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アザー・スカイ ー死神と戦うエースー  作者: 嶺司
ルイ・アレイ
29/46

第29話 防衛

3日後。


搭乗員待機室には、また飛行隊長の姿があった。


「ローレニアがトリークグラードへの侵軍を開始した。うちらの動きを警戒しているのか、ライスヤードには侵入していないが時間の問題だろう。陸軍主力部隊も順次この付近に展開予定だ」


今更何を気にしているのかローレニアは領有権問題の地、ライスヤードには侵攻せず直接トリークグラード領地への侵攻を開始したらしい。まあ、その付近の防衛を固めてからライスヤードに来る魂胆だろう。


私たちウイジクランよりも、トーリクグラードの方が単純な軍事力は劣るし。


「ローレニア軍侵攻部隊には無人機を引き連れた赤翼が確認されているがイエローラインの姿は確認されていない。奴ら神出鬼没だからな、油断はするな」


あの無人機三機を引き連れた最新鋭機の赤翼が既に出てきているのか、それはそれで厄介だが一体イエローラインはどこにいるのか。最近とんと見なくなったし噂も聞かない。


他の人からすればイエローラインがいないに越したことはないが、またどこかへ行かれてしまったら私が困る。

アイツらを殺すまでは私の気が済まないから。


「我らウイジクランからローレニアに打って出ることは今のところ無い、いつ攻められてもいいように準備を怠るな」


と言い残して飛行隊長は書類をまとめてスタスタと待機室を後にする。


被害は多いものの善戦はしている、軍司令部のお偉いさん方が勘違いして殺られる前に殺ろうとか言い出さないように祈るしかないが、いつまでも防衛戦は難しいだろう。しかし、ローレニア本土に攻撃するのは現実味がない。


今までローレニア本土で戦ったことのある国は、北方連合とエルゲートのみだし。


「なあ、アレイ」

「?」


珍しくメイセンが深刻そうな顔をして私に耳打ちする。


「ローレニアがライスヤードから攻めてくるとも限らなくない?」

「珍しく頭の回転が速いですね」

「いやー、照れるなぁ・・・・・・ん?」


私は嫌味のつもりで言ったんだけど当の本人は照れている。まあそれはいいとして、メイセンの言う通りだ、現にトリークグラードには直接侵攻しているし、ローレニアとトリークグラードの国境は少ししか面していないし侵攻箇所は限られる。


