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アザー・スカイ ー死神と戦うエースー  作者: 嶺司
ルイ・アレイ
38/46

第38話 限界

《私のせいだ・・・・・・》


さっきまでウィンドブレイク2だった物が火がつバラバラになって地表に落ちていく。


《守れなかった・・・・・・》


頭の中が真っ白になっていた。


《クソッ、誰が落ちた!?》

《ウィンドブレイク2だと・・・・・・》

《マジかよ・・・・・・、ホーク1からウィンドブレイク1、気をしっかりもて、とにかく今は敵機を・・・・・・》

《わかってるわよ!!》


ラメイト大尉の悲鳴にも聞こえる叫び声が無線に響き渡る。


機銃もミサイルも全て撃ち尽くした。

今の私には何も出来ない、いや、ひとつある。

意を決してエンジン出力を上げた途端。


《アレイ!バカ!やめろ!!》


ツバサくんの罵声が耳を劈き我に戻った。


《撃ち尽くしたんだろ!?早く基地に戻って!》

《で、も・・・・・・》

《はやく!!》

《ウィルコ・・・・・・》


ツバサくんは必死になって空を駆け回っている。

ホーク隊も、スネーク隊もみんな・・・・・・。

なのに、次から次えと死んでいく、空を飛ぶ理由が分からなくなっていた。



私が着陸するとほぼ同時に残った無人機はミサイルを撃ち尽くしたのか反転、ローレニアへと帰っていた。


基地にも被害が出ていて所々煙が上がっている、けが人がいると言ったが誰が怪我したんだろうか。


「ジーオン・・・・・・」


なんでまた私は生き残ったのか。

考えれば考えるだけ分からない。


コックピットから出れずにいるとツバサくんの機体が私の隣に駐機して、すぐにコックピットから降りている。


とりあえず降りよう、いつもならレノイさんがヘルメットを受け取ってくれるが彼女の姿はまだない、地下に避難しているのだろう、ヘルメットを座席に置いて地面に滑り降りると目の前にツバサくんが立っていた。


パチンッ!


駐機場に響く乾いた音。

ヒリヒリと痛む私の左頬。


痛む頬をさすりゆっくりと彼の顔を見ると、彼は怒っていた。


「死んだら意味ないんだよ!!なんで自分から死のうとするんだよ!!」


なんであの一瞬でそれがわかったのか。


「なんでよ、貴方に何がわかるの!?みんな死んでいく!・・・・・・生きていても意味が無い!理由がない!!もういっそのこと死んだ方がマシなのよ!」


何故かツバサくんに反論している私。内頬を噛み締めていると鉄っぽい味が広がってくる。


パチンッ。


また同じように左頬を叩かれた。


「何するのよ!!」


二度も私の事を叩いた彼を睨みつけようとすると。


ガバッ。


ツバサくんは私に抱きついてきた。

かなりの力でギューッと。


「何するのよ・・・・・・」


震える声で再び聞いても彼は答えてくれない。

私は彼のことを抱き返すことも出来ずに立ち尽くす。

ツバサくんの暖かい体に、何故か聞こえてくる彼の鼓動、どういう意図があって私に抱きついてきたのかは今は分からないが、訳の分からないやり場のない怒りは少し収まってきた。


