第14話 死神
翌朝、10月13日、待機室
いつもの席に座って、いつもの缶コーヒーを飲んでいると。
「ガルから聞いたんだけど、奢ってくれるの?」
「奢んねーよ!」
朝イチ話しかけられたのはラメイトさん、あいつ言いふらすの早すぎだろ、怒ろうにもガルはまだ来ていない。
「貴方一応私は上司よ!」
「あーあ!すみませんっ!」
まだ8時にもなってないんですけど、朝から飛ばしすぎじゃないですかね?
同じ大尉で年数も歳も一つしか変わらないのにいいじゃないか、適当に相手していてもそれを理由に奢れ奢れと煩い、この調子だとラメイトさんのウィンドブレイク隊にも奢らないといけなくなる、断固拒否だ。
「おはようございまーす」
「まーす」
ガルとシャトールが仲良く一緒にお出ましだ。
奢れ奢れと俺の首元を掴んで、メイセンにまあまあと言われつつも執拗いラメイトさんは置いといてあいつを呼ぶ。
「ガル!お前他の人に言うなよ!」
「え?あー、ダメだった?」
「ダメだ!」
まったく何を考えているのか、悪気もなさそうにハハハと頭を掻いている。
ブーーー。
突然、基地内放送の合図が鳴り聞き耳を立てる。
《ーーAWACS目標探知、トリークグラード戦闘機がライスヤード地区に接近中、アストロン隊、ウィンドブレイク隊はスクランブル急げーー》
急に待機室がバタバタと慌ただしくなる。
《ーースカイレイン隊、即時待機ーー》
おっと俺らもか。
「ガル気をつけろよ」
「ああ!」
来たばかりのアストロン隊のガル、シャトールが先にそのまま待機室を駆け出し。
「私には!?」
部屋を出かけてわざわざ止まって俺に問いかけ、「もっ!」と背中に男だがラメイトさんより小柄で黄髪ショートのジーオンがぶつかる。
「ラメイトさん達も気をつけて」
「ありがとう!」
ウィンドブレイク隊のラメイトさん、ジーオン、レオナル、マーチスを先に行かせて俺らスカイレイン隊はその後を追って格納庫に急ぐ。
即時待機と言っても飛ぶ可能性が高いだろうな、機体に着く前に。
「アレイ、大丈夫か?」
隣を走るアレイに確認しておくが。
「問題ありません」
基地バージョンの彼女は真顔でクールに返してくる、本人が言ってるんだ大丈夫だと思いたい。
格納庫について俺たちがコックピットに乗ると駐機場まで牽引されていき、その途中で機器のチェックを済ませる。
《ーー管制塔より各隊、トリークグラードのセレン空軍基地から航空機六機が離陸し、北へ進んでいるとの情報を得た。アストロン隊とウィンドブレイク隊はその部隊の警戒にあたれ、領空侵犯してきたら警告射撃許可、反撃を受けたら上級司令部からの許可の後迎撃を許可するーー》
《アストロン隊、ウィルコ》
《ウィンドブレイク隊、ウィルコ》
牽引される俺たちの前を横切って、六機のF-16がエンジンを点火し自力で滑走路へと向かって行き、順次離陸していく。
《スカイレイン1から各機、すぐ飛ぶだろう、機器のチェックを済ませろ》
《スカイレイン2、ウィルコッ》
《スカイレイン3、ウィルコ》
さてさて、飛ばないに越したことはないがトリークグラードが来て、俺たちウイジクランが警戒に行くと当然のようにローレニアも来るだろう、そうなってしまったら俺らの出番だ、イエローラインが来ないことを祈るしかない。
●
15分後。
もうそろそろアストロン隊たちがライスヤード地区に着く頃か、出番は無さそうかな?
