表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アザー・スカイ ー死神と戦うエースー  作者: 嶺司
ジル・スレイヤ
3/46

第3話 現実逃避

「空が、怖いです」


突然のアレイの言葉に、正直びっくりした。

まあ仕方ないと思う、今朝まで一緒に生活していた仲間が六人も一気にいなくなったんだ、堪えて当然だ。


「そんな直球に言わなくてもっ!」


メイセンはアレイの言葉に慌てていたが、こいつもそんな感じなのかな?


俺は、んー、と小さく唸って考える。


部下であり僚機たる隊員のメンタルケアも隊長の任務の一つなのだがヘマをしないだろうか、ラメイトさんに残ってもらえば良かったか。


「怖いか・・・・・・、空は好きか?」

「はい、今日までは」


淡々と話すアレイ。

やっぱりあの空戦のせいだよな。


「俺だって本物の戦争は戦ったことは無い、スクランブルは何回かあるが今回の戦闘が初めてだ」


空軍に入りかれこれ七年、戦闘機乗りになってからは数回の領空侵犯事案にスクランブルしただけ、大尉になって偉そうにしているが、無駄にアレイ達より年数が長いだけだ。


しかし、俺も怖いよ、なんて言ってもいいのだろうか、逆に不安にさせてしまうんじゃないか、次にかける言葉に悩む。


終始俯き気味なメイセンに、俺を真っ直ぐ見つめるアレイ。


くそっ、専門医に相談してくれ!と言いそうになるがぐっと我慢。


「そうだなぁ・・・・・・」


頭を掻きながら悩んでいると。


「スレイヤ大尉、夜空いてますか?」

「えっ!?」


おい、俺よりメイセンの方がビックリしてどうする。


「え?ああ、今日の当直は・・・・・・、ホーク隊とアトック隊か」


胸ポケットからメモ帳を取り出してパラパラと確認。


「特に用は無いが?」


友達という友達もガルぐらいしかいない、暇は暇だがどうしたというのか。


「街のバーに行きましょう」


なんだびっくりした。


「あー、別に構わん。誰か誘うか?」

「二人がいいです」

「へ?」


また俺より先に唖然とするメイセン。


「メイセンは申し訳ないけど今度にして」

「う、まあ、いいけど・・・・・・」


二人でバー?そんな言いにくい事でもあるのか?

しかし、後輩の誘いを断る訳にもいかない、「お前がいいなら」と快く了承する。


「では、20時にアウターというバーでお待ちしております。私の行きつけです」

「ああ、わかった」


ぺこりとお辞儀してイートインを後にするアレイ、別に男女二人きりでも問題ないよな?変な噂とか立たないかちょっと不安になる。いや、ラメイトさんとレノイで既にたっている気もする、今更心配することもないか。


「アレイ、どうしたんですかね?」

「さぁな。ああ、今なら相談聞いてやるぞ」


取り残されたメイセンに聞いてみる。


「アレイがちょっと怖いぐらいですかね」

「それはどうにもできん」

「ですよね・・・・・・」


ハハハとこいつは力なく笑っていた。

本当の相談事はなんだったのやら。



夕方まで適当に時間を潰して、夜になり一人で街に来ていた。

ジーパンにジャケット、夜は冷えるからな上着は忘れられない。


スマホの地図アプリで「アウター」という店を探してネオン街をうろつく。


「お兄さん一人?寄っていきなよぉー」

「安くするよー!」


際どいドレスを来た飲み屋のねーちゃんか娼婦かわからん客引きに腕を掴まれ胸を押し付けられるが、相手をするのは慣れたもの。


「ツレが待ってるんでな」


と、軽くあしらう。

すると相手も俺が軍人だと分かっているのだろうか、来る気がないのを察知したのか「あらそう?気が向いたら寄ってねぇ」と手を振ってすぐにどこかへ行ってしまう。首都の犯罪まがいのしつこい客引きとはえらい違いだ、聞き分けが良く面倒くさくなくていい、これぐらいなら行ってもいいかな?と思うのにな。


