第13話 脅し
「ちょっと暑いですねー」
「ああ、オーブン使ってるからかな」
換気扇つけるの忘れてたなぁと思っていると、俺の肩に頭を預けたままアレイはおもむろにジャージのジッパーをジーッと胸まで下げ始め、大きな胸の谷間が露になっていた。
え、シャツ着てないの?てか何してんの!?と思うも男だから仕方ない、チラッと思わず見てしまうと、豊満な谷間の次にアレイと目が合う。
「なんですか?」
ん?と酔っているからなのか、頬を赤くしアホ面をして首を傾げて俺を見てくる。
そんな目で俺を見るな。
「換気扇つけるな」
「はい」
どうも居心地が悪くてアレイの横から避難。
キッチンの換気扇をつけて、オーブンを覗き込む。
もうちょっとかなー?グツグツと膨らんでいるチーズを見ていると。
「まだですかねー?」
といつの間にか立ち上がっていたアレイが、俺の真横に顔をやってオーブンの中をのぞき込む。
「うぉビックリした、近いんだって!」
「えーダメなんですかー?」
うりうりーと俺の腕にしがみついてでかい胸を押し付けてくる。マジでダメだって!
チーーン。
タイミングよくオーブンが焼き上がりの鈴を鳴らす。
「出来たぞ、熱いから離れろ」
「はーい」
スッと俺から離れてオーブンに釘付けのアレイ、俺はミトンを手につけてオーブンを開け台を取り出すと。
「おお!美味しそう!」
「あー、ちょっと焦げてるな」
少しだけ焦げてしまった方を俺の皿に取り分け、扇状に切りベッド横のテーブルに持っていく。
「飲み物準備しますねー」
「ああ、ありがとう」
俺はピザをテーブルに置くと他に特にないので座って待っていると。ふんふんと鼻歌を歌いながらキッチンで飲み物を作るアレイ、ん?作る??嫌な予感がする。
「お待たせですー」
出てきたのは昨日の残りの梅酒を使ったロックがきっちり二杯。
お前いい加減にしろよ、という言葉が喉まで出てきたが止まってしまう。もういいや、怒るのもバカバカしいし、なんで怒ってるのかもよく分からん。
「あれ、怒らないんですか?」
ズズと梅酒を啜りながらも、なんだか勝手に拍子抜けしているアレイ。
「好きにしろ」
「すみません・・・・・・」
注意したらしたで調子に乗るし、注意しなかったらしなかったで落ち込む、訳が分からん。構ってちゃんかよ。
しかし、効果的面だったのかズーーンと思いのほか落ち込むもんだから、やりすぎたか?と思ってしまい、隣に座るアレイの頭を優しく撫でて。
「マジでそれで終わりな」
と半ば呆れて言うと。
「はい!」
嬉しそうにニッコリと笑っていた。
●
食事も終わり、歯も磨いたし特にやることも無くなったし早めの就寝。
ちょうどいい感じに酔っているアレイは俺の布団で丸くなっていて、家主であるはずの俺は床の寝袋で寝る前に少しだけ動画投稿サイトで動画を見ていた。
ツンツン。
ん?背中を突つかれベッドの方を振り向くと、アレイが顔だけ出して俺の方を覗いていた。
「何見てるんですか?」
俺が見ている動画が気になる様子。
「ああ、キャンプ動画って言うのかな、こんな道具がありますよー、ってやつさ」
実際にキャンプをしながら新商品やら使いやすい道具を説明してくれる動画を見るのが最近のマイブーム。
「キャンプしたことあるんですか?」
「昔な、学生の頃だ」
「へぇ、一緒に見ましょうよ」
「ちょっとおい!」
アレイがベッドの上から俺をグイグイ引っ張る、いやいやいやダメだって!と思いつつも結構な力で引っ張って来るもんだから仕方なく同じベッドに横になる、もちろん布団の中には入らないが。
「なんで入らないんですか?寒いんで入ってください」
「あ、ああ」
寒いのが理由?入れと言われて入らないのも悪い気がして、無駄に緊張しつつ同じベッドにうつ伏せで横になり同じ布団にくるまる、しっかりしろこれは俺のベッドで俺の布団だ、そう自分に言い聞かせるも、なんだか甘い匂いがして頭を振って意識を保とうとする。
「続き続き!」
再生ボタンを押すように急かされる。
そして、小さいスマホだ、画面が小さから。
「近けぇよ!」
「よく見えないんですもん」
アレイがここぞとばかりに密着してくる、スマホを持って肘を立てて上半身を支えている俺の腕に自分の腕でを巻いて掴んでくるのだ。
「大尉暖かい、なんだかカップルみたいですね!」
「・・・・・・」
純粋無垢というのか自分がやってる事が分かってないのか、素なのかわざとなのか俺には分からない彼女の言動。わざだとしてもそんなこと言うな!世の男性なら99%勘違いするぞ!俺は返事に困り表情を固めて黙っていると
アレイは真剣にスマホの動画を見つめる。
「こんなのあるんだー」
画面に向かって独り言を言うアレイ、俺はそれを横目に見つめる。
「大尉はなんで私に優しくしてくれるんですか?」
おっと、突然の真面目モードか、三重人格の1人が出てきた。これを言ってしまうと張り倒されるので俺の中の基準にしている。
基地のクルールなアレイ、酔ったアレイ、不安そうなアレイ、俺の家に来ると大概二番目だが、今は三番目だ。
「なんでってお前、俺の部下だからな。それに優しいか?注意ばっかりしてる気がするが」
最近ではそんなに怒っていなかったが、前の隊長が生きていた時はかなりあれはダメだこれは違うとガミガミ怒っていた気がする。
「それを含めてです、今だって私のせいで迷惑かけてるのに・・・・・・」
スマホを凝視しつつも、ギュッと俺の腕を握っている手に力が入る。
いろいろ不安なのを酒で誤魔化してる感が強いアレイ、どう言ったものか。
「別に迷惑なんて思っちゃいない」
ちょっとは思っているが、酒癖が悪いとことか、しかしそこは言わない。
「意外と楽しいからな」
スマホをアレイに渡して、ぐるっと寝返りをうち仰向けになって両手を頭の裏に置き天井を見つめる。
するとアレイは俺のスマホの画面をすぐに消して、俺の右腕を引っ張ってくるので、なんだ?と伸ばすと普通に腕枕を強要してくる。
「今日は過呼吸になるかもしれないので添い寝してください」
「どんな脅しだよ」
ギュッと俺の方を向いて服を掴んでくるが、理由が理由で鼻で笑ってしまう。
「わかったよ、ちゃんと貰った薬飲んでるのか?」
「はい・・・・・・」
ゴソゴソとアレイの頭の位置を痛くない場所に直してもう少し壁側に寄ってもらう、スースーとアレイの呼吸する音が聞こえて何故か俺の心臓の音も自分の耳から聞こえてくる。
今日寝れるかな?アレイが寝てしまったら寝袋に戻るとしよう、そんな事を考えているとこいつは俺の脚に片脚を載せてきて逃がしてくれそうにない。
あーあ、寝れなかったら基地でコーヒーを強請ろう、とりあえずどうかしてしまいそうだったので俺は目を閉じた。