《ーー管制塔よりスカイレイン隊、アストロン隊より報告、ローレニア機接近中、直ちに出撃せよ。ホーク隊即時待機、準備出来次第出撃ーー》
AWACSからではなくアストロン隊からの報告ってことはレーダー探知できていない、と言うことはそういう事だ。
《くそっ、行くぞお前ら。スカイレイン隊、出撃する》
悪態もつきたくなる、ローレニア機はイエローラインでほぼ確定、速く行かないとアストロン隊とウィンドブレイク隊が危ない。
エンジンを始動しすぐさま滑走路に向かって離陸、デルタ隊形をとりアフターバーナーを使って北のライスヤードに向かう、ホーク隊も10分以内には離陸して俺らを追ってくるだろう。
《集中しろイエローラインだ、今回ばかりは逃げれんぞ》
《ス、スカイレイン2、ウィルコ》
《・・・・・・スカイレイン3、ウィルコ》
声が震えているメイセンに、声が全く出ていないアレイ、空戦中に過呼吸なんてなったらそれこそどうしようもないがアレイだけを戦闘に参加させない訳にもいかない。
《心配するな、いざと言う時は守ってやる》
《頑張ります!》
《大尉に手間はかけさせません》
ちょっとはマシになったかな、さっきより声はよく聞こえるようになった。
《急ぐぞ》
俺たちは音速を軽く超えて北のライスヤード地区に急行する。
●
ライスヤード地区上空。
このライスヤード地区にはウイジクランが実効支配してるにも関わらず隣国に気を使ってなのか陸軍は展開していないし、ましてや対空ミサイルも配備されていない、制空権をとった者がここを制すると言っても過言でもないだろう。
それだとローレニアが圧倒的有利なのだが、上はその事がよく分かっていないらしい。
《こちらスカイレイン隊、援軍に来たぞ》
《おっせーよ!こっちはてんてこ舞いだ!》
《早く援護に回って!》
ガルもラメイトさんも必死すぎて俺に怒ってくる。
さて、とりあえず戦況を見極めよう。
トリークグラード機が三機、情報より少ないが地表から煙が上がっているのを見ると撃墜したのかな。俺らウイジクラン機が六機、誰もやられていないようで良かった。そして。
《ローレニア機は?》
イエローラインが見当たらない。
《真上だ!避けろ!》
《うぉ!ブレイク!一旦離脱!》
ガルに言われるがまま上を見上げると空高くから機影が迫ってきていて慌てて2人を連れて離脱、運良く攻撃を受けることも無く一旦乱戦から離れるが。
《赤翼って聞きてねぇぞ!》
《俺はちゃんと報告した!》
その機体は暗灰色に塗られた見たことも無い機体、パット見はラプターに似ているが相手はローレニア機だSu系の機体だとは思うが、そいつは両翼端を赤く染め、小型の機体を三機、後ろに連れていた。
イエローラインの次は赤翼、ローレニアの王家直轄部隊かよ、ますますこの戦場はヤバいやつが集まってきたな。
すると俺を通り過ぎて行った赤翼に追従していた小型機がブワッと散開した。
おっと、嫌な予感。
《ありゃローレニアお得意の無人機だな、容赦なく来るぞ、回避に専念しろ》
ローレニアのお家芸とでも言うのか、無人機を使って戦場を混乱させつつ有人機で叩きのめしていく。今回の無人機はあの赤翼の指揮のもと飛んでいると思っていいだろうな。
《アストロン隊、ウィルコ!トリーク機に押しつけろ!》
《ウィンドブレイク隊、ウィルコ》
俺たちはどうするかな。
無人機は三機、綺麗に一機づつ、トリークグラード機、アストロン隊、ウィンドブレイク隊についている、ウィンドブレイク隊は四機編隊だ。
《スカイレイン1からウィンドブレイク1、ウィンドブレイク4をアストロン隊につけろ》
三対一ならどうにかなるかな。先輩だがそんなこと言ってられない、気づいたやつが指示を飛ばす。
《今言おうとしてたところよっ、ウィンドブレイク4はアストロン2の援護に回って》
《ウィンドブレイク4、ウィルコ》
無人機に追われつつ四機の端を飛んでいた一機が離脱、すれ違ったアストロン隊に合流すべく旋回し、アストロン隊に迫る無人機をついでに追うがキレイに躱されている。
さて、有人機三機対無人機一機は作れた、みんなワーワー言いながらも落ち着いているしこのまま押し込みたい。
《俺たちは赤翼の対処だ》
いつの間にか再び俺たちのはるか上空を飛んでいる見たことも無い赤翼、三人でかかれば追い払うことぐらいできてもいいし、無人機の母機なら無人機の管制に意識がいってるだろう、機首を上げて奴に迫るが。
上空の赤翼は俺たちに気づいたのか機体をクルッと反転させて急降下、機首を俺たちに向けている。
《無理か、離脱しろ、立て直す》
正面向かって撃ち合いなんか無理だ、目標を絞られないように散開離脱する。
《なっ!いつの間にっ、イエローラインだっ!!ーー》
《隊長!》
その報告を最後に、アストロン隊一番機は炎を上げて地表に落ちていった。