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アザー・スカイ ー死神と戦うエースー  作者: 嶺司
ジル・スレイヤ
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第9話 安心

「俺がシャワー浴びてる間に飲んでていいから」

「わーい」


そんなこんなでとりあえずアレイは許してくれ、髪の毛を乾かし寝巻き用のジャージを着てベッドに座わっている、俺の。


俺はシャワーを浴びている間に倒れられたらと心配なのでさっさとシャワーを済ませて、タオルで頭を拭きながら洗面所を出ると。


「え、早すぎません?ちゃんと洗いました?」


出た時に倒れたフリをしてるとさすがにぶっ飛ばそう思っていたが、楽しそうにワイングラスを片手にテレビを見ていた。


「男なんてこんなもんだよ、軍に入った時の教育期間中に飯風呂五分って教わってるからな、癖だ」

「えー、悪しき風習ですね」

「まあな、時間無いし仕方ない」


実際、当時は1日の予定が冗談抜きてで分刻みだった、飯の時間も風呂の時間もほぼほぼ無かったから仕方の無い事なんだが、教育期間を終了して約七年、その癖がなかなか抜けない。


壁に背もたれてベッドの奥に座るアレイから少し離れてベッドのふちに座ってゴシゴシとアタマを拭く。

チラッとアレイを見るとベッドにツマミのジャーキーを広げ、楽しそうにバラエティ番組を見ている。


「この番組好きなんですよー」


笑っている横顔が可愛いと感じてしまい、慌てて視線を逸らす。


「ベッドにこぼすなよ」

「分かってますよー」


ケラケラ笑っているアレイ、本当に普通のカップルみたいで鼻で笑ってしまう。


「大尉もこっち来て飲みましょうよ」

「あ?いいよ」

「はやくぅ!」

「あーもう、わかったよ」


一度は断るもグイグイ引っ張られて観念、一旦立ち上がりグラスに氷を入れる、アレイに買ってもらった梅酒を注ぎロックで楽しもう。

ベッドに戻りツマミを挟んでアレイの隣に彼女と同じように壁にもたれて足を抱えて酒を飲む。


梅酒のロックを一口、うん、いける。

うんうんと唸って飲んでいると。


「私も飲みたいです」

「あ、コラ!」


と、有無を言わさずグラスを奪われ、グイッとほとんど飲まれる。お前ワインも飲んでるだろ!


「甘くて意外と美味しいですね!」

「おい、全部飲むなよ・・・・・・」

「ついー」


酔いが回ってきたのか、ニコニコのアレイに変に怒ることもできず、面倒だが再び立ち上がり梅酒を注ぎ直して元の位置にもどる。


ワインを右手にツマミを左手に、何が面白いのかテレビを見てケラケラと笑い脚をバタつかせるアレイ、俺はテレビよりそっちの方が面白い。


なんだか和やかな気持ちでこいつを眺めていると、俺の視線に気づいたのか、ん?と振り向き目が合う。


「どうかしましたー?」

「あ、いや、なんでもねぇよ」

「なんですかー」


うぃー、と肘で突つかれる。

もう、酔うの早すぎだろ意外と弱いのか?


「大丈夫ですよぉ、倒れませんー」

「わかったよ」


そんな他愛もないやり取りをしていると。


ゴーーー・・・・・・。


遠くで戦闘機のエンジン音がした。


「夜間訓練か、精が出るな」

「大変そうですね」


恐らく当直員による夜間の飛行訓練だろう、不規則でやっているから今日の当直員はハズレだな。スクランブルの可能性もあるがそうなると俺らにも直ぐに連絡が来る、ちょっと待っても来ないからたぶん前者だろう。