「ラメイト大尉の所に行こう」


彼が私の耳元で呟く。


「うん」


私は小さく頷いた。



ラメイト大尉は自分の機体からは降りていたが、地面に座り込み前輪に背を持たれて、何事も無かったように月明かりに薄白く照らされる宙を見上げていた。


「案外冷静なものね・・・・・・」

「・・・・・・」


彼女は目の前にいるが私はこれ以上近づけず、下唇を噛み締めて涙を我慢することしか出来ない。


「レオナルを最初に亡くして、マーチスにレンジャー。スレイヤの時もそうだったけど、ジーオンが死んだのにやけに冷静な自分が怖いわ・・・・・・」


私とツバサくんは何も言うことが出来ない。


「こんなにみんな死んでいくとね、こうなるんじゃないかって、思ったりするものなのよ。・・・・・・三人には何もやってあげれなかったわ・・・・・・」


ため息混じりに彼女はしばらく俯いて再び顔を上げる。


「ねぇ、アレイちゃん・・・・・・」

「はい・・・・・・」


全てを悟ったような、しかし、何も感情が篭っていない薄笑ったような顔を私に向けると。


「私もひとりになっちゃった・・・・・・」


月明かりに光るラメイト大尉の頬を伝う一筋の線。

私は動けないままツバサくんがが近寄ってしゃがみ込み、彼女の背中を摩ってあげている。

私は拳を力いっぱい握りしめる。


「まだ、まだ私もツバサくんもいます!アヤカルト大尉だってレノイさんだっています!まだひとりじゃないです!」


さっきまで死ぬ気でいたのに何故か彼女を元気づけようとしている私、よく分からないな。


「そう、ね、ありがとう・・・・・・。強いわね、アレイちゃんは・・・・・・」


しかし、彼女に届いているかは分からない、フフフと感情のない笑みを浮かべて私の後ろの空を凝視している。


「大尉・・・・・・」


そんな彼女を見て言葉を失っていると。


「大変だ!レノイが怪我をしたらしい!」


庁舎方向から走ってきたのはアヤカルト大尉。


「えっ?!」


驚きはしたが死んだ訳じゃない、自分を落ち着かせる。


「避難誘導で退避が遅れたと、詳しくはわからんが医務室で手当を受けてるそうだ」


責任感の強い人だ、みんなが逃げるまでここに残ってたに違いない。


「ラメイトは・・・・・・、俺が見ておく。アレイは様子を見に行ってくれ」

「わ、分かりました」

「僕も行くよ」


ラメイト大尉の事も心配だったが、ここは私より付き合いの長いアヤカルト大尉に任せて、私とツバサくんは医務室へと急いだ。



医務室につくと怪我人が結構いた。


15人ぐらいだろうか、軽傷の人は通路に並べられた椅子に座って簡単な手当を受けている様子だ。


作業灯は出ているが薄暗い通路を歩いているとレノイさんを見つけた。普段騒がしい愛犬のレニーも彼女の横に引っ付いてうずくまり、心配そうに上目遣いで見守っている。


「レノイさん、大丈夫ですか?」


私は椅子に座る彼女の前にかがみ込む。


「ああ、アレイちゃん。ただの擦り傷と打撲よ、心配いらないわ」


クールなレノイさんが、私たちを心配させないためか笑って返してくれている。


「けが人だけで良かったわ、整備員がこんなだから整備に時間がかかるけどごめんなさいね」

「いえ・・・・・・」


けが人だけで良かった、か。

レノイさん達、みんなからしたらいいことだ。


「あなたたちの方は?」


彼女の言葉に私は答えられず、ツバサくんが代わりに答えてくれる。


「ジーオンさんが、死にました・・・・・・」

「・・・・・・そう、ジーオンが・・・・・・、ごめんなさい」

「いえ・・・・・・」


少しの沈黙が続く。


「ラメイトは?」

「アヤカルト大尉に見てもらってます」

「そう、私のことはいいわ心配かけてごめんなさい、すぐ整備に戻れる。ラメイトの傍にいてやって」

「分かりました」

「はい・・・・・・」


私はツバサくんの手を握って立ち上がり、駐機場へと戻った。



駐機場に戻ると大変なことになっていた。

至る人が駆け回っている。


ブーーッ!


何が何だか理解する前に基地放送を知らせるブザーが闇夜に響く。


《ーーヤナイ・ラメイト大尉が見当たらない、手空きは捜索を行えーー》


え?


足を止めて隣のツバサくんと目を合わせる。

すると前から血相を抱えたアヤカルト大尉が走ってきた、一体全体何があったというのか。


「ラメイトがいなくなった!スマン、ジーキルを呼びに行こうとちょっと目を離した隙に・・・・・・」


これは非常にまずい。


「急ごう」

「うん」


二人で駆け出した。

遅くなっては手遅れだ、一分一秒でも早くラメイト大尉を見つけないと!


私とツバサくんは格納庫に走り、ライトを手に取って一緒に探す。


ツバサくんはまだこの基地の地理をよく分かってないだろうし夜中だ、一緒に探した方がいいと判断した。他のパイロットも探してくれてるし。


そして、30分後。


滑走路端、庁舎から少し離れた地上救難車車庫裏の倉庫で首を吊っているラメイト大尉が見つかり、民間の救急病院へ搬送され、何とか一命は取り留めたものの、彼女は二度とここへ帰ってくることは無かった。



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