第19話 超兵器
2140時、ライスヤード地区上空。
俺たちはいつもの高めの高度をとると危険と判断し、高度1500フィートを巡航速度でローレニア機対応のため飛行していた。
〈ーーこちらローレニア王立空軍第44飛行隊、ライスヤード上空を飛行中のウイジクラン戦闘機へ、貴隊の所属を知らせ、オーバー。ーー〉
お出ましだ、やっぱりイエローラインが来てるのか、男か女か良くわからん声で質問される。
《ーーこちらウイジクラン空軍第112飛行隊、我々は領空警備のため飛行中だ、オーバー。ーー》
以前と同じように毅然と対応する、別に俺たちは領空を飛んでるだけ、誰に文句を言われる筋合いもないしここで逃げると生きても死んでも後々面倒だ。
〈ーーあー、この声は流れ星か。この近くの基地には君たちしかいないの?ーー〉
イエローラインに俺たちの部隊マークを覚えられても全然嬉しくないし、たまたま俺たちが毎回相手しているだけだ。しかし、なんで今日はそんな砕けた話し方で交話してくるんだ、いろいろと怖すぎる。
《ーーそんなわけないだろ、聞かれても編成は言わないからなーー》
《ちょっと隊長っ》
メイセンに心配されるがこの程度の挑発で怒るようなイエローラインでもなかろう、その気になれば俺たちなんかひと捻りだ、それに相変わらずどこにいるかわからんし様子を伺う。
〈ーーわかってる。今日は交戦に来たわけじゃない、先程ローレニア領内にて何者かの攻撃を受けた、砲弾かミサイルかは不明だが被害状況からしてこちらの方向から何かしらの物体が射出された可能性が高い、君たちは何か知らない?ーー〉
〈隊長っ!〉
そんなこと言っていいのか?向こうの僚機も心配して声をあげているようだ。何かの罠の可能性もあるが俺もさっきあったことを話してみる。
《ーー俺たちも僚機が二機行方不明になっている、それと何か関係あるか?わかってることは行方不明になる直前に空が光って爆発音みたいな轟音が響いたぐらいだーー》
んー、と唸って考えているイエローラインの一番機、俺の言うことを信じてるのか?敵の言うことを簡単に信じるなんて意外とお人好しだな。
《どこを飛んでるか知らんが真っ直ぐ飛ばない方がいいぞ》
俺もなんで憎きイエローラインに忠告なんかしているんだろうか、あの光でイエローラインには消えてもらった方が俺たちとしては随分と楽になるのに。
〈ーー君面白いな、忠告を聞き入れるよ。各機ブレイクーー〉
お前の方がよっぽど面白いよ、そんなことを思っていると。
ピカッ!
マズイ!思った頃にはもう遅い、キャノピーの外側は真っ白の光に包まれ辺りに轟音が響き機体がガタガタと大きく揺れる。
《お前ら大丈夫か!?》
バイザー越しでも伝わる強烈な光に目をしかめつつ、慌てて付近を見回すと俺たちは幸いにも誰も欠けていない。
《もうなんなんですかアレは!?》
《スカイレイン3、無事です》
メイセンも訳の分からない状況に怒っているし、アレイは一応まだ冷静さを保てている。
もっと高度を下げて辺りを警戒するが何も分からない。
〈ーーなるほどこれか・・・・・・、ブルー隊各機一旦帰投する。君たちも気をつけて帰るんだ。あ、流れ星、ちなみに部隊名はなんなの?ーー〉
どこにいるかもわからないままイエローラインは帰投する様子。なんで敵に心配されにゃならんのだ!しかも友達みたいな軽い感じで話してくる、こっちもこっちでわけがわからん。
言ってもいいのか少し考えるが不都合などなかろう。
《スカイレイン隊だ・・・・・・》
〈ーー空の雨・・・・・・それで流れ星?いい名前だね。俺たちはブルー隊だ。また会おう、アウト。ーー〉
死神になんかにしょっちゅう会いたくねーよ、次にあった時どちらかが死ぬかもしれないんだ、じゃあな、なんて言う気にもならん。
《隊長、なんなんですかあのイエローラインの一番機・・・・・・》
《知るかよ》
敵なのに優しくしてくるなんてな。アレだ、次に会敵した時に油断を誘う罠だ、そうに違いない。
クソッタレが、馴れ馴れしく話してきやがって・・・・・・。
しかしそうやって腹を立てている間にまた空が光ったらたまったもんじゃない、警戒対象がいなくなったんだ俺たちも帰ろう。
《スカイレイン隊帰投する、地表スレスレを飛べ》
《スカイレイン2、ウィルコッ》
《スカイレイン3、ウィルコ》
進路を南東にとってライスヤードを離脱、それからは空も光ることも無く基地に帰投した。
●
基地に戻り、機体をレノイら整備員に預けて待機室に戻ると部屋の隅にいるレンジャーのそばにラメイトさんが居て目が合う、その隣にジーオンもいる。帰ってきたのか、同期だしな心配なのだろう。
「おかえり・・・・・・」
「あぁ」
何を話していいのかもどう接していいのかもわからん、とりあえず俺たちはいつも座っている席に腰をかける。
「報告は?」
「済ませた、報告書を書かんとな・・・・・・」
「そう・・・・・・」
しばらく沈黙が続く。
「アレイ、大丈夫か?」
「はい」
いつもの無表情のアレイ、大丈夫そうか。
「レンジャーのそばにいてやれ」
「わかりました」
アレイも相当不安なはずだが、彼女は俺の隣からスっと立ち上がり、俯き下を見続けピクリとも動かないレンジャーの隣に座って背中をさすっている。それに変わってラメイトさんが俺の隣に来る。
「何があったの、レノイに聞いてもわからないって言われて、レンジャーもあんな状態だし・・・・・・」
「・・・・・・」
説明のしょうがない、空が光って消えたと言ってもなんの事だかわからんし、その場にいた奴しかあの恐怖はわからんだろう。
イエローラインに追われるよりも恐ろしい、光った後には誰かいなくなっている恐怖。
「イエローライン?」
「・・・・・・いや違う」
一つだけわかることはローレニアは関係していないこと、あいつらも原因を探していたしな。探すふりをして俺たちを撹乱している可能性もあるがあの言い方じゃそうじゃないだろう、ということは。
「トーリークグラードだろう」
「え?」
消去法でそうなってしまう。
しかし、だ。
仮にトリークグラードが何かしていたとして一体全体あれはなんなんだというのか、ビームか何か撃ってきたとでもいうのか?SF映画でもあるまいし・・・・・・。
「SF・・・・・・?」
「どうしたの?」
何かが頭に引っかかった。
そいえば以前、ミリオタのシュリン大尉が何かの雑誌を見ながらやけに興奮していたのを思い出す。
俺は無言で立ち上がり、シュリン大尉が自分の雑誌や小物類をいつも置いている棚を漁る。
「ちょっと、なに?」
ラメイトさんにマズイんじゃない?と止められるがそんな場合ではない。
「これだ」
「へ?」
胡散臭い世界の兵器特集と銘打ったミリタリー雑誌、それをペラペラと手早くめくっていると。
見つけた。
トリークグラードが西の隣国「ガリア社会主義連合」と共同開発中と噂の。
「超高出力電磁砲・・・・・・」
いわゆるレールガンのさらに高出力バージョン、これの可能性が高かった。