第11話 アグレッサー
相手は同じF-16だ、イエローラインのF-35のように訳の分からん機動は出来ん、落ち着いて対応すればなんとかなる。
《お前らはそのまま回避行動を続けろ》
《隊長!》
いくら死なない訓練の戦闘とは言えど、メイセンならまだしもアレイはひよっこだ、いくらセンスがあってもアグレッサー相手に、ほら戦え、はしんどいと思う。
一旦俺だけ上昇し様子を見る。
機首を上げ上昇すると着いてきたのは一機、もう一機はメイセン達を追っているな。
予定通りは予定通り、問題はここからだ。
機体を捻って背面を地表に向け再度降下、メイセンらを追うもう一機のアグレッサーを捉えようとするもさすがに無理か、悟られて回避行動を取られる。
そういえば回避訓練だと言っていたがいつの間にか模擬戦になっている、まあいい注意もされていないし、ついでだ、気にするのは辞めよう。
そして、メイセン達を追っていたアグレッサーがいなくなるとメイセンとアレイは左右に散開、大きく旋回して俺の後ろのアグレッサーと逃げたアグレッサーの様子を伺っている、教えた通りにやっているな、一応は冷静なようだ。
《俺の前の奴をA、後ろの奴をBと呼ぶ。俺はAを追うから、スカイレイン2と3はBを追え》
わかりやすいようにアグレッサーに呼称を付ける。俺の作戦通り上手くいくとも思えないが、とりあえずはそれが無難かな。
《スカイレイン2、ウィルコ!》
《スカイレイン3、ウィルコ》
二人は旋回半径を小さくして俺の方に機首を向ける、さて俺は回避行動とってちょこまかと旋回するアグレッサーAを追うだけだ、三対二で負ける訳にはいかない。
すると俺から逃げるAが旋回速度を速める、メイセン達の後ろにつくつもりか?そうはさせん。
《予定変更だ、スカイレイン3は一旦離脱、旋回してAの警戒に当れ》
《スカイレイン3、ウィルコ》
メイセンと共にBを追おうとしていたアレイは旋回して一旦離脱、少し離れたとを旋回し何が起きてもいいようにAの警戒に当たる。
俺も早いところAを捕捉したかったが、ビ、ビ、ビ・・・・・・、と後ろのBからレーダー照射を受け捕捉される前にクルッと回避行動をとって離脱、また最初からだ。
すると落胆する間もなく、何も言っていないのにアレイは俺と入れ替わるようにAの追撃を始める。おお、いいね、Bは振り切ろうとする俺を追おうとして体勢が崩れている、今なら。
ビーーーッ!
おおすげぇ!アレイがアグレッサーを捉えた。
《ほう、なかなかだな》
偉そうなアグレッサーも一応は褒めてくれているようだ、しかし。
《逃げ切れ、と言われたはずだ、迎撃してどうする》
やっぱり怒られるか、俺もそれには気づいていたが迎撃してしまうのがパイロットの性分、どう言い訳しようか考えていると。
《まあいい結果オーライだ。訓練終了、スネーク隊帰投する、スカイレイン隊も帰投せよ》
《スカイレイン1、了解》
ふぅ物分りのいい人たちで良かった、アグレッサーのスネーク隊は機体を捻りカルート基地に降下していき、俺達も進路を北側にとる。
《お前らいい動きだったぞ。アレイ、あれはいい判断だ》
《あ、ありがとうございます!》
《教えられたとおりにやったまでです》
嬉しそうなメイセンに、さも同然と言った感じのいつものクールなアレイ、メイセンはいいとして家に帰ったらアレイをもう一度褒めてみよう、三重人格の疑いがあるしどんな反応をするか楽しみだ。
《よし、トリークグラード国境沿いを沿って帰る、帰るまで気を抜くなよ》
《スカイレイン2、ウィルコ!》
《スカイレイン3、ウィルコ》
そして、進路はやや北西よりにし、西のトリークグラードの国境にそって西クリンシュ基地に帰投する。
●
トリークグラード国境まで20キロを、高度20000フィートで北に向かって飛行中。
