ワサオ(犬)
ワサオ?
その不思議な語感の言葉に、レジーナはオーリンの顔を見た。
オーリンは隻眼のフェンリルを見上げながら、まるで飼い犬にそうするように慌ててローブのフードを脱ぎ、大きく身体を開いて叫んだ。
「おい! お前、ワサオ、アジガサワー湊のワサオだべ!? 俺のごどば覚えてるべや!? オーリンだ! 俺はツガル村のオーリンだっ!」
は? とレジーナは絶句した。
アジガサワー湊? それはやっぱり聞かない名前だったけれど、オーリンは元々、アオモリと王都しか満足に知らないはずの男だ。
ということは、アジガサワー湊というのはアオモリにある村で。
オーリンは超巨大フェンリル――ワサオのことを知っているというのか――。
混乱しているレジーナをよそに、隻眼の巨大フェンリルは不機嫌そうに喉を鳴らす。
どう見ても友好的とは言い難い、それは敵に向ける威嚇そのものに聞こえた。
そう感じたのはオーリンも同じらしく、オーリンは諦めることなくまた叫んだ。
「覚えてるべ! 昔、お前の背中さ乗って遊んだびの! 少し王都さ揉まえで変わったがも知ゃねども……俺はお前のごでぁ忘れでねぇど!!」
いつもよりも訛りが酷いのが、オーリンが興奮している証拠だった。
だがそんな必死の形相のオーリンを裏切るように――フェンリルはぐっと前足を持ち上げ、殴りつけるように横薙ぎに振り抜いた。
「先輩、危ないッ!」
レジーナが絶叫したのと、オーリンが地面を蹴って横に跳んだのはほぼ同時のことだった。
ズシン! という重苦しい衝撃が地面を揺らし、レジーナは慌ててオーリンに駆け寄った。
「先輩……!」
「――どういうことだ、何故ワサオがこんなどごさ……!」
オーリンは悔しさと驚きが入り混じったような顔でギリリと奥歯を慣らした。
その表情は、とても敵に向ける表情ではない。
変わり果てた肉親を見るかのような、痛ましくやりきれない表情だった。
「ワサオ……って、先輩、やっぱりあのフェンリルのこと知ってるんですか?」
レジーナが確信を持って聞くと、オーリンは重く頷いた。
「――知ってるも何も、俺のアオモリの友達だで」
友達? その思いがけない一言に、レジーナはフェンリルを見上げた。
フェンリルの方は先程の一撃が躱されたのが癪に触ったらしく、歯を剥き出しにしてこちらを威嚇している。
「あいづはアオモリのアジガサワー湊の人気者の犬でさ……身体ばでっけぇども甘え上手で、誰がらも可愛がられてよ、よぐ人ば背中さ乗せで走り回ってあった……そいなのに、何故王都にあいづがいるんだ!? 今まで人様さ噛み付ぐどころが吠えだごどすら無がったのに、何故こすたらごどを……!」
くそっ! とオーリンは地面を拳で叩いた。
その間にも、フェンリル――いいやワサオか――は、のしのしとこちらへ向かってくる。
「先輩……!」
「ああ、わがってるでば。何の理由があったものが知らねぇども、あいづは俺が止める。レズーナ、悪ぃども退いてでくれ。巻き込みたぐねはでな」
途端に、オーリンの表情から迷いが消え、代わりに昨晩見た凶相になった。
ぞっ……と、魔力とも違う、殺気としか言いようがない空気がオーリンから放たれ、思わずレジーナは足がすくんだ。
レジーナの返事を待つことなく立ち上がったオーリンは、握り拳を握りしめながらのしのしと歩き、フェンリルの前に仁王立ちに立ち塞がった。
「――こんなどごで会うとは思わねがったぞ、ワサオ。何の因果か知ゃねども、これ以上王都で大暴れすんだば、俺ばお前のごどばやっつけねばまいね。そいでもやるってが!」
獣相手にも伝わるに違いない殺気と大音声は、フェンリルの唸り声に半ば掻き消された。
残念だ、とでも言うようにオーリンが眉根に皺を寄せた途端、フェンリルが物凄い声で咆哮し、オーリンに向かって地面を蹴った。
涎を撒き散らしながら向かってくるフェンリルに、オーリンが右手を翳した。
「【極大拒絶】!!」
こごまで読んでもらって本当に迷惑ですた。
「たげおもしぇ」
「続きば気になる」
「まっとまっと読ましぇ」
そう思らさっていただげるんだば、下方の星コ(★★★★★)がら評価お願いするでばす。
まんつよろすぐお願いするす。





