ワンツカ・ナニヘッテルガ・ホデネドモ(ちょっと何言ってるかわかんないですけど)
まず連載再開を前にして、皆様に感謝を。
昨日、この小説が某所で大きく話題となり、空前絶後のPV数を記録いたしました。
半年前に一度不人気を理由に完結させた作品がこうしてぶち抜きでランキングに乗ることなど、
『小説家になろう』史上でもあり得なかった事例ではないでしょうか。
面白かった、続きを読みたい――読者の皆様の意気に意気で応えるべく、
一か八か連載を再開してみようと思います。
私自身全く展望のない状態での再出発となりますが、どうぞよろしくお願いいたします。
「マサムネが正気を取り戻したと?」
大広間に、男の低い声が響き渡った。
報告に来た線の細い兵士は、直立不動のまま、額に脂汗を滲ませている。
ズンダー大公家の紋章である《クヨーの紋》、そしてその軍のシンボルである、陽に向かい輝く金色の鷲――。
その紋章にあしらわれた荒鷲が威圧的に睨みを利かせる広間には、報告者の他に二人の男がいた。
どちらも恰幅のいい長身に、見事に組み上がった肉体を兼ね備えた偉丈夫。
その肉体に似合いの、一体何人を殺めてきたのか知れぬ、凶相の男である。
そのうちの黒髪の男の方が、実に奇妙だというように小首を傾げた。
「ちょっと――何言っているかわからないんだがな」
その男の声に、報告者は震え上がった。
震え上がるだけの威圧感と低さがその声にはあった。
「マサムネが暴走状態になってからはや一月も経ったか。このズンダー大公家の精兵たちですら、やつの鱗には刃が立たなかった。もはや放置するしかあるまいと静観していたが――ひとりでに片付いたか」
この北方の強大な大貴族――その軍務の一切を指揮する立場にある黒髪の男は、安堵半分、驚き半分というように嘆息した。
そう、マサムネはこの北方の一大都市、ベニーランドを数百年以上護り、ベニーランドの民からは神と崇められていた古竜だ。
そのマサムネが突如正体を失い、怒り狂ったかのように里に降りては、今まで庇い護っていたはずの民たちを襲うようになって一月も経つ。
もちろん、ズンダー大公家も事態を収拾せんと様々な策を講じていたのだが――マサムネの圧倒的な防御の硬さと飛行能力の前にはそのいずれもが実を結ばず、半ば放置されていたのだった。
「それで――マサムネは一体どうして正気を取り戻した?」
「それが――」
報告に来た兵士は、そこで、ごくり、と毒のように苦い唾を飲み下した。
「目撃者によれば――たった一人の魔導師風の男が、マサムネ様を叩いたと」
「一人だと?」
冗談だろう、というように、黒髪の男の隣――金髪の男が嗤った。
金髪の男は、目の前に出されたパンを右手で鷲掴みにすると、まるで磨り潰すかのように掌で圧縮した。
みしり、と、柔らかかったパンを圧縮する掌が奇妙な音を立てた。
「その話が本当ならば――興奮してきたな」
瞬間、ぞっ――と、不可視の寒気が部屋の中を満たした気がした。
彼を知る人間全員から美食家と呼ばれている金髪の男は、手の中で石のように圧縮したパンを口へ運び、至上の美味を味わうかのように咀嚼した。
二人の男はしばし視線を交錯させる。
その視線には明確に、ズンダー大公家ですら太刀打ちできなかったマサムネを討ったものへの興味が色濃く浮かんでいた。
「詳しい報告は?」
「は――は。なんでも、その場に居合わせた魔導師風の男であったと。男は怒り狂うマサムネ様相手に大立ち回りを演じ、遂にマサムネ様を沈黙させたと」
「おいおい」
黒髪の男はまるで市井の小噺を聞いたかのように失笑した。
「その報告を上げたものは正気か? 我がズンダー大公家お抱えの魔導師が束になっても、マサムネを討つことはおろか、地面に留めて置くことすらできなかった。貴様もそのことはわかっておるだろう?」
