ネネバ・ネネ(寝なければならないですね)
「あ、操られてるって……!?」
オーリンがレジーナとフェンリルを交互に見つめた。
「彼はなんだか妙な言葉を喋ってます。まるで自分の意志じゃない言葉で――人間に贖いとか罰とか……とにかく、これはおそらく彼の意志じゃない」
レジーナが言うと、オーリンの顔が安堵したような、更に怒りが燃え上がったような、張り詰めたような無表情になった。
「確かだってが?」
「確証はありませんけど……でも、おそらくは。彼の中にまるでもう一人人間がいるような感じです」
「そが……そういうことなら納得もでぎるではぁ。あのワサオがこんなごとするわげねぇでの」
オーリンが呻くように言い、ローブの袖を捲り上げた。
傷ついた身体でやっと上体を起こし、こちらに向かって唸り声を上げるフェンリルに、オーリンはツカツカと歩み寄った。
「せ、先輩――!?」
「退いてろや。何が起こるが俺でもわがんねぇはで」
オーリンはフェンリルの前に立った。
グオオオオ! と、臓腑を揺さぶるような咆哮を全身に受け止めても、その身体はそよぐことすらしない。
バッ、と、オーリンは右手を翳し、鋭く令した。
「【強制鎮静】!」
その鋭い声が発した途端、ぐっ、と、フェンリルの前足が揺らいだ。
がり、がり……! と前足で何度か地面を掻いたフェンリルの目が――やおらぐるんと白目を剥き、それと同時に全身が力を失い、フェンリルは地面に崩れ落ちた。
ズシン……! と、土埃を上げてフェンリルが沈黙する。
レジーナがおっかなびっくりフェンリルに歩み寄ると、フェンリルの生臭い息が真正面から吹きかけられた。
「死んでない……先輩、何をしたんですか?」
「寝しぇだのさ。しんばらぐは起きねぇはずだ」
そう言って、オーリンはごそごそとフェンリルの身体を改め始めた。
耳を覗き込んだり、腹を見たり、尻尾を引っ張ってみたり。
レジーナはおずおずと訊ねた。
「先輩、一体何を……」
「ああ、もしワサオが操られでんだば、何処かに印ばあるはずだびょん」
「印って?」
「ああ、お前も冒険者さなるんでば覚えどげ。呪いやまじないなんつものはよ、そう簡単にかげられるもんでばねぇのさ。丁寧に探せば必ず証拠ばある」
そう言って、オーリンが再びフェンリルの顔の前に戻った。
じっと、白目を剥いて沈黙しているフェンリルの顔を見上げたオーリンは――やおら顔によじ登り、閉じられている左目の瞼を両腕で押し上げた。
その途端、その左目から出てきたもの――。
レジーナはあっと声を上げた。
「やっぱりが――でかしたどレズーナ。ホレ、こいつが証拠だ」
そう言ってオーリンが身体をずらし、出てきたものを見せた。
巨大な円の回りを、複数の小さな丸が取り囲む不思議な意匠――。
この意匠が、フェンリルを、ワサオを狂気の猛獣に仕立て上げた印なのか。
「わがったならすぐに始末すべ……【破壊呪】!!」
その途端、何かが粉々に砕け散るような鋭い音が発し、その紋章が跡形もなく消えた。
ふう、とため息を吐いて地面に降りてきたオーリンに、レジーナは駆け寄った。
「先輩――!」
「ああ、もう心配ねぇごだ。ワサオは元通りになるはずだ」
「よかったですね! このままこのフェンリルが王都に来ればどうなっていたことか――!」
レジーナが手を叩いて喜んだのに、反対にオーリンは無言で下を向いた。
ん? とレジーナはその反応を意外に思った。
まるで、何も解決してはいないと言いたげな、強い懸念を孕んだ表情だった。
その表情のまま、オーリンはワサオの顔に背中を預けて地面に座り込んだ。
「――どうしたんですか?」
「ややや、参ったでば。とんでもないものが出てきたな。――今のあの紋章、お前、知らないか?」
予想外の質問に、レジーナは戸惑いつつ首を振った。
「え? 紋章? いや――特に見覚えはないですけど――先輩は知ってるんですか?」
レジーナが言うと、オーリンは下を向いた。
言い出そうか迷うような沈黙の後――オーリンは意を決したように言った。
「あの紋章は《クヨーの紋》――北の有力貴族、ズンダー大公家の紋章だべ」
こごまで読んでもらって本当に迷惑ですた。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読ましぇ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。





