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シチジュウシチ(就職先)

(やんた)じゃ」


オーリンは言下に否定し、断固、という感じでふるふると首を振った。

何を言われたのかわからないなりに、その表情と仕草と声のトーンから拒否の意思は明白だったのだろう。

イロハが心底驚いたというように慌てた。


「んな――何故だ!?」

何故(なして)って」


その瞬間、オーリンに「カチッ」という感じでスイッチが入ったのが、レジーナにはわかった。

あ、この反応は……と思った途端、ぐっ、と顔を歪めたオーリンが立板に水の如き勢いでまくし立て始めた。




「わだっきゃ別になさ使われでるわげでねぇばってな。なすてなみでねぇなたらんずのじぐなしのガギさ使われねばまいねのへ。どんだっきゃ何考えじゃんずな。第一、おらだばなのごどばてで戻へって喋らいでんだど。なの護衛などすてあのでったらだ男だちさゴンボ掘らえだらどすんだばってな?」

【俺は別にお前に雇われているわけではないのでな。何故お前のような知能の足りない意気地なしの子供の命令を聞かねばならないんだ。ありえない何を考えているんだ。第一、俺たちはお前のことを連れ戻せと命令されているんだからな。お前の護衛などを務めてあの大男たちに怒られたらどうしろというんだ】




ああ、今の一言は『第一』しか伝わらなかっただろうな、とレジーナは考えた。

それが証拠に、イロハも、そしてアルフレッドも、オーリンの口から高速で放たれた呪文に目を点にしている。


ハァ、とレジーナは溜め息を吐いた。

この一ヶ月程度旅路をご一緒した結果わかりかけてきたのだけど、こう見えてオーリンは物凄く頑固――彼が言うところのいわゆる『じょっぱり』なところがあるのだ。

特にこういう、自分が誰の命令を聞くとか聞かないとか、頭を下げるとか下げないとか、そういうことに関しての行き違いがあると途端にカチンと来て、今のように物凄い勢いで言い返すのである。