しかし、このウイジクランは国境の3分の2はローレニアに接している、下手したら難癖つけられて北の国境から攻められても何らおかしくはないのだ。

ライスヤードはただの口実、その可能性もあった。


「でもなんでローレニアは急にこんな拡大政策?を取り出したのかな?」


世界二大国家の一国たるローレニアがおかしくなったのはエルゲートと戦争を始めてからだ。


それまでは戦争と言っても北に位置する北方連合の南下政策の抵抗ぐらいしかしてなかった王国が、急に手当たり次第に戦線を拡大している。


内戦で王が変わったのもあるだろうが理由はなんなのか。


「サヤ国王にでも聞いたらどうですか?」


国家元首たるその人しか真意は分からない。

父たる前国王を処刑し自らが王位についたローレ家第一王子だった独裁者ことサヤ国王、血の気が多いで有名だっけどここまでだったとはね。


「ハハハ、処す。とか言われそう」

「笑い事じゃないですよ」


まあ、笑えてるうちはいいか。


「末端の僕たちが考えても仕方ないか」

「もうなんなんですか」


結局はそれで落ち着いてしまう。考えたところで状況は変わらないし理由も分からない、考えることを辞めてしまうのだ。


「お前の言うことも一理ある」


聞きなれない声が後ろからして振り向くと、やや前髪が後退仕掛けたおじさん顔の人が立っていた。えっとこの人は、グローウェル隊のジェンダー大尉だ。


「だがな、この国にはエースと呼ばれる奴はたくさんいる。北パラノアイ基地にも、中部のメレクイン基地にもな。お前らだけじゃないんだぞ」


確かに、私たちはこの基地しか経験したことないから他の基地のことは分からないが彼らグローウェル隊は北パラノアイ基地から来ているしそこら辺の事情は詳しいだろう。


「まあ、実戦経験はお前らの方が上だがな。一応有名なんだぞ、スカイレイン隊とウィンドブレイク隊は」

「そうなんですか!?」


何故か少し照れているメイセン。


私たちはそんなに気にしてなかったが各基地に有名どころの飛行隊はあるらしい。


身近なところで言うと。


今はここにいるがカルート基地のスネーク隊で、他はよく分からないが。

メレクイン基地のエンジェル隊。

北パラノアイ基地のライオン隊。

旧バルセル国境近くにあるドロノアストロイ基地のエスパー隊。

そしてここ、西クリンシュ基地のスカイレイン隊、ウィンドブレイク隊らしい。


理由としては実戦経験がダントツだからとか、それもこれもジルのおかげだろう。


だからなのかは知らないが、実戦経験が豊富なクロー隊とアトック隊は他の基地に転属になったのか。


「隊長が聞いたら喜ぶかな?」


どうだろう。


「お、そうか。で終わりそうです」

「た、確かに。さすがアレイ、ごふっ!!」


何故か少しイラッとしたのでメイセンの脇腹に思いっきり肘打ちしてやった。


それを見たジェンダー大尉は「おー、若いって怖い」と訳の分からない感想を言ってどこかへ行ってしまった。



基地を当てもなくフラフラと歩いていると、滑走路付近には近距離迎撃用ミサイルの自走式36連装近SAM、通称「アイアンシールド」が八両、自走式8連装中SAMの「イーグルアロー」四両が展開されていた。


その他市街地周辺にも何両か展開し防御は万全、とまではいかないが最低限は揃っていた。


ローレニアはやる気になったら大挙して押し寄せてくる、これでも足りないぐらいだろう。


陸軍の守備隊についても順次展開中、この基地にあるグランドに陣地を展開し準備を整えつつある。


その日が近づいてきている、そんな雰囲気だった。


反戦をうたう団体もプラカードやら横断幕を掲げ街を歩いているようだが、それならローレニアでやって欲しい。こちらからは毛頭攻める気などない、これは防衛戦争だ。


ブーッ!


放送を知らせる甲高いブザーが基地に響く。なんだろう?


《ーー北パラノアイ基地近郊国境付近にローレニア無人機探知、現在直俺機が対処中ーー》


これはメイセンの予想が的中かな。


《ーー搭乗員集合。ウィンドブレイク隊、即時待機ーー》


私は搭乗員待機室にかけ出す、庁舎に着く前に待機していたウィンドブレイク隊、ラメイト大尉達とすれ違う。


「なんかあったらカバーはよろしくね、アレイちゃん」

「了解です」


手を振って自分の機体に急ぐラメイト大尉、深い意味はないんだろうけど、なんかあったらはあまり考えたくない。


大事をとっての即時待機、コックピットで待機して安全が確認されれば直ぐに別れだ。

私は息を整えて待機室に入るとメイセンが待っていた。


「あ、遅かったね」

「ちょっと気晴らしに歩いてました」

「そっか、何も無かったらいいけどねぇ」

「念の為でしょう」


そう思いたかった。


バァンッ!


待機室の扉が勢いよく開くまでは。


扉の向こうには今までにない、血の気の引いた飛行隊長の姿があり、彼は口をアワアワさせて何か言いたそうにしているが言葉が出てこない様子。


みんなで首を傾げていると。


ブーッ!


再び甲高いブザー音が部屋に響く。


《ーーローレニアが本国に宣戦布告、繰り返す、ローレニアが本国に宣戦布告!!ーー》


みんな目を点にしてザワつく待機室。

遅かれ早かれそうなるのは分かっていた、だが早すぎる。


「アレイ・・・・・・」


不安そうなメイセンをよそに私は奥歯を噛み締める。


《ーー司令部より緊急通信、ローレニア西部方面隊基地方向から多数の飛翔体が発射された模様。稼働全機離陸せよーー》


バタバタと一瞬で騒がしくなり、各人が自分の行くべき所へ走り出す。


そして、この基地、この街に、ウウゥゥゥーー・・・・・・、と乾いた電子音の空襲警報が鳴り響き出した。

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