第25話 拒否
「嫌です」
「アレイ・・・・・・」
数日後、私とメイセンは飛行隊長室に呼ばれ、開口一番に言われたのがウィンドブレイク隊への編入命令だった。
そんなのは断固拒否だ、間髪入れずに答えた私に隣にいるメイセンが眉に皺を寄せ困り顔をする。
別にウィンドブレイク隊隊長のラメイトさんが嫌いとかではない、とても良くしてもらってるし、むしろ大好きだ。しかも、ウィンドブレイク隊も戦死者が出て元の数が減っている、補充と考えれば普通な事だ。
「アレイ少尉、気持ちはわからんでもないがな・・・・・・」
隊長、ジルが話のわからん奴と嫌っていた飛行隊長、私の気持ちなんて分かるはずもない、私に話を合わせているだけだ。
「私は、私たちはスカイレイン隊です。・・・・・・失礼します」
逃げるように飛行隊長室を飛び出し。
「ちょっとアレイ!きょ、今日のところは失礼します!」
私を追ってメイセンも部屋を後にする。
急ぎ足で足音大きく待機室に向かって歩いているとメイセンに肩を掴まれた。
「アレイ、僕だってスカイレイン隊は残したいけどさ、隊長なんてやれる自信ないよ」
それはそうだろう、メイセンはそういう柄じゃない。
「だったら私がやります」
「もー・・・・・・」
頑固な私に困っている様だがやる人が居ないなら私がやるまでだ、階級なんて関係ない。
私はメイセンに掴まれた手を振りほどいて進み出すも、直ぐに足を止め顔を合わせぬまま言い放つ。
「五人いたスカイレイン隊は今や二人、私はイエローラインを落とす、・・・・・・いや、殺す。ついて来れないならウィンドブレイク隊でもどこにでも行けばいいんですよ」
メイセンの答えを聞く前に再び歩き出す。
「ちょっと待ってって!」
●
搭乗員待機室。
いつも座っている椅子に腰をかけると私の隣、いつもジルが座っていた所をひとつ空けてリン・レンジャーが座る。
彼女も僚機が全て撃墜され、フレイヤ隊からクロー隊に編入しているし思うところがあるのだろう。
特に何も話さないまま沈黙が続く、反対側に座っているメイセンも何か話したそうにしているが私はそれを無視していると。
「ねぇ」
リンが言葉小さく呟く。
「・・・・・・」
私はそれに返事はしない。
「スレイヤ大尉にお礼が言えなかった・・・・・・、今生きてるのも大尉のおかげなのに・・・・・・」
そんなこと言われたら私だって、ありがとうございますのあの字すら言えていない。
私の一方的な好意で半ば無理やり彼の家に上がり込み、好き勝手生活していたがジルは文句一つ言わなかった。小言はちょっと言われたけど楽しかった。
この生活がまだまだずっと続くもんだ、勝手にそう思っていた過去の私を殴りたい。
もっとちゃんと言えばよかった。
「好きです」
って・・・・・・。
嗚咽を漏らしながら肩を揺らせるリンに私は前席の背もたれを睨んだまま話す。
「大尉は、ジルはそんなこと気にするような人じゃない、今も見守ってくれてるはず」
確証はないがそんな気がした。
「私はイエローラインを殺す、ジルの、みんなの仇をとる」
私の言葉にさらに待機室は静まり返った。
ガチャ。
待機室のドアがゆっくり開くとそこには整備員のレノイさんがいた。
いつもそうだが表情の無い彼女と目が合うとクイッと顎で呼ばれ、私は重い腰を上げる。
「アレイ・・・・・・」
メイセンが心配してなのか私の右袖を掴むが。
「私だけでいい」
そう言い残して待機室を出てレノイさんの後に続いた。
後をついて行くと着いたのは格納庫、目の前には灰色迷彩のF-16Uがある、垂直尾翼には五つの流れ星、私の機体だ。
「整備は終わったわ、タイヤが磨り減っていたから交換しておいた、キャノピーもピカピカにしてある」
「・・・・・・」
整備終了の確認かな?言われたままに機体の下に入り、整備交換されたという場所を確認していると。
「・・・・・・ごめんなさいね」
「・・・・・・え?」
●
数日前、ジルが帰ってこなかった日。
私は彼女に殴られた。
「なんでスレイヤを見捨てたのよ!!」
殴られた、と言うよりは押し倒された感じだろう。ジルの機体の燃料最大限界になっても彼は帰ってこず、救難隊が解散した後、地面に座る私の胸ぐらを掴みあげて彼女は私を押し倒した。
「ちょっとレノイ、何してるのよ!!」
私に馬乗りになってさらに殴りかかろうとするレノイさんを後ろから羽交い締めにして静止するラメイトさん。
「・・・・・・」
私は何も言葉が出なかった。
「私たちがそんな事すると思ってるの!?」
レノイさんを私から離して肩を掴んで向き直させたと思うとパチンと頬を叩くラメイトさん。
「隊長まずいですって!」
そこに慌てて割り込むジーオン。取っ組み合いが始まる前に二人を何とか離そうとする。
「私たちもレオナルが死んでるのよ!それをよくも、見捨てたなんて言うわね!!」
彼女の瞳からは涙が溢れていた、体格で負けそうなジーオンが何とか押さえ込み、レノイさんも騒ぎを聞き付けた居残り組のホーク隊隊長、アヤカルト大尉が付き添ってくれているがレノイさんは目を見開いて暴れている。
「何をやっとるかっ!!」
報告から戻ってきたのであろう、ライトイヤー大尉がみんなを怒鳴る。
「ここでどうこう言ったところであいつらは戻ってこん。この託された命、任務を全うするまでだ」
ライトイヤー大尉がそう言うとレノイさんは何かの線が切れたかのように暴れるのを止めて大声で泣き出してしまった。
普段、私よりもクールな人なのに・・・・・・。
●
「私、スレイヤのことが好きだったの」
「え?」
まあ、心のどこかではそうなんじゃないかな?とは思っていた。だから私も取られる前にと行動を起こしたのもある。
「何年もあの人の機体を整備してるとね、癖とか考え方とか全部分かるようになるの。寡黙だけど仲間思い、そんな彼のことがね」
普段ムスッとしていて何を考えているかは分からない事が多かったけど、それは私でもわかった、ジルは本当に仲間思いだった。私の心配だけでなく、リンやラメイト大尉、みんなの心配をしていた。
私もそんな彼が・・・・・・。
「・・・・・・私も好きでした」
気がつけば口から漏れていた。
「でしょうね」
バレてたか。
ビクッとしてレノイさんの顔を見てみると。
「一緒に住んでるのも知ってたわよ」
「えっ」
一気に自分の顔が赤くなったと思うと、いろいろとヤバイんじゃないかと思い血の気が引いていく。
「大丈夫よ、私とラメイトしか知らないわ」
ふふふと笑う彼女、えー、ラメイトさんも知ってたのか・・・・・・。まあ、ジルが保険のために言ったってのもあるかな。
すると彼女はゆっくりと私に近づいてくる。
「死なないでね」
そう言って私の頭をくしゃくしゃと撫でると、彼女はどこかへ行ってしまった。