単に今まで言葉が相手に通じたことがないから喧嘩にならなかっただけで、【通訳】のスキルで解読してみると結構際どいことを言っていたりするのであるから大変なのだ。


憤懣やるかたなし、というように頬を膨らませているオーリンをちらと見て、レジーナは努めて黄色い声を出した。


「彼はこう言ってます! 『是非やらせてください!』って!」


なにィ(いぁ)?! とオーリンが驚いたようにレジーナを見たが、レジーナは構わず続けた。


「ただ彼は『報酬はたっぷり払ってもらわないと嫌だ』と言ってます! プリンセス様、もちろん報酬ははずんでくださるんですよね!?」

「お、おいレズーナ……!」

「おお、もちろんだ」


イロハは自慢げに頷いた。


「ズンダー大公家の経済力をナメるでない。そなたら程度が末代まで遊んで暮らせるほどのカネを支払ったところで痛くも痒くもないのだからな」

「わぁ、末代まで! それは素敵ですね! 貴方様の護衛、是非やらせて下さい!」

「お、おいレズーナって! お前(おめ)(なぬ)喋って……!」


そこでぐいっ、と、オーリンに肩を掴まれた。

ハァ、と内心に溜め息を吐いたレジーナは、通訳、と心の中で呟いてから――。

オーリンの顔を睨みつけ、小声で吐き捨てた。




「わい、しゃすねやづだな。ぺっこ黙ってでけらい」

【ああ、うるさい人だな、少し黙っててくれ】




ぎょっ――!? と、オーリンが目玉をひん剥いた。

まさかレジーナにアオモリの言葉で言い返されるとは思っていなかったのだろうことは、その顔を見ればすぐわかった。

()な?」とレジーナが念押しすると、よほどショックを受けたらしいオーリンがガクガクと頷いた。


「具体的には何をすれば?」

「簡単なことだ。私がある島に渡るまで側にいて警護するだけでよい。それだけでそなたらには至上の名誉と十分な報酬をくれてやろう」

「わぁいわぁい! 是非やらせてください! もちろんこの人もこの犬も込みで!」

「決まりだな。そうと決まれば早速……」

「あ、すみません! その前にちょっと作戦会議の時間をくださいな!」

「認める」


半ば強引に話をまとめておいてから、レジーナは沈黙しているオーリンを振り返り、小声で言った。


「先輩。そりゃ先輩がその、物凄くじょっぱりなのはわかりますけど」

「う、うん……」

「旅の目的を忘れたんですか? ワサオやマサムネをあんなふうにしてしまった黒幕を探すのが目的でしょ。あの子が大公息女なら、かなり黒幕に近い可能性を考えなきゃ」

「はい……」

「それに、その後のことも。あなたはギルドを追放された一文無しの貧乏冒険者なんですよ? 後で自分のギルドを立ち上げるにしてもやっぱり先立つものがなきゃ」

「その通りです……」

「とにかく、今回はやらなきゃいけない仕事だって割り切ってやってください。いいですね?」

「迷惑です……」


チャキチャキと説教をかますと、シュン、とオーリンが意気消沈した。

よし、これでなんとか話はまとまった。レジーナはイロハたちに向き直った。


「作戦会議終了です! どこへでもお供しますよ!」

「よしよし、それでよい。私から直々の指名を受けて喜ばぬものなど有り得てはならん」


イロハは、ニヤリ、と笑った。


「そうと決まればいつまでもこんな小島にいることはない。一気に行程を片付け。目的の島、バウティスタ島を目指そう」

「え、目的の島があるんですか?」

「当然だ。初代ズンダー王が渡った島の数は七十七……我らは既にそのうち三十島までの探索を終えておる。目的達成まではあと半分と少しだ」


ということは、残り四十七島……それまでこの小柄な姫君を護るのが仕事ということか。

そこそこの仕事だとは思ったが、ギルドの創設資金がかかっているとなれば身が入るのも当然で、レジーナは鼻息を荒くした。


「よーし、それじゃあ早速次の島に移りましょう! 先輩、ワサオ、いいですね!」

「う、うん……」

「ワォン!」

「折角やる気になっているところをすまないですが、あいにくそう簡単にいくものではありませんよ」


そこで――今まで滅多に口を挟んで来なかった青年、アルフレッドが苦笑とともに言った。

え? とレジーナが振り上げかけた拳をそのままにすると、アルフレッドが意味深に語り出した。


「皆さんは何故この島がマツシマと呼ばれているのかご存じですか?」

「え? それは……松の木が生えてるから、とか?」

「そうお考えになるのが当然でしょうね……」


ククク、と、アルフレッドは苦笑いした。


と――そのときだ。

ズシン、という、なんだかさっきも聞いた気がする地鳴りが響き渡り、レジーナはぎょっと森の奥を見つめた。


「この島々が完全禁足地になっているのは、何もズンダー大公家の歴史に関わっているからという理由が全てではない。この島々は長く外界から隔絶されてきた土地、独特の生態系が発達した孤島でもある」


ズシン、ズシン……という、明らかに足音であろう音が連続して聞こえてきた。

何が近づいてきている、何が……とレジーナの背筋に冷たいものが走った。




「マツシマの名前の由来は『魔つ島』――要するに、凄まじく巨大で危険なモンスターたちが跋扈する異界、というのがその名の由来なのですよ」




バリバリ……と木立が引き裂ける音が聞こえ、ぬう、とばかりに巨大な影が躍り出た。


「っぁ――!」


思わず、咄嗟に明確な言葉が紡げなかった。


なんだこれは? 大きい、大きすぎる――。

そこに現れたのは、一体の巨大なトロールであった。


否、巨大な――と言っても、その図体の規格外ぶりを表現するのには足りなかったかも知れない。

何しろ、いくら大きいとはいえ、せいぜい2階建ての建物にようよう頭が届くぐらいが関の山のトロールであるはずなのに、そこに現れたトロールの巨大さは、まさに見上げるほど――。

右手に握った棍棒だけで通常のそれの倍ほどもあるそのトロールは、足元に散らばった人間たちを見るなり、醜い顔を歪ませ、ゆらり、と棍棒を振り上げた。




「【極大防御・獄ノッツド・マネ・デヴァ】!!」




鋭く響き渡った詠唱と同時に、極彩色の魔法障壁が展開され、棍棒と激突した。

途端に、ズシン……と周囲に衝撃波が走り、地を揺らし、森を騒がせ、その先の海にまで漣を立てた。


オーリンの顔が――歪んだ。

明らかに規格外の一発を受け止め、ミシミシと障壁が不気味な音を立てる。

あのオーリンがこんな表情をするなんて――とレジーナが目を見開いた時、オーリンが腹の底から怒声を振り絞った。


「ぼさらっどすてんな! 走れァ!」


その一喝に、レジーナは幾ばくかの正気を取り戻した。




「逃げましょう! さぁ!」




真っ青になったまま、ぷるぷると震えるばかりのイロハの手を引き、レジーナたちはトロールに背を向けて遁走を開始した。




「たげおもしぇ」

「続きば気になる」

「バウティスタ……フフン、あれのことだな」


そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。

まんつよろすぐお願いするす。

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『じょっぱれアオモリの星』第1巻、2022年12/28(水)、
角川スニーカー文庫様より全国発売です!
よろしくお願い致します!
― 新着の感想 ―
[一言] サン・ファン・バウティスタですな。
[良い点] レジーナが遂にアオモリの言葉を習得した。 けっこうアツくてびっくりしました。 [一言] いーや、魔つ島!
[良い点] タイトルで吹き出した。 しかもそれを島の数にするとは、考えたな!
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