第2話 どう戦うか
待機室。
ここの基地には撃墜された人達を除き、今は20人のパイロットがいる、そこには俺たちスカイレイン隊、アストロン隊、ホーク隊の他に違う隊のパイロットもいた。
この戦いで初の損失。いや、軍に入ってから初めての損失だ、みんな表情は暗くお通夜ムードと言った感じだった。
「あの飛行隊長頭悪すぎだろ!」
そこに俺は悪態をつきながら少し固めの椅子に腰掛けて足を組む。
「今度はなんて言われたんだい?」
アストロン隊隊長で俺の入隊同期、ガル・ストーレン大尉が長く暗めの金髪を耳にかけながら俺の隣に座る。
「三機相手に逃げるな、とよ、あいつイエローラインを知らないらしい。自分は飛ばないからって好き勝手言いやがる」
「そうか・・・・・・」
思い出しただけでも腹が立つ、イライラと貧乏ゆすりをしていると。
「イエローラインが来たんでしょ?どうだった?」
俺の肩を揉みながら話しかけてきたのは、今回は出撃していなかった第113戦闘飛行隊ウィンドブレイク隊隊長のヤナイ・ラメイト大尉、一応年上だが薄茶のポニーテールが魅力的な彼女は興味深そうに俺の顔を覗き込む。
「どうだったも何も見たらわかるだろ、まさに死神だよ。グレイニアが戦争を諦めなかった理由がわかるって感じだ」
「あら、そう」
直接見た訳では無いが、1年前のバルセル・グレイニア戦争であいつらは猛威を奮っていた。
グレイニア正規軍と共に、たった数機で来る敵来る敵を全て返り討ち、本当かどうかは知らないが一分で八機撃墜したこともあるらしい。さすがにバルセルが数で押し始めると手こずっていたそうだが、それでも強さはおかしかったそうだ。
「んで、だ、それについて話し合わにゃならん」
とりあえず一緒に飛んでいたアストロン隊とホーク隊を集め、ついでにいたラメイトさんも話に加わる。
「まあ、話すも何もイエローラインが出てきたら・・・・・・」
「逃げる」
今や三番機のアレイがボソッと言う。
「そうだ、戦ってどれほどのものか知りたい気持ちも無くはないが、それで落とされたら話しにならん、とりあえずは逃げるが勝ちだろう」
うんうん、とみんな頷く。
しかし、戦闘機乗りとしての意見はさっきも言ったように戦ってはみたい、見ただけではどんな強さのか分からないからな。数々の噂が本当なのかも試してみたいし、まあそれは夢物語かな。
「だが、上がれと言われれば上がらにゃならん。隊長は身体を張って俺たちを逃がしてくれたが次はそうもいかないだろうな」
普段厳しかった俺の隊長は身を呈して俺らを空域から逃がしてくれた、次同じことがあっても俺は同じことは出来ないだろうし、やったとしても俺だけでは済まないと思う。
まだ突発的に起こった衝突、これが戦争にでもなったら頭が痛いな。
「話はそんなもんだ、他に何かあるか?」
俺はみんなを見回す。
不安に満ち満ちた顔、それを俺はどうすることも出来ない。
「じゃぁ終わりだ、なんかあったらいつでも言ってくれ」
とりあえずこの場は別れとした。
●
基地内にある売店のイートインで、俺は1人でテレビを見ながら缶コーヒーを飲んでいた。
テレビに映し出されているのは先程戦った空戦の外交的情報。
『本国領土であるライスヤード地区に共に領有権を主張するトリークグラードの戦闘機が領空侵犯、対応に当たった第3航空団の戦闘機と突発的な戦闘が起こり数名の死者が出ました』
戦闘の映像は無いためアナウンサーは俺たちのF-16と、トリークグラードとミラージュの写真を背景に起こったことを淡々と説明を続ける。
あそこ、石油資源が眠る地域はライスヤード地区という。まあ、もともと三国が交わる国境があるから昔からいざこざが絶えず、人もあまり住んでおらず荒れ果てた荒野が続いている。
領有権についてはウイジクランが実効支配を続けていたのだが、こういう状況になっている。
『また、ローレニアもこの突発的な戦闘にに空軍を派遣し事態の終息を図ろうとし、双方の意見が食い違うまま混乱を極めています。ウイジクラン共和国外務省はこの二国に対して、ライスヤード地区については我がウイジクラン固有の領土であり今回の戦闘については我が方に正当性がある、と主張しています』
正当性ねぇ、各国が自分の言っていることは本当だと信じてやまない状況だからこそ起きるこの領土問題、誰が正しいなんて当事者同士で決めれるはずもない。まあ、色々と無理のあることを言ってるやからもいるが、ローレニアとかに武力で押さえつけられたら何も出来ない。
そういう時の世界の警察を自負しているエルゲートなのだが、今回の領土問題については我関せず、グレイニア戦争の撤退を皮切りに対外勢力を弱めている気もした。
「三カ国共同開発とか出来ないのかねぇ」
そんなの夢のまた夢である。
