こ、これでよいのか? そっちで握ってくれ……」
イロハがおっかなびっくり右手を虚空に向けると――ぎゅ、という感じでイロハの手が指の形の凹んだ。
途端にイロハが悲鳴を上げた。
「うわああああ冷たい! あとなんかヌルヌルする!! な、なんなのだこのヌルヌル……!?」
「あ、それエクトプラズム。事故の後遺症だから。悪いけど我慢してあげて」
「エクトプラズム……!?」
「潤滑油みたいなもんよ。大丈夫大丈夫、実体はないから拭かなくてもいいわ。はい、これで仲直りね」
イロハは半泣きの声を上げ、服の腹辺りで必死に右手を拭っている。
目の前に見えない誰かがいることを思えば失礼極まりない行為だっただろうが仕方あるまい。
レジーナが気の毒に思ってイロハの頭を撫でてやると、トキがオーリンに向かって言った。
「ということでオーリン、私はこれから幸せな家庭を築く予定なの。アンタも早く身を固めないとアオモリに帰ってきてから後ろ指さされるわよ」
「いや固まってねぇねろ! そいどころが霧みでぇなもんでねぇが!」
もうこれ以上の異常事態は我慢ならないというようにオーリンが絶叫した。
「俺は幽霊ど人が結婚するなんて聞いだごどねぇど! お父とおっ母さなじょすて説明する気なんだば! 第一どさいるがもわがんねでねぇが!」
「大丈夫大丈夫。私はイタコだぜ? 必要があればちゃんと実体化させるし。疲れるから今はやんないけど」
「どごの世界さ実体化できる旦那がいるんだってばな! 常に実体なのが普通だべや! 俺の甥っ子が幽霊の状態で生まれてきたらどする気なんだ!」
「バァカそんなことアンタが心配することじゃないわよ。ちゃんとすることはするからご心配なく。もし幽霊なら実体化させるわよ、常に」
「俺は常に実体化してねぇと実体でない甥っ子は嫌でぁ!」
「せ、先輩、もういいじゃないですか。本人たちがいいって言ってるんだから……」
「止めんなレズーナ! だいたい姉ぢゃんはいっつもこうなんだ! 昔っがらこの通り普通でねぇごどばっかりするんだど!」
オーリンはズバッと姉を指さして喚いた。
「大体この姉だっきゃ昔っがら乱暴者で方法ねぇんだ! 子供の頃がらガキ大将もガキ大将、十七の時でばツガル卍鴉連合の総長にまでなり上がって!」
「ま、卍鴉連合って……?」
「何故知らねぇ! 轟いてねぇのが!?」
「轟いとるわけがないだろう」
イロハが口を尖らせるのにも構わず、オーリンは地団駄を踏んで大声を張り上げる。
「とにかぐ今のドロップキックば見たべ! 人をふったづげるごどに関してアオモリでこの姉の右に出る奴ってばいねぇんだど! まったぐ子供のころから俺がどいったげこの姉にいじめられてきたか……!」
「昔の話よ、昔の話。ちゃんと今はカタギ。それに私のお陰でねぶたの時にカラスが減ってよかったじゃない。偉大なる私の功績よ」
「減ったんでなくて姉ぢゃんが支配下に置いだだけだべや! お陰でねぶたの時ば顔上げて町歩げねぐなったんだど! 挙句の果でには幽霊と結婚だぁ!? まったぐ、こいが俺の姉が! 情けねぇったらありゃしねぇ……!」
「一週間でシャーマンキングの下から逃げ出したタマなしの方がよっぽど情けないわよ」
まるでナイフの一突きのような言葉がトキから発せられ、オーリンが口を閉じた。
「し、知ってらったのが……!?」
「知らないわきゃないでしょう。後からあの人に入門したんならアンタは弟弟子ってことだし。私は三年修行したけど、アンタは一週間。情けないのはどっちなんだか」
トキは据わった目でオーリンを見つめ、それから腰に手を当ててため息をついた。
「死霊術の才能がないことはわかって、アンタは今度は王都で冒険者になるって言い出した。七年も家に帰らないで頑張って、アンタはアオモリの星にはなれたの? ギルドでは出世した? 自分のギルドは持てた? 訛りは抜けたか? えぇ、どうなんだ?」