別にここら辺は紛争地域でもなければ国境問題がある地域でもない、ただ普通に飛行しているだけだが、国境に近かったかな?トリークグラード空軍が対応に来る。
《レーダー探知、260度、距離40キロ》
アレイの報告を受ける、ここから40キロってことは完全にトリークグラード領内、さすがに遠すぎて裸眼では見えない。
〈ーーこちらトリークグラード空軍、国境沿いを進路355度に向かって飛行中のウイジクラン航空機、貴隊の所属と行動内容を知らせ、オーバー。ーー〉
あの時イエローラインに質問された事とほぼ同じことを聞かれるが、俺らは領空内をただ北に向かって飛んでいるだけだ、対応しないでいると同じことをもう一度聞かれる。
《大尉、返事しないんですか?》
メイセンは不思議に思っている様だが。
《相手は自分の所属も言ってねぇし、俺らは普通に領空を飛んでるだけで昨日とは状況が違う、無視だ無視!》
トリークグラード空軍機の交話を無視したからと言ってここの国境を越えてくることもないだろうし、相手はイエローラインと違って自分の所属を明らかにしていない、無視するに限る。
《りょ、了解です》
まあ、呼ばれてるのに無視するのはちょっと嫌な感じがするのは分からんでもないがな。
トリークグラード空軍機も俺たちが返事をしないのが分かるとそれ以上は話しかけてこず、少し近づいて距離30キロ前後を保ったまま斜め後ろをついてくるだけだった。
そしてしばらく国境沿いを飛んでいると頃合かな、西クリンシュ基地に機首を向けて国境付近から離脱した。
●
西クリンシュ空軍基地。
駐機場に機体を駐め、機体から降りるとマスコット犬ケリーの出迎えを受ける。
「おー、ただいま」
可愛いもんな、癒しパワーを貰うべく年甲斐もなくワサワサと撫で回してしまう。
そしてケリーはワンワンと吠えながら、順番に帰ってきた人の元へと行き撫でてもらっていた。
「どうだった?」
顔を上げるとレノイが腕組みして立っている。
「ああ、抜き打ちの回避訓練があったよ。アレイのカバーが良くて驚いた」
「あら、大変そうね。でも良かったじゃない」
「まあな」
何故かレノイも嬉しそうだ。
俺たちの機体に牽引車が接続され、整備のために格納庫へと引っ張られていく。
「ちゃんと褒めるのよ、スレイヤ褒めるの下手くそだから」
「んなこた分かってる」
困って頭を掻いているとレノイは、フフ、と鼻で笑って「整備があるから」と俺たちの機体と一緒に格納庫へと消えていった。
「お前たちは先に待機室に行ってろ、帰投の報告をしてくる」
「了解です」
「はい」
俺は帰投報告のために飛行隊長室に向かう。向かう途中に考えるが褒めるねぇ、頭撫でるとか?それはまた違うか、空でそれなりに良かったぞって言ってるしな、状況をみながらやるとしよう。
そして隊長室について帰投の報告。
「カルート基地から早速連絡があった」
早いな、いつも適当なことを言って文句を言われるので身構えていると。
「補給訓練についてはメイセン中尉は及第点、スレイヤ大尉は満点、アレイ少尉はまあ年数の割には上々と言った感じか」
嫌味を言われるかと思ったらそうでも無い様子。
「抜き打ちの回避訓練については、スネーク隊からよく訓練が行き届いていると報告があった、私も鼻が高い。このまま訓練を続けてくれ」
ほー、こいつも褒めることが出来たのか、ほんの1ミリほど見直してしまいそうになるが今までが今までだ、そんな簡単に見る目は変えないし、俺らが褒められると、こいつの評価も上がるんだろう、多分そういう事だ。
「それをローレニア機相手でもできるようにな」
ほらな若干の嫌味を言われる、イエローラインとは無理なんだよ、そもそもの機体の性能が違いすぎるし技量も雲泥の差と言ってもいいだろう。そかしそれを言うと、初期のイエローラインはF-35一機にF-16が二機の編成だったそうだ、と言われる。知るか!無理なもんは無理だ!
「精進します」
適当に敬礼して俺は隊長室を出た。