第44話 三位一体
目の前にF-35の放ったフレアが光り、コックピット内を明るく照らす。
さすがにあの一瞬では無理があったか。かなり綺麗に決まった一撃離脱、これでもかと言うほどピッタリのタイミングでミサイルを放ったのにフレアで躱されてしまった。
残すミサイルは私が四発にツバサくんが六発。
まだ余裕はあるがどうなるか分からない、敵だってまだ空対空ミサイルミサイルは撃ってないし少なく見積っても各機四発は搭載している。
ミサイルを躱した一番機は私の後ろにつこうとする二番機のカバーに入るが、私はツバサくんの追う三番機と逆側に旋回、わざと一番機と三番機を離れさせそうとするがなかなか上手くいかない。
状況を見るように一番機はフワッと上昇、私の後ろからいなくなってしまった。
《なかなか簡単にはいかないかっ》
《そっち行ったよ!》
《メドラウト、ウィルコ!》
一番機は次はツバサくんに目標を変えたようで、一直線に彼に近接していく。私も二番機には追われているだけだから、あいつを追えなくもないが距離がやや離れている。追うとなると直線飛行になってしまうのでそうなったら二番機のいい的だ、左右に旋回して射線に入らないようにしているといつの間にかシザース状態になる。
これはチャンスだ。
左に旋回しきった後に右に旋回を始めると真上に二番機の姿が見え、私の後ろを通り過ぎて再び左に旋回すると頭上に二番機の姿が見える。
《二番機を先にっ!》
《ウィルコ》
ツバサくんは三番機を離すため、私から離れるように回避行動をとってくれる、よしっ今なら!
エアブレーキを使って旋回すると見せ掛けそのまま滑るように半回転、敵機の予想位置に弾幕を展開するが間一髪か、敵は捻るように急降下していき躱されてしまった。
《くそっ》
ちょっとでも何かしようとすると、直前のところで察知され躱されてしまう。もうちょっとの所で躱されるものだから、いつも以上にイライラが募るが、冷静になって考えてみる。
待てよ?
《ツルギたちは弾切れを狙ってる、確実にいこう》
《スカイレイン、ウィルコ》
私の予想は当たっていたようだ、ギリギリを演出して私たちの弾切れを狙う。奴の頭はいいが姑息だ、私たちなど相手にならないと嘲笑っているのか、弾切れにしてあとからいたぶる気なのか。もっと慎重に、確実に。
私は一度深呼吸をして集中力を高めた。
そして、気がついたらイエローラインも体勢を立て直し、三機のデルタ隊形で飛んでいる。
そこに付け入る隙は無いように伺えた。
数的不利の中、イエローラインと戦うのは無理があるのか?
だがしかしこれでも好条件だ、護衛の戦闘機は撃退しているし、主戦場はライスヤード、ここまですぐに敵の援軍は来ないだろう。国境で待機していたら話は別だが。
だったら、とにかくここでどうにかするしかない。
それなら刺し違えてでも・・・・・・、と思うのがいつもの私だったが今回はそうはならなかった。なんて言ったらいいか分からないが、簡単に言うと、そう、私にも簡単には死ねない理由が出来たんだ。
《突っ込む》
《カバー》
エンジン出力全開、もはや戦い方を考えても無駄だ。
デルタ隊形で優雅に飛ぶイエローラインに風を切りながら突っ込むと、彼らは隊形を崩すことなく回避行動を取り始め、私とツバサくんも斜めに並んで後を追う。
舐めやがって・・・・・・。
操縦桿を握る手に力が入るが、これも奴らの作戦のうちだ。ここでミサイルを撃ってもフレアで躱されるだけだし、その作戦に簡単にはのってやらない。我慢を続けてただひたすらに追撃を続ける。
こうなったら、我慢比べだ。
《バレないようにゆっくり私から離れて》
《え、なんで!?》
《いいから!》
どう転ぶかは分からないが、作戦を閃いた私はツバサくんにゆっくり私から遠ざかるように伝える。
イエローラインもいつまでもこうして逃げるつもりもないだろう、いつか反撃してくるはずだ。そうなったら離れないようにと二機でピッタリくっついて飛んでいてら反応できるものにも遅れてしまう。
ピッタリするのは地上でだけでいい。
何回も旋回しているうちに、15メートルぐらい離れただろうか。
バッ!
