第12話 押しに弱い
待機室に戻ると、いつもの場所にメイセンとアレイは座って待っていた。
メイセンはガルと、アレイはシャトールと話しているが俺が入ってくるのが分かると目が合う、俺はその二人を手招きし首を傾げるもオレの元に駆け寄ってくるが、アストロン隊のガルとシャトールも何故かその後ろを着いてくる。
「なんでガルも来るんだよっ、ってシャトールも!」
それを指摘するも。
「いいじゃん、ねー」
「ねー」
と金髪同士の二人は顔を合わせて腹の立つリアクションをとる。仲良しかよ。
「まあいい、メイセン、アレイ、売店に行くぞ」
と言っても喜ぶのは。
「「わーい!」」
調子のいいガルとシャトール。
「何も奢らねぇからな!」
と怒るも二人は俺たちの後ろをさも同然と着いてきていた。
●
売店。
「いやー、ジル、すまないね」
「ありがとうございます、スレイヤ大尉」
レジの前で駄々をこねるもんだから結局奢らせれる羽目になって、ガルとシャトールは俺の座る隣のテーブルで俺から勝ち取ったケーキを美味しそうに食べている。
「安かったからいいけど調子がいいぜ、あいつらは」
「がめついですね」
「はい」
はー、と俺は頭を抱えるも同期のよしみだ、今度俺も何か集ってやろう。
そして、俺の対面に座る二人も俺の奢りでプリンやゼリーを食べて休憩していた、俺はいつもの缶コーヒーだ。
「でもどうしたんですか?突然」
普段なかなか奢ったりしないからメイセンに怪しまれる。
「いや、今日の動きは良かった、そのご褒美と言うかそんなだ」
自分でも褒めるの下手くそか!と思うが、ぎこちなくハハハと笑いコーヒーを啜るも。
「えー、どうせなら飲み屋とか連れてってくださいよー」
「そうです」
デザートだけでは不満らしい。メイセンは柄にもなくふくれっ面、アレイは厳しい眼差しで俺の事を睨んでくる。お前は毎日飲んでるだろ。
「あーわかったよ今度な!」
「それは連れてってくれないやつです!」
「そうです!」
面倒くさくて適当に返すと、簡単に見破られてしまう。
もー、勘弁してくれよ、お前らだってそれなりに給料貰ってるだろ、パイロットなんだから。
「あら、奢ってくれるの?」
ほら見ろ変な話してるからレノイが来たじゃないか。
ほんと、毎度毎度入るタイミングを伺ってるんじゃないかってぐらいちょうどいいタイミングで話に入ってくる。
「奢らねーよ!」
そう威嚇してもどこ吹く風、涼しい顔して俺の隣に普通に座ってくる。
「いいじゃない、私たち整備員は貴方達パイロットより給料少ないんだから」
まあな、俺らと違って陸上の整備員とか手当は少ないしレノイが言いたいことも分かるが、一人奢るということは。
「え、ジルいいの?」
「いいんですか!?」
と、全く関係ないやつも増えてくる訳なんだよ。
「シャトールはガルに奢ってもらえ、お前の隊長だろ」
「確かに!」
分かってんだか分かってないんだが、シャトールはウルウルと瞳を潤わせて調子よくガルにねだっているが。
「皆で飲んだ方が楽しくない?」
「確かにっ!!」
ガルは華麗に躱わし、シャトールはそのウルウルした瞳を俺に向けてくる。もう、なんなんだよ。
「はぁ、わかったよ・・・・・・。今度な」
別にシャトールのウルウルした瞳が可愛かったから、とかではなく普通に皆で飯を食うのもアリかな、そう思っただけだ。しかし、ガルはと言うと。
「ほらな、ジルって押しに弱いだろ?」
「ですね!」
お前か!!シャトールとかならまだしもアレイに変なことを吹き込んだやつは!!
これは問い詰めなければならない。
「お前か!アレイに変なこと吹き込んだ奴は!」
バンッと立ち上がってガルに指を指さすが。
「アレイに?なんの事?」
あれ?違うの?ガルとシャトールは同じ角度で首を傾げている、兄妹かよ。
え?どういうこと?と混乱しながらアレイを向くと、シュッと俺から目線を逸らした。
まさか、アレイが自分で考えて?まさかぁ。
「スレイヤ大尉、アレイに何かされてんの!?」
まずい、シャトールが食いついてきた、墓穴を掘ったのは自分だが面倒なことになってきたぞ。
「何もしてない!されてない!やっていない!」
力を込めて全否定するが。
「何よ、お持ち帰りしたくせに」
「お前っ!!」
突然のレノイの裏切りである、いや、元々味方ではない気もするが。へっとなんだが態度が悪く不服そうな感じだ、何で?