『もう少しでつくぞ』


メールで連絡するとすぐに返事が来た。


『待ってまーす』


もういるのか、てか軽いな、嫌な予感がして俺は足早に目的に向かった。


バー「アウター」


そこはバーというかクラブみたいな店だった。

アップテンポの音楽が流れ、いろいろな光がピカピカと光っていて若い男女が踊ったり酒を飲んだり自由にしている。

俺はそんなに広くない店内に入りアレイを探す。


「お兄さんいい腕してるわね、一緒に飲みましょうよぉ」


ここでも若い女性に絡まれる、いい感じに顔を赤くしニヤニヤと笑っていて少し怖い。


「ツレが待ってるんだっ」


俺に構うな!って言ってやりたいが俺の腕を掴む手を解いて奥に進むと、カウンターにアレイが座っていた。


ん?本当にアレイか?隣の席にジャケットを置いて、高めのハイヒールを履きタイトなミニスカートに肩を出したシャツを着て、普段そのままの黒髪のショートヘアをポニーテールにまとめていた。変に色っぽい。


「えっとー、アレイか?」


恐る恐る声をかけると、顔を真っ赤にしたアレイが凄い勢いで俺を睨んできた。


「遅いですよ、スレイヤ大尉!もう私五杯目ですー。マスター、同じの二杯」


は?飛ばし過ぎだろ、ちゃんと俺は言われた時間に来たのにいったい何時からここにいるんだ?


アレイに注文された、一見用心棒かと見間違うスキンヘッドでパツパツのワイシャツを着たゴリゴリのマスターは、笑ってお酒をシェイカーに入れて作り始めたと思うと、ダンベルと一緒にフンフンと振っている。


なにここ?


「外で大尉はやめろ」


筋肉マスターの事は置いといて、普段の鉄仮面ぶりとは真逆のアレイの話し方に少し困惑しつつも、隣の席に座る。


「じゃー、なんて呼んだらいいんですかー」


うぃー、と肘をグイグイ押し付けて絡んでくる。


「スレイヤでも、ジルでもなんでもいいよ」

「じゃぁ、ジル」


普通、スレイヤさんじゃね?一応上司だよ?まあいいや、完全に酔ってるしどうこう言っても直すつもりもなかろう。


「はい、同じの二杯っ!」


アレイが頼んだ酒が俺の前に置かれる、なんも気にしてなかったけど何の酒だ?一口飲んでみる。


「キツイなー、何で割ってんだ?」


美味いがかなりアルコールがキツイ、そりゃ誰でもこんなになるわ。


「テキーラのぉ、グレープフルーツジュース割りですー(濃いめ)最近流行ってるんですよぉ、美味しくないですかー?」

「美味いけど飲みすぎだろ」


て言ってる傍からグビーっと一気に半分近く飲むアレイ。


「こらこら、その辺にしろって」

「飲まなきゃやってられませーん」


なんだ、死ぬまで飲むつもりか?今日の空戦の不安を酒にぶつけている感じなのだろうか、彼女の手から酒は離れない。


「こいついつもこんななんですか?」


サイドチェストをしながらグラスを拭いているスキンヘッド筋肉マスターに聞いてみると。


「今日は荒れてるね」


胸筋をピクピクさせながらニッコリと笑ってそう言った、笑い事じゃねーよ。


「パイロットのくせに空が怖いじゃないんだよ、バーカ!」


おいおい、それはお前だ。俺に肩を組んで誰かに怒っている。これは俺も飲まないと精神が持ちそうにない、勧められた酒を飲んでいると。


「ほら!もっと飲んで!」


自分の酒を俺の頬に押し付けて煽ってくる。

一杯ぐらいいいか、ニッと笑って酒を一気飲みすると。


「いいねぇ、ジル!マスター、もう一杯!!」


やばい顔をしているアレイ、肩に辛うじて引っかかっている上着がはだけそうになっているのを直してやる。

いつも飛行服とかジャージ姿しか見ないからか、なかなかに目のやり場に困る。


「見ちゃやーですー」


へへぇ、と胸元を隠しながら薄気味悪く笑うアレイ、これは早く撤収した方が良さそうだ。


「これで最後だからな」

「まだ飲みますぅぅ」


これじゃ酔いつぶれた部下を連れて帰りに来たただの上司だ、まあ、まんまそうなんだが・・・・・・。

酒の入ったグラスを大事に離さないふくれっ面をしたアレイ、俺は彼女のせいで追加されたもう一杯を一気飲みして席を立つ。滞在時間は15分かな?


「吐く前に帰るぞ、マスター、勘定はここに置いとく釣りはいらん」

「ありがとう、またいらっしゃい」


多分ちょっと多いぐらい払ったがまあいいだろう、釣りを貰ってたら次を注文しかねん。


「帰るぞ!!」

「まだ飲むぅぅぅ!」


テーブルを掴んで離さなかったが、無理やりひっぺ剥がしこいつのジャケットを回収し店を出た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