第27話 唯一の僚機
《こちらスカイレイン3、ローレニア有人機に遭遇、迎撃します》
《ーーラジャー、排除しろーー》
叫んでくれた人は誰だ?そんなことを考えつつも先ずは基地に報告、私は期待を立て直し暗灰色のSu-27を追う味方機の加勢をしようとすると。
《くっそ、ケツにつかれた!》
メイセン声が無線に響き、その声の後ろでミサイルアラートがビービーと鳴っている。
彼の機体を探すと、離れた反対側で敵機に追われていた。
《メイセン!!》
《ーーもう一機いたのかっ!ーー》
所属不明の味方機が二機でローレニア機を追っているが後から現れたSu-27が回避したメイセンの後方についたようだ。
私は機体を倒し敵機を頭上に見て急速旋回、メイセンのカバーに急ぐ。
《ぬっ!》
力んだ声の直後、パパパと、フレアを発射し彼は迫り来るミサイルを躱す。
《ーー間に合ったがタイミングが悪かったな・・・・・・、スネーク隊援護するーー》
スネーク隊・・・・・・、あの時の!
以前カルート基地で空中給油訓練を行った時に、抜き打ちの試験相手になった相手だ。
《赤翼じゃない、落ち着いて戦え》
《スネーク2、ウィルコ》
確かに敵機の翼端は赤くは塗られてはいない、落ち着いて戦えば私たちでもどうにかなる相手だ。
《こっちの一機は俺たちが引き受ける、そっちは頼むぞ》
《スカイレイン3、ウィルコ》
そんなこと言われなくても既にやっている、メイセンが回避行動を続けている最中、私は敵機を捕捉。
《スカイレイン3、フォックス3》
外してなるものか、アクティブホーミングミサイルを惜しみなく発射。敵機はフレアを発射するがミサイルは惑わされることなく至近距離で爆発、片方のエンジンから黒煙を吐いているが撃墜には至らない。
《くそっ》
しかし、メイセンはその隙に離脱することが出来た、結果オーライだが追撃を仕掛けるために更に旋回する。
《ちょこまかとっ》
スネーク隊の方も少々手こずっているようだ、舌打ち混じりの声が無線に入る。
すると敵機が急に反転、諦めたのだろうかローレニア方向に進路をとり離脱を試みようとしている。
《逃がさないっ》
落としてやる、エンジン出力を上げようとすると。
《ーー深追いするな、スカイレイン隊、RTBーー》
《しかしっ!》
《ー命令だー》
《・・・・・・スカイレイン3、ウィルコ》
追撃は管制塔に止められる、冷静になって考えてみれば囮や罠の可能性もある。その他に敵影は確認できないし確認できないだけかもしれない、指示に従うのが無難か。
《ス、スカイレイン隊、帰投する》
《スネーク隊、後ろにつづく》
私たちとスネーク隊は二機別々の編隊で飛び、特に言葉も交わさず基地に帰投した。
●
西クリンシュ基地
着陸早々、メイセンがスネーク隊の人に一応とお礼をしに行った。私も少し離れてその後ろに続く。
「スカイレイン2のカロキ・メイセンです。改めて先程は助かりました」
軽く自己紹介し、ペコペコとお辞儀をするメイセンに。
「なに、間に合ってよかった」
気さくにそう言うのはスネーク隊隊長、三十代後半ぐらいで大尉、体格はがっちりしていて髪型はスポーツ刈り、顔もやや強面だし軍人ぽい人で第一印象はライトイヤー大尉みたいな人かな。
その後ろには二番機の人もいた、彼は思ったよりも若そうでメイセンと同じぐらいだろうか、男の割には長髪で隊長とは何もかも正反対な感じがする。
「えっと、でもどうしてここに?」
メイセンが続ける、スネーク隊はここから南方にあるカルート基地の所属だ、何故わざわざ最前線の地に?とは思うが少し考えれば分かるだろう。
