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アザー・スカイ ー死神と戦うエースー  作者: 嶺司
ジル・スレイヤ
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第1話 スカイレイン隊

イエローラインって知ってるか?


俺も実際に出くわしたことはないし、噂でしか聞いたことはないが。


東の大陸の超大国「エルゲート連邦」


西の大陸の軍事大国「旧ローレニア連合王国」


この二大国家間による「エルゲート・ローレニア戦争」と。


利益に目の眩んだ「バルセル共和国」


ローレニアから独立し、内戦終結間もない「自由グレイニア」


との間による「バルセル・グレイニア戦争」の撃墜王の肩書きだ。


俺たちが住む西の大陸、先の大戦でエルゲートに負け体制が変わったローレニア民主王国のエースパイロット集団「赤翼」に匹敵する強さらしい。


その編成はF-35Aの三機編隊で、機体色は宙の向こうどこまでも青く深い深青色。


その機体の垂直尾翼に描かれるのは黄色の一本線。

イエローラインと呼ばれる由縁だ。


奴らは正規軍ならまだしも傭兵に転向し、各地を転々とし各国パイロットの恐怖の象徴となっていた。


今、どこの戦場にいるかも噂でしか分からない。


それに、ただでさえステルス機故にレーダーには全く映らず、気がつけば後ろを取られ時すでに遅し。また、視認して追撃を試みようものなら僚機に簡単に落とされ、運良くそれを突破したとしても一番機の理不尽な機動に翻弄され次々に落ちていくと聞く。


そして、いつの間にかパイロットの共通認識としてこう言われるようになっていた。


イエローラインと戦うな。


『逃げろ』



東の隣国「バルセル共和国」と、その隣国「自由グレイニア」の間で起こった「バルセル・グレイニア戦争」終結から1年後の10月10日。


ウイジクラン共和国「ライスヤード地区」上空


《なんでこんな所にアイツらがいるんだよ!今はローレニアのバルセル戦線にいるはずじゃないのか!?》


俺の目には見たくもない機体が写っていた。


《俺が引きつける》

《隊長!》


数時間前、クリーム色の迷彩をしたミラージュ戦闘機が領空侵犯し、俺達灰色のデジタル迷彩をしたF-16がこれに対応中に、どこからともなく突如現れた宙の向こうどこまでも深い深青色をしたF-35三機によって混乱した味方機が次々と落とされていく。


垂直尾翼に描かれている部隊マークは黄色の一本線のみというシンプルなものだったが、それは敵として戦うパイロットに恐怖を与えていた。


《 イエローラインだ、お前らは逃げろ!スカイレイン1、交戦》


そして機首には黄色の二等辺三角形、ローレニアの国籍マーク。


俺の隊長は乱戦の中に自ら突っ込む。


バババーーーーン。


何が何だか分からない間に空に爆煙がいくつも漂い、燃える機体が何も無い荒野へと落ちていく。


《くそったれ!スカイレイン2から各機反転、離脱しろ!》


隊長がアイツらを引き付けている間に生き残った数機で反転、この空域から撤退していくとアイツらは逃げる俺らを追わず、目標を変えてさっきまで俺らが戦っていた敵のミラージュを問答無用で落としている。


そう、これは三つ巴の闘い。


「ローレニア民主王国」「ウイジクラン共和国」「トリークグラード」の三ヵ国がちょうど交わる国境付近に大量の石油資源が発見され、それを理由に始まった領土の領有権争いが武力衝突に発展。双方の言い訳としては領空侵犯をした航空機を迎撃しただけ、という理由から宣戦布告などはしていない。


そして、初期の方は俺たちウイジクランと西の隣国トリークグラードが主に領有権を主張していたのだが、最近になってローレニアも本格的に行動に出てきていた。バルセルも弱りきっていて兵力の分散が可能になったのだろうが、まさかすぐにイエローラインがこっちに来るなんて思ってもいなかった。


それでも赤翼が来ていないだけマシか。


《何機残った?》


低空で逃げる俺たち、隊長が引き付けてくれたおかげで思ったより多く飛んでいるが。


《八機です、隊長はやられました・・・・・・》

《くそっ、了解。スカイレイン2が引き継ぐ、各機作戦中止、このまま基地に帰投する》


あのイエローラインが来たんじゃ、たった八機では俺たちに何もできることは無い、隊長が殺られ悔しい気持ちはあったがここでみんな死ぬ訳にもいかないんだ、立て直すために基地に帰った。