それにこのネタに食いつかないシャトールでもなく。
「なになになになになに!どういうことぉぉぉぉ!?」
テンションフルマックスだ、あまり売店で騒ぐな。
「いろいろ事情があったんだよ!なぁ、アレイ」
勢い余って俺の胸もとまで飛びついてきて説明を求めて来るシャトールを両手で押し返しながらアレイに助けを求めるが、チラッとこっちを向いてはスッと目を逸らしてしまう。まあな、基地ではクールっていう設定だしな、ってオイ!
「何したの!お姉さん怒んないから言いなさい!」
「なんもしてねーよ!てか年下だろーがよ!」
シャトールの絡みは面倒くさい、これで酒が入ってないんだから飲んだ日にはどうなってしまうのやら、飲み屋に連れていくのが早くも憂鬱になってきたな。
あーもー、めんどくせーと嫌そうな顔をすると、またそれについても怒られ、それからしばらくシャトールの尋問は続いた。
●
自宅
今日も今日とて既にジャージ姿のアレイが一緒だ。
「なんであの時目を逸らしたんだよ」
慣れないシャトールに絡まれている時、助けを求めたのに無視したことをいつものようにベッドに座りながら追求する。
「面白そうだったんで」
酒を片手にへへぇ、とアレイは楽しそうに笑っている。何で酒持ってるの!?
「って何飲んでんだよ!休肝日だ、今日は!」
「あぁぁん!」
一体いつの間に準備したのか、昨日残ったウィスキーの入ったグラスを問答無用で取り上げて俺の頭上にやるも、アレイは俺にのしかかってきて取り返そうとしてデカい胸が俺の顔に当たっている。やめろやめろ、嫁入り前の娘が!
「わかったわかった、一杯だけな!」
「わーい」
そしてまた楽しそうにちょびちょびと飲み始める。
毎度毎度思うが、基地と今、どっちが本当のアレイなのか。
しかし、直ぐに許してしまう俺もどうなんだろう、厳しくした方がいいのかな?
でも、飲まさないとめっちゃ悲しそうな顔するし・・・・・・、いやダメだダメだ、隊長として厳しく指導しないと、いつか何かしでかすぞ。
「ご飯まだですかー?」
パタパタと伸ばした脚をバタつかせて、俺の服の裾を引っ張り夕飯を要求してくる。だから俺はお前の召使いじゃねぇーよ、何度目だ。
「・・・・・・何がいい?」
本当はこれもダメなんだろうな、少し前の俺なら自分で作れ!って言っていたと思う。
「昨日がパスタだったからぁ、うーん、ピザ!」
「ああ、わかったよ」
「え、作れるんですか!?」
自分で言っておいて驚愕するアレイ、家の電子レンジも安物だがオーブン機能はあるし別に材料もある、何ら難しものでもない、生地を捏ねるのと焼くのに時間がかかるだけだ。
「時間かかるが、できるまで起きとけよ?」
「一杯じゃ寝ません!」
宅飲みで記憶を飛ばさないと言っていたのを思い出す、大丈夫かな?
まあ、寝てたら自分で食べればいいか。
そして、キッチンでは狭いのでベッド横にあるテーブルにラップを敷いて、ボールを置いて小麦粉や諸々入れてかき混ぜる。そして、まとまったところでラップを敷いたテーブルに打ち粉をかけて種をねって麺棒は無いので手で円形に広げていく。
「すごい!!」
傍らで見ているアレイは、わぁ!とキラキラした目を俺を向けていてちょっとニヤケてしまう。
生地はできたので今度はキッチンに行ってソーセージやらピーマンやら玉ねぎやらを適当なサイズに切って、生地にバターを薄く塗り、ピザソースは無いのでケチャップを代用し、切った具材を載せて、スライスチーズを手でちぎってさらにその上に載せて、オリーブオイルをちょっと垂らしたら完成、後はオープンで焼くだけ。
余熱も終わってるし、ピザ2枚をオープンに入れてあとは待つだけだ。
「本も見なくて凄いですね!」
「何回か作ったことあるからな」
変わらずキラキラした眼差しを向けてくるので少しだけ得意げになってしまう。
「スレイヤ大尉、いいお嫁さんになりますね」
「ぶっ、お前がなるんだよ!」
アレイの言葉に思わず吹いてそう言ってしまうと。
「へ?」
「え?」
目を点にして俺を見ている、なんか変なこと言った?
えーと?と頬をポリポリと掻いて困っていると、そんなお嫁さんだなんて・・・、とモジモジしているアレイ。・・・・・・ん?
あっ!!
「そういう意味じゃねぇよ!」
顔を赤くし慌てて訂正するも、え?と悲しそうな目をしてくる始末で。
あーもう、めんどくせぇ!
何で俺がアレイのご機嫌を取らなきゃならんのだ!
「俺よりお前のがいいお嫁さんになるって言いたかったんだよ!」
「ですよね!」
誤魔化せたようでよかった。
ふー、と冷や汗をかきつつ、まだ焼き上がるまで時間がかかる壁に背もたれてベッドに座っていると、アレイが昨日と同じように俺の肩に頭を預けてきた。