「ああ、急遽今日からこの基地の所属になった。スネーク隊隊長、ナルギ・オリオンと」
「ローグ・レスティン、中尉です」
やっぱりね、オリオン大尉の後ろでレスティン中尉が丁寧にお辞儀をしている。
「ところで、スカイレイン隊って三人じゃなかったか?あの一番機はどこだ?」
表情を固くするメイセンに気がついたレスティン中尉がオリオン大尉に肘打ちする。
「隊長は死にました、今は僕が隊長をしてます」
ハハハ、と何故かぎこちなく笑うメイセン、それを聞いて「ああ、前線だもんな、すまん」とオリオン大尉は首元を掻きながら謝る。
「いえいえ、一応僕が肩書き上は隊長ですが、アレイの方が頭が回るんで、何かあったら彼女に・・・・・・」
私は無言で会釈すると、いろいろ察した様にオリオン大尉は「おう」と頷いた。
「とりあえず、私は飛行隊長へ着隊の報告へ行ってくる」
「あ、案内します」
「なに、十年前までこの基地の所属だった、大体はわかる。休んでろ」
オリオン大尉はそういうとレスティン中尉を連れて庁舎の方へと向かって行った。十年と言ったらジルがこの基地に来る前には居たのか、そう考えると凄いな。
そして、私たちの機体も整備員によって格納庫へと移動されていき整備が始まる。
「待機室に行こっか」
メイセンの様子がおかしい、私は直感で何かを感じとった。
●
搭乗員待機室。
彼は席に着くなり忙しなく足を揺らしていた。
「メイセン、大丈夫?」
「ん?な、なにが?」
彼なりに悟られない様にはしてるつもりだろうが、案外体は震えている。私も以前ストレスで倒れた身だ、メイセンが今どんな状態なのかは大体分かるし、他ののパイロットも彼の異変に気が付かない訳が無い。
「貴方、ずっと震えてるわよ?」
ラメイト大尉も心配して彼の隣に座り様子を伺うが。
「そうですか?久しぶりにケツにつかれたんでまだ緊張してるんですかね!」
ハハハ、とまたぎこちなく笑う。
「水でも飲んで落ち着け」
アヤカルト大尉がコップに水を注いでくれ、メイセンはそれを受け取る。
「あ、すみません」
しかし、その受け取った手も小刻みに震えコップから水が零れそうになるのを慌てて彼は一気に飲み干す。
普段、のほほんとしていてこういうことには縁が無い人だと思っていたが、もう限界なんじゃないだろうか。
「おかしいなぁー」
またぎこちなく笑い、彼はポリポリと首を掻く。
「ちょっと仮眠室で休んできたら?」
「そうだ、ここは大丈夫だ、小一時間ぐらい休んでこい」
ラメイト大尉、アヤカルト大尉が気を使って休むように催促するが。
「大丈夫ですよ」
口は笑っているが目が笑っていない。どこが大丈夫なんだ、と言ってしまいそうになる。
「でもね・・・・・・」
「大丈夫だって言ってるじゃないですか!」
続けようとしたラメイト大尉にあのメイセンが怒鳴り勢いそのままに立ち上がる、顔を赤くした彼は直ぐに我に返り顔を青ざめシュンと席に座った。
「すみません・・・・・・」
「メイセン・・・・・・」
まさか私より先に彼に限界が来るとは思いもしなかった。
「スレイヤ大尉がいない今、アレイを一人にする訳にはいかないんです。頼りない僕でも皆を、アレイを守らないといけないんです・・・・・・」
なにかの糸が切れたようにメイセンはだんだん俯いていき。
「隊長・・・・・・」
そうボソリと呟くと、嗚咽を漏らしながら彼は泣き出してしまった。
周りの人は肩を揺らし泣く彼に声をかけることも出来ずただ私はメイセンの背中を擦ることしか出来なかった。




