第10話 給油訓練
翌朝。
チーーン。
トースターのタイマーの音で目覚める。
なんかいい匂いがするぞ?
狭いキッチンにはベッドで寝ているはずのアレイの姿があり、何かを炒めていた。
「あ、おはようございます。いろいろ借りてますね」
「おはよう、何作ってるんだ?」
まさか料理ができるとは思ってなかった、目を擦りながら寝ぼけ眼で聞いてみると。
「目玉焼きとソーセージです。大尉は目玉焼きは胡椒派ですか?ソース派ですか?それともケチャップ派?」
「ん?あー、別になんでも」
「じゃぁ、私胡椒派なんで胡椒振りかけときますね」
「ああ」
夜とは打って変わってテキパキと物事をこなしているアレイ、こいつ三重人格ぐらいあんるじゃないかな?クールなアレイ、酒癖の悪いアレイ、家庭的なアレイ、なんだかそっちの方も心配になってきた。
「そんな早起きして作らなくても良かったのに」
料理を手伝うスペースもないし、変わるのも変なのでベッドに座って待ち、彼女の料理姿を見ていると。
「いえ、夜のお礼です。一応料理もできるんですよ?今回は焼いただけですけど」
ニコニコと作るアレイ、それに俺は「ありがとう」と言うと「いえ」と頬を赤らめていた気がした。
お礼ってことは一応覚えているってことか、ん?それはそれで良いのか悪いのか。なんか大変なことがあった気がする。
変に気にするのをやめて俺はテレビのスイッチをつけた。
●
西クリンシュ空軍基地。
待機室にてメイセンとアレイ、スカイレイン隊の三人で集まって今日の訓練について話し合っていた。
「今日は空中給油訓練だ、訓練飛行しつつ南のカルート基地まで行ってそこで空中給油、トリークグラード国境を沿って飛びつつ帰投する。ちと長い訓練だがしっかりな」
「了解です、空中給油とか久しぶりだなぁ」
「分かりました」
二ヶ月ぶりかな、久しぶりの空中給油訓練に少し緊張気味なメイセンにいつも通り冷静に俺の目を真っ直ぐ見てくるアレイ、家と全然違って調子が狂う、どちらかと言えば今の方が慣れた姿なのだが。
そして別の部隊は北部ローレニア国境の巡回にウィンドブレイク隊、郊外でミサイル回避訓練にクロー隊とアトック隊だ。
昨日の当直、アストロン隊とフレイヤ隊は夜間訓練があったので午前休となっている。家に帰ってるのか、休憩室で寝ているのかはまでは知らないが。
残ったホーク隊はスクランブル待機だ。
「気を抜くなよ」
「いてっ、はい!」
メイセンの頬を軽くパンパンと叩いて気合いを入れ。
「大丈夫です」
アレイの肩を叩くもクールで冷たい目を俺に向けてくる、大丈夫そうかな?
「よし、行くか」
そして、三人で駐機場に向かう。
既に格納庫から出され滑走路方向に向いている灰色デジタル迷彩をして垂直尾翼に五つの流れ星が描かれたF-16Uが三機、今日は主翼に二発ミサイルが搭載されている。そして、その奥に二本の爪が描かれたF-2のクロー隊が二機、クロスした斧が描かれたF-4のアトック隊三機が待機している、俺たちが上がった後に上がるそうだ。
格納庫から工具棚にもたれて俺らを見ているレノイに向かって片手を挙げて挨拶すると、彼女も片手を挙げて挨拶してくれる。
《ーー管制塔からスカイレイン隊、滑走路はクリア、準備出来次第離陸せよ。クロー隊、アトック隊は誘導路にて待機ーー》
《ーースカイレイン1、了解、離陸準備よし、離陸しますーー》
ゆっくりと並んで滑走路まで進出し、誘導路を通って滑走路まで出ると三機で三角形に並び、エルロンやラダーなどの最終確認をして、そのままエンジン出力を上げて離陸。
ゆっくりと旋回し、進路を南にとって空中給油機と合流するためカルート基地上空へと向かった。
●
カルート空軍基地上空。
俺たちウイジクラン共和国は内陸国の為、空中給油給油機とか必要あるのか?とも思うが、万が一に遠征や外国の軍と共同演習があった時などに備えて一応、四発プロペラ式の空中給油機を二機所有していた。エルゲートから格安で買ったとか。
空中給油機の数も少ないし、訓練機会も限られる、集中していこう。
《こちら第五航空団第71補給隊「ブリッツ」からスカイレイン隊、はるばるカルートへようこそ。補給進路は000度、なお今回の訓練において給油中の進路変更は行わない予定だ、ゆっくり確実にな》
