第8話 普通とは
今日は時間休だ、俺はアレイを連れて家に帰ろうとしていた。
メイセンはと言うと。
「ちょっと仕事して帰ります!」
「キリのいいところで帰れよ」
と、書類仕事かな?それを済ませてから帰るらしい。
そして、普段の通勤服、スニーカーにチノパン、ジャケット姿と男勝りなアレイと帰りの途中に基地の中の売店による、んー?と基地に置いていた当直用の着替えが入ったカバンを持ってアレイは何を買うのかと不思議な顔をしていると。
「たしか、この辺に・・・・・・、あったあった、って意外と高いな・・・・・・」
「あ、すみません・・・・・・」
手に取ったのは大きめの寝袋、1週間ぐらい俺の家に泊まるんだ、その間の当直はになんとか交渉して免除してもらったし、同じベッドで寝る訳にもいかない、妥当な判断だろう。
「なに、大丈夫さ」
しかし、寝違えないかは心配である。
そして基地を出て、自宅のアパートとの間にある小さな酒屋の前を通り過ぎようとすると、アレイの足が止まる。
「スレイヤ大尉、お酒、買っていいですか?」
「あ?ああ、一本だけな」
酒に逃げるのは良くないし昨日あんなに飲んでただろ、だがダメというのも可哀想なので一本だけならと許可すると。
すんごいウルウルとした上目遣いで俺を見てくる、だからなんで基地ではクールなのに俺と二人だったらそんなに砕けてるんだよ!やめろ、そんな顔!
「三本までだからな!」
結局折れてしまう俺はなんなんだろうか。
それを聞いたアレイは、「やった!」と酒屋に駆け込んでいく。まったく、と思いながら頭を掻いて中に続くと。
「大尉は何飲みますか?奢りますよ!」
「は?いいよ、後輩に奢ってもらうなんて」
カゴを持ってお酒を物色しながら嬉しいことを言ってくれる。だが、後輩に奢ってもらうのはなんだか気が引けるが。
「いいからいいから」
とアレイが持つカゴを見ると、いつの間にか瓶のウィスキーとボトルワイン二本が入っていた。いやまぁ、三本って言ったけどさ、そう言う意味じゃないんだよ・・・・・・、俺的には缶ビール三本のつもりだったんだが。
頭を抱えて呆れていると当の本人は、ん?なにか?とアホ顔である。だからその顔はやめろって!
まあいや、今更言うとうるさそうだし。その代わりに・・・・・・。
「じゃぁ、お言葉に甘えてこれにしようかな」
異国のフルーツ酒、梅酒とやらにしてみよう、前々から興味はあったんだが量の割に地味に高くて敬遠していたんだ。
「えぇっ、たっか!ま、まあいいです、これですね」
昨日のバーの酒代も払ってやってるんだ、それぐらい安いもんだろ。
「ありがとう」と笑って言うと「いえ」とアレイは頬を赤らめた。
そして自宅に着く。
別に女人禁制とかではないが昨日に引き続き女を連れ込むのはなんか悪いことをしてる気がしたし、誰かに見られてないかとキョロキョロしてしまう。
何事もなく部屋に入るも、さすがにまだ日も高いので飲む訳にはいかないが。
「あー、二人分の食糧が無いな」
飯のことをすっかり忘れてたし。
「ツマミが、ない!」
アレイはアレイで悲壮感に満ち溢れている。
「スーパーに買いに行くか」
「行きましょう」
ここから歩いて10分程にある食料品スーパーに行って色々と食材を買い漁る。
夜飯だけだが献立を考えながら食材を選ぶ俺に、ナッツやジャーキー、酒のツマミをカゴに入れるアレイ。
「へー、大尉、料理できるんですか?」
「一人暮らし長いしな多少は、って外で大尉はやめろ」
「はーい、スレイヤさん」
今日は普通に呼んでいる、まあ別にジルでもいいんだがな、言ったら面倒くさそうだしやめておこう。
そしてある程度買い物を終えて家に帰ると、なんだかんだで夕方。
飯でも作るか。
「適当に買ってきたが、何食べたい?」
「おまかせでお願いします!」
キッチンに立つ俺に、ベッドに座りテレビを見るアレイ、これでいいのか?ちょっと疑問に思うがまあいいか、考えたら負けだ。
