第43話 戦う理由
スコープに赤翼の背中を捉えた、しかし当然のごとく後ろを飛んでいた無人機が三方に散開、これは完全に見つかっていると思っていいだろう。
このまま赤翼を捉えようにも必ず無人機がカバーに入ってくるはずだ、適当に対処と言ったが・・・・・・。
ツバサくんの方をチラッと見ると彼も同じ考え、Su-37と相見える前に翼で風を切ってハイGターン、単独で散開した無人機をあっという間に捉えて。
バララララッ!バーーンッ!!
一瞬で落としてしまう。
初めて彼の飛び方をまともに見たけど、あれはあれでかなり理不尽だ。
私も負けてられない。
何かあってもツバサくんが後ろを守ってくれるそう信じて、かなり小回りの効く機体を捻らせ無人機同士の連携を取らせる前に一機捕捉。出し惜しみをしてミスってしまったら意味が無い、ツバサくん程上手くもないからここは確実にミサイルを発射、白い噴煙で宙に弧を描いて無人機に一直線、バァーンと爆発した。
《よしっ》
《まだ来るよ!》
後ろを覗くとSu-57が追撃体制に入ろうとしていた、イエローラインの方はツバサくんの言った通り、私たちには構わず突き進んでいる。
機体を捻ってSu-57の射線から何とか離脱、という訳にはいかない。
Su-57は体勢を立て直し、ピッタリと私の後ろについてくる。
最新鋭の機体同士だ、これぐらいは想定内。
ツバサくんの方はSu-37の混乱を誘おうという魂胆か、もう一機の無人機を追っていたと思うと、ぐるぐるっとよく分からない機動で37の後ろについたりしている。
あれは、凄いわ。
《スカイレイン、この機体には電波妨害装置がついてる、そのまま回避しながら57を引き付けて》
《ウィルコ》
なかなか撃ってこないと思ったら忘れていた、この機体には電波妨害装置がついていて、レーダー誘導のミサイルにはそう簡単には捕捉されないこと、赤外線誘導ミサイルも排気ノズルカバーで他の機体より温源探知が難しいことを。それならどうにかなる、彼は何か考えがあるんだろう、私の技量は彼より劣るが回避に専念することぐらいは出来る、ツバサくんの次の指示があるまでは逃げるとしよう。
バァーン!
早すぎでしょ、彼はもう最後の無人機を落としていた。
とりあえずこれで2対2。
《適当に逃げていいの!?》
《いい!そのまま後ろにつく!って、くそっ!》
私を追撃する57の後ろにツバサくんがあとちょっとでつこうとした瞬間、57は機首を上げて離脱。そこを逃がす訳にはいかない、私も機首を上げて空気抵抗を使い急減速の後エンジン前回、上空へ逃げた57を追う。
これで形勢逆転、追われる方から追う方になった訳だが。
《そのまま追撃して、僕は一旦37を躱す!》
《ウィルコ》
見る感じ57に比べて37は動きに迷いがある、これならいけるか?いやいや、フラグになるような事を考えるのは辞めよう、今は目の前の赤翼を追撃、そしてあわよくば・・・・・・。
〈赤翼の私にここまで引っ付いてくるとはね、いい度胸じゃない。あの無人機高いのよっ!〉
《っ!!》
突然の王女の混線に驚いていると、目の前の57が一瞬空中に止まって見えた。これがイエローラインが得意にしているコブラか、ツバサくんと予習した分、驚きはしたが目で追えないことは無い!
《なっ!アレイ!》
ツバサくんは焦っている様だが私は大丈夫。
《このぉっ!!》
YF-23の機動力を舐めないで欲しい!
エアブレーキやらいろいろ屈指して機首を持ち上げた瞬間に、操縦桿を思いっきり引いて一瞬エンジン全開。頭上にあったはずの空が一瞬で無くなり、地表が見えるようになって上下逆さになったと思ったらちょうど目の前に空中で止まっている赤翼が現れる。
敵の表情が分かりそうな程の距離。
〈くっ!!〉
《フォックス2!!》
この距離ならロックしなくても!とミサイル発射ボタンを押した瞬間に胴体下部のウェポンベイが一瞬で開き赤外線誘導ミサイルを射出。
私はその行く末を見届けることが出来ずに失速して降下、エンジン出力を上げて機体を立て直す。
バァーーン!
やったか!?
爆発音が聞こえ機体が僅かに振動したが、後ろを振り向くと赤翼はまだ飛んでいた。だがしかし、直撃はしなかったものの破片は当たった様子だ、エンジンから煙が出ている。
《よしっ!赤翼をやった!》
あれはさすがに戦闘不能だろう、撃墜出来なかったのは少し痛いが、よしっとガッツポーズをする暇もなく。
《アレイ後ろ!!》
《ちっ!》
37がツバサくんから目標を私に変えて、追撃をしかけようとしていた。失速から立て直ったばかりだし当然だろう。
〈私としたことが・・・・・・〉
〈隊長は帰投してください!〉
混線を切ってないのか?
〈あの流れ星は厄介よ、無理はしないで〉
〈ソルーダ、ウィルコ〉
赤翼に褒められる、悪い気はしないな。
《僕のことを忘れられたら困るんだけどなぁ》
初めて聞いた勝ちを確信したのであろう半笑いのツバサくんの声。
ダダダダダ・・・・・・、バァーン!