報告者の兵士は、頬に脂汗が流れるのを感じながら無言を通した。
自分だってこんな馬鹿げた話を頭から信じていたわけではない。
だが、その場に居合わせ、その光景を目撃した人間たちの証言はいずれも一致していた。
まだ若い二人連れの男女、そのうちのローブを着た青年が――まるで荒鷲のように空を跳躍しながら、マサムネを倒したと。
兵士の無言をどう感じたのか――黒髪の男は美味そうにバナナシェイクを啜る金髪の男を見た。
「どう思う、執政」
「一言で言えば――面白いな、将軍」
素っ気なく、だが言葉のどこかに隠しきれぬ興味を感じさせながら、金髪の男は山海の珍味を頬張った。
「竜を殺す者、ドラゴンスレイヤー……いくら武芸に秀でる貴公と言えど、そんなものは今の今までお伽噺だと信じていたはずだ。あの圧倒的な力を持つドラゴンを、たった独りでねじ伏せるほどの強大な人間――興味がないかね?」
金髪の男はテーブルに山と積まれた美食の数々を次々に平らげつつ、視線で訊ねた。
「それに、その男が何をしにこのベニーランドにやってきたのかはわからんが――その男の氏素性も、目的も知れぬうちは、これは大公家にとって一種の脅威でもある。そんなものを放置しておくことは下策だ」
「それはそうだが――」
黒髪の男は豊かな黒髪を撫で付けながら同意した。
「だが貴公はどうするつもりだ? そのドラゴンスレイヤーが与太話ではなく現実の話だったとして、接触してどうするつもりなのだ。まさか勲章と爵位でも与えようと?」
「首輪をつけるだけでよいのならそれもよい」
金髪の男は掌の中で次々と美食を圧縮し、口へ運んだ。
男が持つ、鋼鉄さえ磨り潰す人外の握力――それを前にすれば、いかなる食べ物もその熱量を保ち続けることなど出来はしない。
こうして圧縮し続けることで全ての食物は虚無となり――男の裡に荒れ狂う、癒えることのない暴食の魂を慰め続けることが可能になるのである。
「だが、それでは面白くはない。あのマサムネを討つだけの力があるものを放置しておくことなど、貴公も本意ではないはずだ」
「どういうことだ?」
「この大公家を支えるもの、それは力だ。国王軍すらおいそれと手を出せぬ武力、財力、政治力――力は、使ってこそ世の中を変える。その力を持つものを寝かせ、腐らせることはない。力は、使ってこそ世の中を変えるのだ」
そこで金髪の男は意味深な視線を黒髪の男に寄越した。
なんのことだと言うようにしばらく沈黙していた黒髪の男が――やがて、ニヤリ、と笑った。
「なるほど。そういうことか。確かに――その男になら適任やも知れぬな」
得たり、と頷いた黒髪の男は、次に報告に来た兵士に視線を移した。
「貴様」
「は――は!」
「可及的速やかにそのマサムネを討ち取った男を我らが前に召し連れよ。如何なる事情や理由があろうとこの召喚を拒否することはできぬ。もし断れば、この地に伝わるズンダー名物・油風呂の責め苦を来世の分まで味わうことになるぞとな。――行け!」
男の低い一喝に、兵士は返答をすることもなく回れ右をして広間を出ていった。
その背中を見送った黒髪の男は、ククク、と低い声で笑った。
その笑いは徐々に金髪の男にも伝染し、広間を細かに揺らし始める。
「世の中に興奮することは数多あるが、一番興奮するのは――」
金髪の男は口元を歪めた。
「この地に――圧倒的な強者が現れた時だな」
「間違いないな」
ククク、と凶相の男たちの密やかな笑い声が広間に聞こえ続けた。
こごまで読んでもらって本当に迷惑ですた。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読ましぇ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。