さて、男料理と言ったらパスタだろう、簡単だし、付け合せにサラダでも切るか。
麺を茹で野菜を切って器に盛り、インスタントじゃないカルボナーラを作る、たまたま材料が揃ってて良かった。
「いい匂ーい!」
待ちきれなくなったのか俺の隣に来て料理の様子を伺うアレイ、これじゃただの同棲カップルだ。
「あんまり寄るな、もうできるから座って待ってろ」
「はーい」
残念そうに元の位置に戻る、なにがしたかったのやら。
パパッと皿に盛り付けて完成。
「ほらできたぞ、酒は食べ終わってシャワーした後な」
ルンルンと肩を揺らしながらワインを開けようとしたアレイはまた残念そうにそれをテーブルに戻す、また悪酔いしたら面倒だし、どの程度で昨日の感じになるのかもわからん、あとは寝るだけの状態にしないと怖くて飲んでられないからな。
「いただきまーーす!」
スプーンとフォークを使って一応は上品に食べるアレイ、行儀はいいか、と感心していると。
「うっ!!」
急に胸を押さえる彼女。
「なんだ!どうした!?」
突然の事に何が起こったのか分からず、またパニックになり彼女の背中を摩ってアワアワしていると。
「美味い!」
はぁー、心配して損した。殴られたいのか?
「そういうデリケートなことはやめろ」
「すいません、つい、イテッ!」
彼女のおでこにデコピンをお見舞いしてやる。
「女の子の顔ぶっちゃ嫌です!」
「お前が悪いんだろ」
「すいません・・・・・・」
聞き分けが良くてよろしい。俺は黙々と食べているとアレイも反省したのか美味い美味いと言って落ち着いて食べてくれる、変に演技されるより今の方が嬉しいし作った甲斐があるってもんだ。
しかし、今までは至って普通、いや普通か?昨日と同じくいつものクールさの欠片はどこにもないし、なんだかまた発作が起きるとも思えない明るさだった。アレイの言うように大袈裟だったかな?
そしてパスタもサラダも食べ終わり食器を片付けようとすると。
「私が洗います!」
お、そのつもりは一応あったようだ。しかし、時間の有効活用だ。
「先にシャワー浴びてろ」
「はーい」
実に聞き分けが良くてよろしい、さっきのは建前で本当は洗い物嫌いなんじゃないのか?てか、料理できるのかこいつ。
スタスタと下着の入ったカバンを持って、ユニットバスに彼女は消えていった。
「倒れる前に呼べよー」
「そうやって私の裸が見たいだけなんでしょ!」
「見るか!バカ!」
扉越しにそんなやり取りをする。
こっちだって心配してんだよ!
さっさと洗い物を済ませて、ベッドに座りテレビを眺める。女子は風呂が長いからな、気長に待っていると。
しばらくしてガチャンと風呂を出る音がした、意外と早いな。
「大尉ー」
「だから外・・・・・・、じゃないか。なんだー?」
洗面所から呼ばれるがなんだろうか、バスタオルは出してたと思うが。
「ドライヤーどこですかー?」
あー、忘れてた、あまり使わないからいつも仕舞ってるんだった。
「洗面台の下の棚の中だ」
「えぇー?どこー?」
ガチャガチャと洗面所が騒がしい。あーあー、何してんだよ。
「だから洗面台の下だって・・・・・・あっ」
「へ?」
何も考えずに扉を開けてしまった。
目の前にいるのは濡れた黒髪から若干ほわほわと湯気が出ていて、バスタオルを体に巻いてはいるが、白い肌と魅力的な鎖骨が露になっているアレイ。
点にした目が合う。
「うわっ、すまん!」
マジで何も考えてなかった、慌てて扉を閉めるも。
「えっち!変態!セクハラ!やっぱり私の裸が見たいだけなんだぁ!」
と扉越しに叫び声が聞こえる、他の奴らに聞こえるから叫ぶのはやめろ!
「マジですまん!」
「しかも人の裸見て、うわっ、とか酷い!」
いや、厳密に言えば裸じゃないだろ!とか言うと張り倒されそうなので。
「悪かったって!」
謝るのみだ。