〈そんな、理不尽なっ!〉
いったい彼はいつの間に37の後ろについたのか、57の被害状況に気を取られていたのだと思う37の主翼にツバサくんは斜め後方から機銃の雨を浴びせ燃料に引火したのか爆発し主翼が折損、高度を落としていくとキャノピーが吹き飛び少ししてパラシュートが開いた。
〈シロッ!あなたせっかく助かった命、殺されたいの!?〉
あの赤翼とは面識はあるようだ、第三王女だと言ってたし彼は元スパイ、会ってないことも無いのだろう。しかし、やっぱり元スパイとしてツバサくんは命を狙われていたのか?彼女の言い方ではそう感じる。
《僕は、僕には守る人が出来たんだ!ツルギと同じように!》
〈あなた・・・・・・〉
私は機体を彼の斜め後方に付ける。
赤翼の質問には答えてなかったように思うが、彼の守りたい人、自意識過剰かもしれないけど私のことかな?それだといいな。
《時間が無い、イエローラインを追撃する、行こう》
《スカイレイン、ウィルコ》
赤翼を戦闘不能にしたものの、とどめを刺す時間もない。私たちは進路を南にとって恐らく西クリンシュに向かっているイエローラインを追う。ツバサくん曰く、F-35はそんなに早くないらしい、間に合えば良いが。
〈後悔するわよ!!〉
唾を撒き散らすような赤翼の捨て台詞。
《後悔は、もうしてる・・・・・・》
静かに言い放った彼、いったい何に後悔しているのだろうか、こんな所では確認もできないし聞いても話してくれないと思う、それよりも私たちはイエローラインを追った。
〇
結果論から言うとイエローラインの対地攻撃を妨害することは、出来なかった。
思いのほか赤翼の対応に時間がかかっていたようで、追いついた瞬間に地対地ミサイルを放たれた。しかし、予定よりは早く撃ったはずだ、基地からも少し離れていたし、かなり苦し紛れに撃った感じだと思う、あれならアイアンシールドで迎撃できそうだが今は確認できない。
そして今は、逃げるイエローラインの追撃。
ここで逃がしたら二度目は無いかもしれないし、対地攻撃モードで空対空ミサイルの装備弾数は少ないはずだ、私は一番機を必死に追う。
〈くそっ、白崎、もう一度よく考えろ!俺だって好き好んでお前と戦いたくはない!〉
《僕だって戦いたくない!でも、考えた結果がこれなんだよ!いったい君は何人殺した、数えたことがあるの!?》
一瞬静寂に包まれる空。
〈数えるわけないだろ、これもみんなを守るためだ!〉
《うるさい・・・・・・、うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!》
ツバサくんとイエローライン一番機の喧嘩、私はイエローラインに振り切られないように追いかけながらその会話を聞くことしか出来ない。
《僕も、僕もやっと戦う理由を見つけたんだ・・・・・・》
彼の、彼の戦う理由をって・・・・・・。
〈それがなんだってんだよ、俺が殺しすぎならお前だってそうだ。お前も俺の守りたい人を殺しといてそんな言い種が通ると思ってるのか!?〉
《えっ・・・・・・》
〈一年前のグレイニア、漆黒のF-15。忘れたとは言わさんぞ!〉
《ツバサくん混線をやめて!》
これ以上はまずい、ただでさえ口喧嘩に弱いツバサくんの声も震えているしこのままでは戦闘に影響してしまう。
バババババッ!と威嚇射撃、敵の注意を私に向けて喧嘩を無理やり終わらせた。
それにしてもツバサくんとイエローラインでは圧倒的に殺している数が違いすぎると思うが、ツバサくんが殺したらしい一人のことを出しただけであんなにショックを受けるなんて・・・・・・。私なんて何人殺されてると思ってるのよ・・・・・・。
《僕は、僕は戦う・・・・・・、アレイのために、アレイと一緒にっ。勝負だ、ツルギ!!》
〈それがお前の答えかよっ!〉
それで混線は終わり、男か女か分からないイエローラインの一番機の声は聞こえなくなった。
《イエローラインに惑わされないで!》
かなり頭に血が昇っているツバサくんは大丈夫だろうか、かなり息づかいが荒いのが無線からもわかる。
《わかってるっ。アレイ、2対3だけど予定通りいこう》
《うん、ウィルコ》
とりあえずは大丈夫な様子、彼の言葉を信じよう。
ここで勝負だ、速度では私たちが勝る、一旦散開して目標を絞って再びイエローラインに突っ込む。
ツバサくんは三番機に向かって。
それを察知したのか先頭を飛んでいた一番機はクルクルと回り、理不尽機動でツバサくんに襲いかかろうとするが彼からやや離れていた私が滑り込むように一番機にピッタリくっつく。そして、二番機が対応してくる前に。
《ここで、お前を殺す!》
機首にF-35を捉えた。
《フォックス3!!》
避けれるものなら避けてみろ!赤外線誘導ミサイルを二発放ち、それが白煙を空に弾きながら一直線に敵一番機に迫った。




