第30話 開戦
《ーー約五分でミサイルが到達する。各機準備出来次第離陸し上空へ避難、急げ!ーー》
慌ただしく駆け回り離陸準備を進めるパイロット達。
《先に上がるわ、ウィンドブレイク隊、離陸する》
さすがに即時待機していたウィンドブレイク隊は早い、駐機場から直ぐに滑走路に向かって発進する。
《ライエル隊準備よし、離陸する》
《お前らモタモタするなぁ!グローウェル隊、出るぞ!》
《ウィザード隊、行くぞ》
《来て早々にこれか、スネーク隊、出る》
準備を終えた各隊が1本しかない滑走路に群れていく、これは少し時間がかかりそうだ。私たちの離陸は間に合うかな。
《スカイレイン隊、続きます!》
《ホーク隊準備よし、スカイレイン隊につづく》
順次隊ごとに離陸していきやっと私たちの番。
《ーー離陸待て、迎撃ミサイルを発射するーー》
タイミングが悪いな、コックピットから滑走路脇にある通称「イーグルアロー」のランチャーがぐるっと回り北の方向を向くと、白煙と炎を上げてミサイルを発射、一瞬で見えなくなる。まだ敵ミサイルはレーダー画面には表示されてないがそこまで迫ってきている。
まだかまだかと滑走路を睨みつける。
《ーーよし、スカイレイン隊、離陸許可!ホーク隊もつづけーー》
《スカイレイン隊離陸する》
《ホーク隊ウィルコッ!》
エンジン出力を上げ、アフターバーナーを使い二機で斜めに並び必要最小限の距離で離陸。
《ーーアイアンシールドを発射する、上空から離脱しろ!ーー》
飛んだばっかりなのに!とは言ってられない、直ぐにタイヤを収めて東の方向へ急旋回、その後まもなく、近距離迎撃用ミサイルのアイアンシールドが無数に発射され白い煙を残して空を駆けると、ドンッドンッと空中でいくつも爆発する。
《ーー敵機探知!備えろ!ーー》
《言うのおせーよ、備えろつったってどこだ!?こっちのレーダーには映ってないぞ!》
グローウェル隊隊長が不満を口にして間もなく、旋回する私の機体のすぐ脇を嫌なものが一瞬で通り過ぎて行った。
レーダーに写っていないとはそういうことだ。
宙の向こう、どこまでも青く深い深青色のF-35が三機。
垂直尾翼には見間違えることなど絶対に無い、シンプルな黄色の一本線。
《イエローライン!!》
バァンッ!
叫んだ頃にはグローウェル隊の隊長機からは炎が吐き出し、一瞬で地面に激突し粉々に散乱する。
《隊長!!》
突然のイエローラインの登場に、混乱に混乱する空。
《なんでイエローラインがこんな所に!》
《初戦から本気かよっ》
《どうやってこんな内地まで侵入してきたんだ!》
もう誰が何を言っているのか分からない。
しかも敵機はイエローラインだけではない、あの無人機を引き連れた赤翼も視界に入ってくる。
合計で敵機は七機か。
戦力の逐次投入で有名なローレニアにしては、初戦から大盤振る舞いだな。
《ーー各機散開、交戦許可。対空ミサイルは飛来するミサイルの迎撃を優先して行うーー》
散開なんて言われなくてもやってる、イエローライン相手だとちょっとした判断の間違いが命取りだ。
《メイセン!》
《まだ心の準備ができてないっての!》
冗談を言える余裕はまだある、一旦立て直して反撃を試みるが、無人機の追撃を受けて再び離脱、なかなかメイセンと合流できない。
《各個戦闘、状況を見て合流しよう》
《スカイレイン3、ウィルコ》
珍しく私に指示を飛ばすメイセン、合流出来ずにモタモタしているよりはいいか、こうしている間にもまた空で爆発が起こり誰かが煙を吐いて落ちていく。それが誰かなんて確認する余裕はない。
《こんなに混乱していたら連携もクソもないわっ》
ウィンドブレイク隊も離脱を試みるもことごとく無人機に邪魔され四人が合流できない様子、イエローライン相手に単機で仕掛けるのは無謀だが、無意味だろうがこっちの方が数では上回っているし仕掛けるだけ仕掛けよう。
私は混乱する空をクルクルと回避行動を取りつつ、狙いを定める。
理不尽な動きだが追えない程ではない。
イエローラインの一番機をスコープに捉えた。
《殺す》
ダダダダダッ!
