第21話 残った人で
疲れたのだろう、アレイとレンジャーは薄暗くした俺の部屋、俺のベッドで同じ布団を被ってスヤスヤと眠っていた。
俺は小さなべランダに出て、夜風に吹かれながらある人に電話で状況を報告する。
『・・・・・・はい、ラメイトです』
『ああ、ラメイトさん、起こしたか?夜遅くにすまんな』
『別にいいわよ、どうしたの?』
『アレイの誘いでレンジャーと三人で宅飲みしてるのは知ってると思うが。様子がおかしくてな、今日は俺の家に泊めさせた』
『・・・・・・そう、いろいろ迷惑かけるわね。迎えに行きましょうか?』
俺は振り向いて部屋の中で眠っている二人を確認する。
『もう寝てるし大丈夫だ、とりあえず報告までに。安心しろ何もせん』
『わかってるわよ』
『話はそれだけだ。じゃ、明日な』
『待って』
『ん、どうした?』
通話終了ボタンを押そうとしたら止められ、再びスマホを耳に当てる。
『・・・・・・あの子たち、配置換えとかしなくていいかしら・・・・・・、見ていて辛くて』
『あー』
配置換え、か。
後方の基地に転属するという意味だろうが、それがあいつら、アレイとレンジャー、二人にとって幸せなのだろうか。戦場から離れて嬉しく思うのか、仲間に捨てられたと思うのか、感じ方は人それぞれだが俺なら後者のように感じるだろう。
『自分から・・・・・・、言わんか。それとなく聞いておく』
メンタルが弱り切ってる奴が自分から無理です、などなかなか言ってこないだろう、アレイもまだ薬に頼っている面もあるが、空が怖いと言いつつも戦闘機から降りようとしない。レンジャーも部隊替えを了承しているし、降りるつもりはないだろうがな。
『ありがとう』
『話はそれだけか?』
『えぇ。ホント、貴方みたいに強くなりたいわ』
『そう見えるだけだ』
何を言い出すやら、俺だって結構メンタルにきてるよ。
『それじゃ、おやすみなさい』
『あぁ』
ふー、電話を切ってスマホをポケットに仕舞い、手すりに肘をついて星が綺麗な夜空を眺める。
今までただの睨み合いだった領土問題が、突然の戦闘に発展し1週間。
初日に俺の隊長を含む六人が戦死。
その三日後にアストロン隊の二人。
そして昨日、フレイヤ隊の二人が行方不明。
気がつけば十人もいなくなっているんだ、逆にまともな俺の方がどうかしていると思われてもおかしくない。
いや、まともに見えるのは傍から見たらの話、俺だって相当に悔しいし悲しい。
だが隊長という立場上、悲しんでばかりいられないだけ。
みんなを守りたいが1人じゃ無理だ、いつか選択が迫られるだろう。
「クソッタレが・・・・・・」
そうならないように強くならないとな。
●
二日後。
珍しく俺とラメイトさん、ライトイヤー大尉、シュリン大尉で飛行隊長室に呼ばれていた。
俺たちを呼ぶなんで珍しい、何か話に進展でもあったのか?
「これを見たまえ」
ん?
椅子にふんぞり返ったままパソコンのモニターを俺たちの方へ向け、そこに映し出されている画像をゆっくりスクロールしていく。
「スカイレイン隊とフレイヤ隊が飛行していた空路の5~10マイル北東にて発見された残骸だ。これを見る限りF-2とみて間違いないだろう」
粉々になった何かの残骸、それをライスヤードの自治警察が発見し写真が送られてきたとの事だ。その中でパーツナンバーが残っていた部品が見つかり、その数字がF-2のものと一致したらしい。
「フレイヤ隊のエスイン大尉とマンダン少尉は、以上のことから死亡したと認定された」
そんなことはわかっていたが、いざ面当向かって言われるとキツイな。行方不明ってどこかで生きているじゃないか、と考え気味だからな。
「そして次だ」
淡々と進める飛行隊長、次に見せられたのは何かの航空写真かな?なんだかよく分からない棒状の建物のようなものが写っていた。
「上級司令部がエルゲートに高い金を払って、軍事衛星によって撮影された写真だ」
エルゲートもぼろ儲けだな。しかし、金さえ払えば軍事衛星を使わせてくれるなんて一体いくら払ったというのか、考えるだけでも桁が違いそうだ。
「これは?」
なんだかよく分からない写真を見て、ライトイヤー大尉が痺れを切らして質問する。
「それがわからんのだ。場所はトリークグラード、ライスヤードの国境から南西に約100キロ地点にある」
えらい近くにあるんだな、その気になれば見れそうだが?
「明日、そこの強行偵察に向かってもらう、派出部隊は君たちで決めてくれ。以上だ」
●
待機室への帰り途中、各隊長でどうするか話していたのだが。
「俺が行こう」
と名乗り出るも。
「スカイレイン隊ばかりに任せるのもな」
「そうよ、貴方頑張りすぎ」
ライトイヤー大尉とラメイトさんに止められ。
「俺が行きたいがF-4は見つかりやすいしな・・・・・・」
シュリン大尉は悔しそうにしている。まあ、見つかって迎撃されたら元も子もないしな。
「だが行くにしても二、三機が限度だ、ウィンドブレイク隊はダメだろ」
「ジーオンと二人で行くわよ」
「あのレオナルとマーチスがそれでいいと言うとでも思うか?」
「んー、確かにそうね・・・・・・」
ラメイトさんの僚機、ジーオンもレオナルもマーチスも彼女に似て頑固だ、俺も行くと言って聞かないだろう。
「それでは今回は私が行くとしよう」
クロー隊、ライトイヤー大尉が締めようとするが。
「でもやっぱり電子戦機もいるんじゃない?見つかったら逃げきれないわよ、それにローレニアが何もしてこないとも限らないし」
ラメイトさんの言うことも一理ある。それに、もしこれが俺たちを誘き出す為の罠だった最悪だし、ローレニア機に挟み撃ちにされでもしたらもっと最悪だ。
しかし、この基地に電子戦機は居ない、この前俺らが行った「カルート基地」か「北パラノアイ基地」という二箇所の基地にしか電子戦機EA-18は居ないし、この状況でそう簡単に支援しに来てくれるのだろうか。
こんな大事な作戦俺らが考えてもいいのか?
腕組みをして考えていると。
「もう一度飛行隊長の所へ行ってくる。待機室で待ってろ」
先を歩くライトイヤー大尉が振り返り、元来た通路を戻っていく。彼ならあの飛行隊長に何か言われても、俺みたいに殴りそうにならなくて済むだろう。無難に任せるとしよう。
「了解です」
残った俺たちは待機室に戻った。