《来たっ!》
デルタ隊形右翼の二番機がコブラでスピードを落とし、左翼の三番機が1番機の上を通って右旋回していく。
まさかの二番機のコブラで私は対応しきれず追い抜いてしまったが、後ろにはツバサくんがいる、機銃で機体に風穴を開けてやれ!と思ったが彼の口から出たのは。
《わっと!ブレイク!!》
訳もわからず反射的に急旋回すると、私の居たであろうところに銃弾が空気を切った跡が残っていた。
《なんであんなジャストで間に入れるんだよっ!》
どうやら私からはよく見えなかったが、二番機はコブラマニューバで私とツバサくんのちょうど間に入り、射線を重ねることでツバサくんが攻撃できないようにして自分だけ私に向かって機銃を放ったみたいだ。ミサイルじゃなかっただけまだ良かったが、少し距離を取っていたのが仇となったか・・・・・・。にしても理不尽だ。
《ツバサくん上!》
《あーもうっ!》
私たちが二番機の機動に混乱している間に、一番機がそのまま直進してループしたのだろう、彼は背面を取られていた。
しかし、ツバサくんもそんなことでは被弾はしない、彼もスピードを調整してコブラを行い上を向いて一瞬止まってみせるとヘッドオンとなり、無理だと判断したのか一番機はそのまま上から下へと駆け抜けていく。そして、ツバサくんはわざとそのまま失速さて一回転、機首を下に向けてそのまま一番機を追撃しようとするも、横から回り込んできた三番機の機銃掃射を受けてたまらず回避。
せめて三番機の追撃さえ私ができていたら、ツバサくんは一番機を追えたのにっ。
《はやすぎるっ》
悔しくてドンッとキャノピーを叩いた。
〇
それから戦況は全く変わらず、燃料計のメモリだけが無情に減っていく。
《はぁはぁ、くそっ、もうちょっと、もうちょっとなのに!!》
《スカイレイン落ち着いて!焦っちゃダメだ!》
《わかってるっ!》
無理な旋回のしすぎて頭に血が通わずなんだかボーッとしている気がする、だがそれは相手も同じだと思う。
一度直撃ではないけど当てることはできたのにっ。
なんでこんなに上手くいかないんだ!
いや、落ち着け私、冷静になって相手のことを考えてみろ。
一番機の全ての攻撃を無意味にしてしまう機動力。
二番機の針に糸を通すような正確すぎる操縦力。
三番機の無鉄砲だがよく言えば思いきりのいい行動力。
こんなにギリギリの戦いをしていたら、彼らがどういう相手なのか嫌でも分かってくる。
あの三機は三機で完璧な存在だった。
私は、私ではイエローラインに勝てないのか?
悔しくて内頬をギリッと噛み締める。
しかし、一機でも欠けるとどうなるのだろう、いや、非現実的なことを考えるのはやめておこう、時間の無駄だ。
《スカイレイン、もう少しで活動限界だよ》
《全部、全部叩き込むっ》
《ウィルコ》
我慢はここで終わりだ、ありったけ全部ぶち込んでやる。
スロットルレバーを思いっきり倒しエンジン全開アフターバーナー点火。私は二番機、三番機など目もくれず一番機に突っ込む。
《ツバサくん、後ろは任せたよ》
《必ず守りぬく》
左右に機体を振りながら逃げる一番機を追い続け、ツバサくんは二、三番機を翻弄する。
自らも三番機に追われながら私を捕捉しようとする二番機の上から襲いかかり、それと入れ替わるように三番機が私の後ろにつくがツバサくんはミサイルを発射、三番機はフレアを使って回避。
私の方は。
《ん?》
私の前を飛ぶ一番機がミサイルを発射した。
《どこに向かって・・・・・・》
そのミサイルは小さな弧をクルッと描いてこっちに戻ってきているような・・・・・・。
ビビビビビッ!と突然鳴り響くミサイルアラート。
『後ろに着いたところで全方位ミサイルもあるし』
『ダメじゃん』
《フレア!!》
《くっ!》
ミサイルはキャノピースレスレを通り過ぎていき、私の後方のフレアに反応して爆発した。
突然の事に姿勢を崩した私は一番機に離されてしまい、顔を真上に上げるとそこには機首をこっちに向けた三番機の姿が。
間に合わないっ、私はそいつを睨みつけることしか出来ない。
再び鳴り響くミサイルアラート。
《間に合えぇっ!!》
三番機から発射されたミサイルは私には届かず、だいぶ手前で爆発。一瞬過ぎてよく分からなかったが、どうやらツバサくんがミサイルでミサイルを迎撃してくれたみたいで、いったい何をどうしたのか、理解したいがする暇がない。
すると三番機から煙が出ているのが分かった。
今の一瞬でツバサくんはミサイルを二発発射し、一発をミサイルに、一発を三番機に放ったのか。
《よしっ!これで2対2!》
さすがツバサくんと言ったところかイエローラインの一瞬の隙に付け入ることが出来た、これなら!
三番機は急降下して離脱、さすがに一段とスピードを増したように感じる一番機と二番機に妨害されて追撃は出来なかったし、そんな燃料もない。
私はもう一度一番機の後ろにつく、二番機はツバサくんが抑えてくれてるし三番機が居ない分当然のごとくさっきよりはやりやすい。
行け行けムード、そう言った方が早かった。
各種計器を睨みながら勝機を伺い、一番機を捉えそうになるもあとちょっとで躱される。残り時間が少ないが、焦ってはダメだ。
一瞬の遅れが命取りになる、ステルス性能なんてもはや無意味だ、いつでもミサイルを発射できるようにウェポンベイを開く。すると私の後ろやや後方で爆発が起こった、ツバサくんが二番機にミサイルを放ったようだがフレアでギリギリ躱されていた。
あともう一押しなのにっ。
ん?
一番機の動きが一瞬止まって見えた。今度こそ!
《これで終わりだぁぁぁぁ!!》
ロックオン、イエローライン一番機に満を持してミサイルを全弾発射しようとすると目の前が突然、強烈な光に包まれた。