「無理でしょ」
ウィンドブレイク隊の隊長ラメイトさんが後ろから話しかけ、片手に同じようにコーヒーを持って俺の隣の椅子に座る。
「分かってるよ」
結局世の中、金だ。ズズズ、とコーヒーを啜る。
この人、28歳で俺の1つ上なのだが、何かと理由をつけては俺に話しかけてくれる。まあ、かれこれ二、三年の付き合いだしいろいろ気にかけてくれてるのかな?深くは考えたことは無い。
「でも、戦闘機乗りのあなた達がどうにかしてくれないとね。地上の私たちは何も出来ないから」
次に現れたのは少し前に会った整備員のレノイだ。テーブルを挟んで俺の対面に座る。
「整備は終わったのか?」
「ええ、もちろん。休憩ぐらいさせてちょうだい」
こいつもこいつで俺の事を気にかけてくれているようなのだが、大概ラメイトさんと話しているとどこからともなく現れてきて話に入ってくる、正直少し怖い。
「あ、ジル、また二人と一緒にいるのか、モテる男は辛いねぇ」
「うっせーな、そんなんじゃねぇよ!」
と、前を通りかかった同期のガルにいじられるまでがテンプレである。おー、怖い怖いとガルは急ぎ足で逃げていく。あいつ、僚機が落とされてるのに呑気だな・・・・・・。まあ、あえてそう振舞ってるのかな。
「まったくあいつだけは・・・・・・」
しかし、そう言われるとどうなんだろう、二人は俺の事をそんな風に思っているのか?少なくなったコーヒーを啜りながら二人を見るも、いつものように表情固くラメイトさんはテレビを眺め、レノイは彼女と目は合わさず同じようにコーヒーを啜っている。んー、わからん。
まあ、わかったところでどうにも出来んが。
「そう言えば、メイセンくんと、アレイちゃんは?」
俺の隊員がいないことにラメイトさんが気がつく。
「ん、ああ、俺といるより若いもんと一緒にいる方が楽だろ」
「あんたそんなに歳食ってないでしょうに」
正直俺は話かけられれば話すし、話しかけなければ話さない、そんな性格だ。変に三人でいるより若いものは若いもの同士で楽しくやってる方が気が楽だろうと思っていた。空でちゃんと指示を聞いてくれればそれでいい。
「そうでも無いようだけど?」
レノイが誰かに向かって手招きする、その方向を見ると。遠目からメイセンとアレイがこっちを見ていた、二人は見つかった!と肩をビクッとさせていたが恐る恐るこっちに歩いてくる。
「どうした、二人して?」
モゾモゾとしているメイセンに、表情を全く変えないアレイ。ん?と首を傾げると。
「スレイヤ大尉に、話が・・・・・・」
「はい」
話し?俺に?
まあ、なんかあったら言ってくれと言ったからにかあったのか?
「あら、私たちはいない方がいいかしら?」
空気を読むラメイトさんとレノイ、コーヒーをグビッと一気飲みして立ち上がる。
「あ、いえ、そんなたいした話じゃ・・・・・・」
と、メイセンは言うものの、「大丈夫大丈夫、じゃあまた」と二人とも違う方向に帰っていった。
俺はなんだ、どうした?と二人を椅子に座らす。
話しづらい事なのか、なかなか口を開かないメイセン、別に予定もないし焦ることもない、気長に待っていると。
「空が、怖いです」
アレイが先に口を開いた。
登場人物一覧
西クリンシュ空軍基地
ウイジクラン空軍第3航空団
第112戦闘飛行隊「スカイレイン隊」 F-16U
部隊マーク「五つの流れ星」
スカイレイン1、ジル・スレイヤ大尉、27歳
スカイレイン2、カロキ・メイセン中尉、25歳
スカイレイン3、ルイ・アレイ少尉、23歳女
第112戦闘飛行隊「アストロン隊」 F-16U
デフォルメしたロボット
アストロン1、ガル・ストーレン大尉、27
アストロン2、ミリア・シャトール中尉、25女
第113戦闘飛行隊「ウィンドブレイク隊」F-16U
鎌
ブレイク1、ヤナイ・ラメイト大尉、28女
ブレイク2、ケイラ・ジーオン中尉、26
ブレイク3、リーチ・レオナル少尉、25
ブレイク4、レオン・マーチス少尉、25
第114任務飛行隊「ホーク隊 」F-16U
ミサイルを掴んだ鷹
ホーク1、グリッチ・アヤカルト大尉、26歳
ホーク2、ニル・トマーソン中尉、24歳
ホーク3、ロッゾ・ジーキル少尉、23歳
第115攻撃飛行隊「フレイヤ隊」F-2
炎のついた矢
フレイヤ1、ゴース・エスイン大尉、30
フレイヤ2、リン・レンジャー中尉、26女
フレイヤ3、アダス・マンダン中尉、26
第115攻撃飛行隊「クロー隊」F-2
二本の爪
クロー1、ルーク・ライトイヤー大尉、31
クロー2、ツリット・ドグ中尉、26
第116飛行隊「アトック隊」 F-4
クロスした斧
アトック1、マツ・シュリン大尉 28
アトック2、タノ・ウィーバ中尉 26
アトック3、ユルト・ムラーニ少尉 25
計20人




