第16話 明日
基地にいる時はクールモードで多少は大丈夫だったが、報告も全て終わり家に帰るとアレイは全く俺から離れようとしなかった。
「俺はちゃんとここにいる、大丈夫だから、な?」
そう言っても俺の手をしっかりと握って離そうとしない。
悲しいのは俺も痛いほど分かる、明日はガルの遺品整理をせにゃならんのだ、落ち込んでばかりも居られない。しかも、この状況でウィンドブレイク隊は当直をしているんだ、しっかりしろとしか言えないんだよ。
「どこにも行かないでください・・・・・・」
「だからここにいるだろ」
どうしろって言うんだよ・・・・・・。
困って頭を掻いていると。
「私の前から居なくならないでくださいっ!」
そう叫ぶと、何かの糸が切れたかのように俺に抱きついて泣きじゃくり出してしまった。
わんわんと泣き、俺の手を握ったまま力なく床に座り片手で涙を拭いているも次から次へと涙は溢れ出ている。
「大丈夫だ、居なくなんねぇから」
そんな保証どこにもないが言わないとこいつが落ち着かない、よしよしと空いている手で背中を擦ってやるが落ち着く気配はない。
すると急に呼吸が浅くなり凄い速さでハァハァと苦しみだす。
やばい!
握る手を振りほどいてキッチンに急ぎビニール袋を取り出し、それに息を吐いて吸うように口に持っていき、その間に安定剤の薬を探す。
えっと確かこのポーチに・・・・・・、あったあった!
「落ち着け、深呼吸だ」
背中を擦り少し落ち着いてきたところで水と薬を渡す。
薬が効いてくるまで少しかかる、それまではゆっくり呼吸をするように促してベッドに移動させ、片手で彼女の手をしっかりと握ってやり空いている手で引き続き背中を擦る。
二回目にしては落ち着いて対処出来たかな、しかし心臓に悪い。
しばらくそうやって背中を擦っていると。
「ありがとうございます、もう大丈夫です・・・・・・」
「そうか」
落ち着いたようで良かった、今日ばかりはさすがに禁酒だな、薬も飲んでるし。
「何が食べたい?」
「食欲無いです・・・・・・」
まあ分かるが。
「明日も明後日もあるんだ、ちゃんと食べろ」
いくら悲しくて食欲が無くても俺たちは生きている以上、必ず明日がやってくる、ちゃんと食べないと気分も更に落ち込むし身体ももたん。
「・・・・・・じゃぁ、ハンバーグがいいです」
「ハンバーグな、ひき肉が無いから一緒に買いに行こう」
「はい」
外を歩けば多少の気晴らしにもなるだろう、俺はアレイの手を繋いだまま近くのスーパーへと向かった。
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外に出ると人目を気にしてか少しだけ離れたところを歩いていたが、再び家に帰ると俺の腕を掴んで離そうとしない。
とりあえず、玉ねぎをみじん切りにしてもろもろの具材をボールに入れ混ぜ合わせる。
こんなもんでいいかな?
ある程度混ぜるとそれを手に取って小判型に形を整えていく。
するとそれを見てかアレイもボールに手を伸ばし、ハンバーグの具材を手を取って俺と同じように形を整え、パンパンと叩いて中の空気を抜いていく。
「おお、様になってるな」
「・・・・・・見様見真似ですけど」
それでも手際は良かった、男料理の俺が言うのもなんだけどな。
「だが、少し小さくないか?」
「私用なんで」
「そうか」
ならいっか、特に気にせず2つ目を作っていると。アレイは一際大きいのを作り出した。
「あー、それは?」
「ジル用です」
「おお、そうか、ありがとう」
特大のハンバーグ、火を通すのに時間がかかりそうだ。
「二つ食べれるか?」
「・・・・・・はい」
「じゃー、これはアレイのな」
「ありがとうございます」
お返しに俺が作っていていた二つ目をアレイのにする、そんなにデカくもないし食べれるだろう。
そして、整形が終わってフライパンに油を敷いてコンロに火をつけ頃合を見計らって熱されたフライパンにハンバーグを乗せる。
ジュージューと音を立てていい匂いが部屋に充満する。
「美味しそう!」
ちょっとは元気になったかな?ウキウキした感じでアレイがまだかなー?とフライパンを覗き込んでいると。
「あちっ!」
油が跳ねて腕についたのか、あつつ!と腕をさすっている。
「おいおい、大丈夫か?」
さすっている腕を取り濡れ布巾で拭いてやる、ちょっと赤くなってるかな?これ以上跳ねないように俺はフライパンに蓋をして蒸し焼きにする。
「ありがとうございます」
「危ないから座ってろ」
「はーい」
どうやらいつものアレイに戻ってくれたか、いつものというのもなんだか変だが俺の言うことを素直に聞いてベッドに座りテレビをつけて、まだかなー、と揺れている。
弱火で焼いてるからまだ時間がかかる、俺も壁にもたれてテレビを眺める。
つい最近まで1人寂しく簡単な飯しか作ってなかったが、アレイが来てからちょっとだけ凝ったのを作ってるし、酔った後始末とか迷惑だったがなんだかんだ言っても楽しかった。
ほんと、なんで付き合ってもないのにこんな同棲生活みたいなことしてるのやら。
おかげで前までただの部下ぐらいでしか思ってなかったのに、基地では見たことない可愛い笑顔とかを見たせいなのか変に意識するようになっていた、基地ではいつものクールなアレイだからそこまで何も思わないが家に戻ると普通の女の子、それはもう反則だった。
「どうしたんですか?」
「あ、いや」
気がつけば俺はアレイを見ていて慌てて視線を逸らす。
「ん?」
と彼女は可愛らしく首を傾げる。
なんなのかな、俺、アレイのこと気になってるのかな?
いやいや、直属の部下に恋心などあってはならない!
気になるのは部下として心配しているだけだ、そうに違いない!
頭をブンブンと振って色々と考え直す。
しかし、心配だからって手料理とか振る舞うか?
いやー、ダメだダメだ考えれば考えるだけアレイのことを考えてしまう。
フライパンの蓋を開けてハンバーグをひっくり返そうとすると。
「あっつ!」
アレイと同じように油が腕に跳ね、我慢をするが全部ひっくり返したところで跳ねたところをさする。
「大丈夫ですかー?人のこと言えませんよ?」
ニヒヒー、と笑うアレイ。
「たまたまだ」
何故か俺はそんなアレイの顔を直視出来なかった。
そしてしばらく焼いている間に付け合せのサラダとインスタントのスープを作ってアレイにテーブルに運び、ハンバーグを皿に盛り付け、これもテーブルに運ぶ。
あとはパンを二、三枚切り分けて終わりだ。
「わー、美味しそう!」
目をキラキラさせてヨダレが垂れそうなアレイ。
「食べるか」
「はい!」
ナイフとフォークを持ってハンバーグを1口大に切ろうとすると。
「ジル・・・・・・」
「ん、どうした?」
アレイが声を小さく少し俯いて話しかけてくる。
どうしたんだ?抑揚が激しくて適わんな。
「明日も、いや、これからも一緒に住んでいいですか?」
「へ?」
何が言いたいのか俺には直ぐに理解することが出来なかった。