基地の目の前だからエンジン音がよく響く、一応防音ガラスのはずなんだけどな。


ベッドから立ち上がり、ベランダの窓から外を見るが機体はさすがに見えない。


「音的にフレイヤ隊かな?」


フレイヤ隊は俺らと違って攻撃機のF-2に載っている、ほぼ同じ形、同じエンジンを使っているF-16とF-2の音の区別なんていくら戦闘機乗りでも分かるわけが無い。

冗談で言って、よく分かりますねぇ、なんてやり取りを期待し外を見るのをやめて振り返ると、アレイが苦しそうに胸をトントンと叩いていた。


「おい!どうした、大丈夫か!?」


手に持つグラスを落としそうになりながらも、テーブルに置き慌てて彼女に駆け寄り背中を摩ってやると。

グビッとアレイは手に持つワインを一気飲みした。


「おい!」


何してんだよ!?また一人で慌てていると。


「ふー、苦しかった。ナッツが喉に詰まっちゃって」


てへへ、と頭を掻く彼女。

なんだよ焦る、しかしそれはそれで危険だ、しかも流し込むためにワインを一気飲みするなよ。それで倒れるぞ。


「お前、俺の寿命を縮ませたいのか?」


はぁー、と安堵でベッドに尻もちをつく。

本当に心臓に悪い。


「大尉、優しいですね」


ニッコリ笑うアレイ、その笑顔に俺はドキッとしてしまい、俺はたまらず。


「よく噛んで食べろ」


と言って彼女の頭をクシャクシャと乱暴に撫でて、テーブルに置いた自分のグラスを手に取った。



しばらく飲んでいると、テレビ番組が変わりドラマが始まる。


「あ!そういえば今日だった、危ない見逃すところでしたよ」


いや俺に言われても、ドラマとかほとんど見ないしましてやこのドラマがなんなのかも分からない。


「なんのドラマだ?」

「んー、簡単に言ったら恋愛学園物ですね、キュンキュンしちゃいます」

「そ、そうか・・・・・・」


俺にはよく分からん、それに、チャンネル権はアレイに奪われているので興味がなくとも何となくで見る。


「ジルはー、普段何見てるんですかー?」

「急に下の名前で呼ぶな」

「いいじゃないですかぁ」


うぃうぃー、とまた肘でで突っついてくる。本当に何がしたいのやら、まあいいや。


「普段はドキュメンタリーとか、ニュースとか、なんかの特集とか、そんなんだよ」

「男っぽいですねー」

「男だからな」

「確かにぃー」


へへぇ、と急にフラフラと頭を揺らしながら笑うアレイ、ちょっと怖い。


「その辺にしとけ、また記憶無くすぞ?」

「宅飲みでー、記憶はー、飛ばしませんっ!」


ビシッと誰かに向かって敬礼するアレイ、いやー、どう見てもヤバそうだが?


仕方ないので立ち上がり、冷蔵庫から昨日の如くペットボトルのミネラルウォーターを取り出し、文句を言われないように一回開けて彼女に渡す。


「ありがとーございますー」


グビグビと半分ぐらい飲んで、ぷはー!とペットボトルをベッドに置く、こぼすなよ?

隣にいると変に絡まれそうなので、床に買ったばかりの寝袋を敷いてベッドを背もたれにしてテレビに写っているドラマを見ていると。


「隣にいてくださいー」


グイグイと後ろから右腕を引っ張られる。

ちょちょちょ、こぼすこぼす!

グラスを慌てて左手に持ち替えて引っ張られるがままさっきの位置、壁を背もたれにしてアレイの隣に座ると。


「え?」


俺の右腕を両腕で抱き抱えたまま、頭をコテッと倒して俺の肩に預けてくる。


なんで!?


状況が掴めず心臓をバクバクさせていると。


「ああ、私この俳優好きなんですよー」


不気味に笑いながらドラマに出ている俳優を指さす。


「おお、そうか、カッコいいもんな」


芸能人はよく分からん、アレイに掴まれて変に緊張して頭が回らず適当に話を合わせていると。


「ジルの方がカッコイイです・・・・・・」


小さな声でアレイがボソッ言う。


「えっ?」


今なんと?


「なんでもないです!」


さっきまで大人しかったのに酒のせいかなんなのか、顔を真っ赤にして枕でボブボブと叩いてくる。


「やめろやめろ!酒がこぼれる!」


ひー!とベッドから避難すると、ムスッとアレイに睨まれた。


「このドラマが終わったら寝ますんでー、隣にいてくださいっ」


ちょっと怒り気味な表情で隣りに座れとポンポンとベッドを叩くアレイ。


「別にいいが・・・・・・」


ちょっと困惑していると。


「隣にいてくれないと不安で倒れちゃいますよ」


どんな脅しだよ、プッ、と思わず笑ってしまう。それにまた彼女はムスッとするが。


「わかったわかった、酒を注ぐから待て」


梅酒と氷を継ぎ足して言われた通りにまた彼女の隣に戻ると、さっきと同じように腕を掴まれて肩に頭を預けてくる。


さっきもそうだが状況がわからん。

なんでこうなってんだ?とドラマの内容も頭に入ってこずに考えていると。


『アレイもそのつもりなんじゃない?』


と、電話越しに言われたレノイの言葉が出てきて、咄嗟に首を振る。


そんなこと絶対無い!あってはならない!


俺がブルブル震えていると、なんだろう?と言わんばかりに、上目遣いで俺を見ては首を竦めてテレビに向き直す、かわいい。じゃなくて!


一人で今度は違う意味で焦っていると、五分もしないうちに隣でスースーと寝息が聞こえ始めた。


「おーい、見逃していいのか?」


揺すっても起きない。

はぁ、最後まで自力でできるようにセーブしろよな、なんで毎回俺が寝かしつけなきゃならんのだ。


とは思いつつも、俺の腕を握るアレイの手をゆっくり解いて、辛うじて持っていた酒とツマミをテーブルに置き。


「よっと」


お姫様抱っこのように彼女を持ち上げて、俺の、ベッドに横に寝かせ布団を被せる。


「うううん」


と、寝言を言ってギュッと布団を握るアレイ。

こうやって見れば誰もこいつがパイロットなんて思わないだろーな。

あまりの安心しきった顔にちょっと笑ってしまう。


「無防備すぎだろ」


お前、一応男の部屋にいるんだからな、俺的にはガードを固めて貰った方が生活しやすいってのに、こいつときたらフルオープンだ、困るっての。


俺はまだ酒が残っているので、アレイを起こさないように部屋の明かりを暗くし、テレビの音量を下げて晩酌を続けた。

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