《スカイレイン1、了解》
《ほ、良かった・・・・・・》
《聞こえてるわよ》
真っ直ぐ飛ぶだけならこいつらでも大丈夫だろう、進路変更なんて滅多にするもんじゃないし。メイセンは心の声が漏れているがアレイは特に緊張もしてなさそうだ。
給油ノズルを機体から出し、先ずは俺から給油を開始する。
《スカイレイン1、近接を開始する》
《ブリッツ、了解》
空中給油機のケツから伸びている給油ホースに向かって微調整をしながら前身、漏斗のようになっている給油口に機首にあるノズルを勢いそのままにぶち込めば終わりだ。
ゴゴン。
ちゃんと噛んだかな?少し張力を掛けるも抜ける気配はなく、無事接続を終える。
《さすがだな、これより送油を開始する》
なんてことはない、真っ直ぐ進入すれば簡単だ。
燃料計を確認するとじわじわと針が動いている。漏れてもなさそうだし、大丈夫かな。
《スカイレイン1、異常なし》
《ブリッツ、了解、送油を続ける》
そして燃料満タン、搭載口から接続を外し空中給油機の後ろから離脱しアレイの後ろにつくと、続いてはメイセンの番だ。
《スカイレイン2、近接を開始するっ》
《ブリッツ、了解》
メイセンも何度か空中給油はやったことはあるが、一発で決まったことは三回あるかないかだ。今回も。
《スカイレイン2、左に二度とってゆっくり前進しろ》
と言った感じに、空中給油機に進路を微調整するよう指示を受けている。
《くっ、了解》
歯を食いしばって頑張っているようだが、フラフラと進路が定まっていない。
そして、フラフラゆっくりと空中給油機に近接していき何とか給油口に接続、給油を開始する。
《ふー》
あいつは接続出来て一安心だろうが、これから給油が終わるまで進路維持、それもなかなかに大変だ。
《スカイレイン2、速度を合わせろ》
案の定、怒られている。
しばらくして無事メイセンの給油も終わり接続を外して離脱、俺の後ろにつくとアレイが進入を開始する。
一番のひよっこのアレイ、空中給油は片手で数えれるぐらいしかやっていないはずだが上手くいくだろうか。
《スカイレイン3、近接を開始します》
声的には大丈夫そうか、いつものクールな声だ。いつも?疑問に思うのは俺だけか。
そして、ゆっくりと近接を開始、メイセンのように進路を指示されることも無く、無難に近接。
二、三回搭載口の漏斗状のカバーにノズルを当てて外すが数回続けて成功、メイセンより随分早く搭載を開始した。
《まあまあだな》
空中給油機にも褒められる、よかったよかった、俺も後ろから見ていてもメイセンより安心出来るってもんだ。
しばらくしてアレイも搭載を終わり空中給油機の後方を離脱、俺の後ろ元の位置についてデルタ隊形で編隊を整える。
《ブリッツからスカイレイン隊、空中給油終了、評価結果はデータにて基地に送る》
こういう訓練は大概見られていてお偉いさんに点数をつけられる、俺は大丈夫だが若いヤツらとかはその結果で給料の増減とかあるからな、気が気じゃないと思う。
《スカイレイン隊、了解。訓練終了、基地に帰投する》
《待て》
ほ?なんだ?
終わった終わった基地に帰ろうと、操縦桿を倒して機体を捻ろうとした瞬間に止められる。
《5空団司令より労いの訓練だ、アグレッサーから逃げきれ》
《はい?》
アグレッサーからの回避訓練?聞いてないよ?
ビ、ビ、ビ・・・・・・。
コックピットにレーダー波受信の警報が鳴り始める。
《レーダー照射を受けてます!》
アレイに指摘されるがそんなの俺だって分かっている。
《航空機探知、270度!二機です!》
《ブレイク、急降下!》
マジかよ、アレイの体調が心配だが味方同士の訓練だ、大丈夫だと思いたい。
メイセンも一応前の戦闘を生き残っているし、作業系は苦手だが戦闘の腕はいい、なんとかなるかな。
緊急離脱し急降下、後ろを覗き込んでいると俺たちに近づいてくるアグレッサー部隊が見えた。
暗灰色に塗装したF-16U、ローレニア機を模した機体で部隊名は確か・・・・・・。
カルート空軍基地第5航空団第91訓練飛行隊「スネーク隊」
《初動はまずまずだな》
アグレッサーだけあって偉そうだ、俺たちは回避行動を続けた。