迷うことなく機銃を発射。しかし、当然と言うべきか再び理不尽な機動で躱されるが、今回は集中できているの、体が勝手に奴の動きに反応して機体を捻り追撃を続行する。
《アレイ!無茶しないで!》
私の動きに気がついたのかラメイト大尉が声を上げるが、その声に私は反応しない。返事をする余裕がない訳では無いし無茶をしている訳では無い。
ビビビビビ・・・・・・。
コックピットにミサイルアラートが鳴り響く、恐らくイエローラインの二番機か三番機がカバーに入っているのだろうが、よそ見をしていては一番機に逃げられてしまう。
迷うことなくフレアを発射、ミサイルアラートは聞こえなくなるがまだ捕捉されている警報は鳴っている、ここで大きく回避行動をとる訳にも行かない、粘って粘ってもう一度敵一番機を捉えた。
《フォックス3!!》
外してなるものか、後ろにピッタリ着いた瞬間にアクティブホーミングミサイルを若干タイミングをずらして全弾発射。計四発のミサイルがイエローラインの一番機に迫る。
しかし、奴はフレアで二発を躱し、次の二発をクイッと機首を上げ華麗にコークスクリューをキメて回避しきる。
《クソッ!》
私は思わず拳でキャノピーをドンッと叩く。
《アレイ、後ろ!!》
《くっ!》
リンの絶叫にも似た声で我に返り機体を捻り離脱すると銃弾が機体横を掠めていった。
仕切り直しか。しかし、どうするどうすると考える暇はない、考えるより行動だ、目の前にあの憎たらしいイエローラインがいるんだ今更自分の命がどうなっても構わない。
いざと言う時は刺し違えてでも・・・・・・。
《ジーオンとレンジャーは無人機の対応、マーチスと私でイエローライン二番機を対処》
《ホーク隊は三番機対処だ!》
《スネーク隊は赤翼に着く》
《ライエル隊とグローウェル隊は一旦離脱する》
だんだんと落ち着きを取り戻しつつある空、各隊が自分たちの任務を確認しつつ敵機の対処に動き出す。
しかし、あの一瞬で何機落ちたのか、地上では数箇所で黒煙が上がり、迎撃しきれなかったミサイルが基地の格納庫等に着弾、砂塵混じりの爆煙が空に漂う。
《メイセン!どこ!?》
未だにメイセンと合流できないしどこにいるのかも分からない、それどころではないのか彼の返事もない。
合流は無理か、私は単機で再び仕掛ける。
残弾は機銃が僅かに、赤外線ホーミングミサイルがあと四発、出し惜しみはしてられない、全てを一番機に食らわせてやる。
わざとらしくゆっくりと回避行動をとる一番機の後ろについた、ここまでは簡単だ、敵の術中かもしれないがそんなことは関係ない。
二番機と三番機は他の人が対処している、これなら。
《あっ・・・・・・》
気がつけば、同じ方向を向いて飛んでいたはずのイエローライン一番機の機首が真っ直ぐこっちを向いていた。
《アレイッ!》
ラメイト大尉の絶叫が無線に響く。
離脱を試みるも間に合わず、ガガガガッ!と右主翼に銃弾を被弾し間もなく根元から折れる。
ここまで、か。
機体はきりもみ状態となり、地表に向かって落ちていくのがわかる。
《ベイルアウトして!》
そんなこと言われても機体は推力を失ってグルグルと不規則に回り目が回りそうで、酷い遠心力で手が脱出レバーまで届かない。
もう無理だ、私はよくやった、これでゆっくり出来る。
諦めるっててこんなに簡単にできるものなんだな、そっと目を閉じると。
暗い空間に酷く悲しそうにしているジルの顔が浮かんできた。
なんでそんな悲しそうな顔で私を見るの、やめてよ!!
《ああーっ、もう!!》
目を見開き最後の力を振り絞って、脱出レバーを思いっきり引くと同時にキャノピーがボンッと飛んでいき、私は空に放り出された。