ズバズバとした指摘に、オーリンは無言で目をそらしがちにした。
トキはあざ嗤うというよりは叱る口調で、小さくなった弟を文字通り睥睨した。
「アンタは夢に憧れるばかりで具体的な目標ってものがなにひとつない。アオモリでリンゴ農家やってるのも嫌、けれど厳しい修行も嫌。いやだいやだの行き着く先が冒険者になっての一発逆転だった。けれどどうにも上手くはいかない、その訛りが取れないんじゃ上手くいくわけがない。だからアオモリに帰れなかったんでしょ? アンタはいつもそう。何かになろうとしては色んなものに手を出すけれど何ひとつやり遂げられたことはない。誰もアンタを愛さない」
ぐっ……とオーリンの顔が泣きそうに歪んだ。
実の姉からの、相当に堪えるお小言を頂戴して震える背中を思わずさすってやると、心底情けないというようにトキが再び大きなため息を吐いた。
「全く、アンタが帰らないうちに、アオモリは大変なことになってるってのに……」
はっ、とオーリンが顔を上げた。
「アオモリが大変――? 姉ぢゃん、どういう意味だ?」
「実際行って確認しろ、バカ弟。なんだか妙な連中がぞろぞろやってきて、そっちこっち掘り起こすわ、妙な教えで人を誑かすわで大変なのよ。あんなわけわからない連中、私がまだ卍鴉連合の頭だったら叩き出してやったのに」
その光景を思い出したのか、トキは額に手をやって首を振った。
「全く、あの静かだったオソレザンが今頃はやかましくって最悪よ。真の神がどうのこうの、殉教者がどうのこうのって連中が毎日大騒ぎ――」
「殉教者――!?」
イロハが大声を発し、レジーナたちもはっと息を呑んだ。
その大声に、トキが驚いたようにイロハを見た。
「何? ええっと――イロハちゃん。あなた、あいつらのこと知ってるの?」
「トキ殿、その連中についての話を聞かせてくれ! 私はその者たちを追ってヴリコまで来たのだ!」
イロハは小さな体に殺気をみなぎらせてトキに詰め寄った。
「その者たちは我が兄の仇だ! 兄の孤独につけ込み、悪事を為さんと唆した痴れ者どもだ! アオモリにそのものたちがおるなら放ってはおけぬ、我々が詳しく聞こう!」
仇。その言葉に、トキはイロハから視線を外し、背後のオーリンを見つめた。
心の底まで見通すような鋭い目つきが――ゆっくりとオーリンから離れ、今度はレジーナを見た。
途端、ぞっ――と、殺気、否、霊気のような怖気が皮膚を粟立たせた。
「ふぅん――なるほど。オーリン、どうやらアンタ、七年帰らない間にそこそこの事態に首突っ込んだみたいね?」
「そりゃあ冒険者だがらな。危険は飯のタネだべじゃよ」
「なるほどなるほど、そういうことか。アンタも何もしてなかったわけじゃあなさそうだ。こんな妙な因果の人とパーティ組んでるのも無関係じゃないか――」
トキは再びレジーナを見つめた。
レジーナの中にある何かを見透かしたようなその目の鋭さ――何だ、この人は私の中の一体何を見ている? 何を納得したのだ?
思わずその事実に空恐ろしくなった、その時だった。
「頼もう、頼もーう!」
気の抜けた雄叫びとともに複数人の足音が背後から近寄ってきて、レジーナたちは振り返った。
そこにいたのは、如何にも死霊術師、というような風体の男三人。
その三人は一番奥に立ったトキをまっすぐに見つめ、大声を張り上げた。
「高名なる流浪の巫女、トキ・ジョナゴールド殿とお見受けする。ここで会ったも何かの因果、一戦所望仕ろうか!」
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読まへ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。