ウイジクラン共和国、北西部の街「クリンシュ」


その街外れにある空軍基地「西クリンシュ空軍基地」に俺たちは帰投した。

北東に向かって伸びる一本の滑走路に、格納庫が八棟、司令部や待機所の入る鉄筋コンクリートの三階建ての隊舎が四棟、高射部隊の車庫倉庫がいくつか、それに食堂や売店、体育館なのど福利厚生施設もあり、まあ、中ぐらいの規模の基地だ。


駐機場には、残った灰色迷彩の輸出用エルゲート製F-16Uが八機が並ぶ。(ちなみに国内用と輸出用で何が違うのかは俺らには分からない)


部隊の内訳は俺がしきることとなった、ウイジクラン第3航空団第112戦闘飛行隊「スカイレイン隊」が三人、部隊マークは五つの流れ星。


同112戦闘飛行隊「アストロン隊」が二人、部隊マークはデフォルメされたロボット。


同114任務飛行隊「ホーク隊」が三人、部隊マークはミサイルを掴んだ鷹。

かなり減ってしまった。


考えることは山ほどあるがとりあえず俺はコックピットから下りる。

名前は「ジル・スレイヤ」大尉、27歳、背丈はまあ人よりは高いかな、ガタイも普通、髪は薄茶のショートで自分で言うのもなんだが、それなりにイケメンだとは思っている。


「お前らもよく生き残った、俺は報告に行く、他の奴と待機室で休んでろ」

肩をポンポンと叩いた二人は三番機の「カロキ・メイセン」中尉と五番機の「ルイ・アレイ」少尉。


メイセンは25歳、若干ナヨっとしているが頭はよく回る、背丈も体格も普通、赤毛のショートヘアがよく目立つ。アレイは女性で23歳、この中で1番のひよっこだが腕は確か、戦況を見る目は鋭く立ち回りもいい、黒髪のやや長いショートヘアはサラサラで、背丈は小柄、体格はまあ女性らしいと言った感じだが飛行服からはよく分からん。


「しかし、隊長達が・・・・・・」


ややツリ目だし鉄仮面だし気丈だと勝手に思っていたアレイ、意外に撃墜された仲間のことを思って落ち込んでいる様だ。俺だって悲しくないわけが無いが、悲しんだところで撃墜された奴は帰ってこないし、これは最早戦争だ、自分が生き残ったことを喜ぶしかない。


そんな落ち込み俯いている彼女に俺は何も言わず、頭をポンポンと優しく叩いて飛行隊長室へと報告に向かった。


飛行隊長室。


「イエローラインですよ、勝てるわけがないでしょ?」


ここの飛行隊長は頭が固い、自分は飛ばないことをいい事に、なんでたった三機にしっぽを巻いて帰ってきたんだと言いやがった。

いつも隊長が頭を抱えていた理由がわかったよ。

14機で出撃して8機で帰ってきたんだ、その意味が分からないらしい。


「束になってかかれば勝てるだろうに」


こいつぶっ殺してやろうかな?そう思うならお前が飛べ!と言ってやりたいが俺の首が飛んでしまう、冷静に冷静にだ、あー、アストロン隊の隊長も連れてくれば良かったぁ、と後悔するも遅い。あいつ同期だったのに。


「イエローライン、知ってますよね?エルゲート・ローレニア戦争、バルセル・グレイニア戦争の撃墜王だ、戦線維持と言えどもこんな戦争慣れしてない俺達には無理があります」


「それをどうにかするのが戦闘機隊の君たちの仕事だっ!」


ドンッと机を叩き威圧される、くそっパワハラ野郎め。

奴の胸ぐらを掴んでぶん殴ってしまう前にこんな所は出ていこう、言うことは終わったし。


「報告は以上です、失礼します!」


怒りを込めて敬礼し、ドアを強めに閉めて部屋を後にした。


待機室に帰るまでに色々と考える。


イエローライン三機でこのざまだ、ローレニアの王家直轄飛行隊の通称「赤翼」が出張ってきたらそれこそおしまいだな。なんで俺はこんな負け戦を戦ってるんだろうか、なんだか悲しくなってきた。


経験は少ないし生きるのもやっと、まだトリークグラードの戦闘機とは殺り合えるがローレニアは強すぎる。


ワンワン!


ん?足元に何か擦り寄ってくる。


「おお、レニーどうしたこんな所に、主人はどうした?」


この基地のマスコット的な存在のダックスフンド、レニーがハァハァいいながら俺の足元をクルクル回っている。

そいつをしゃがんでワサワサと撫でていると。


「何泣きそうな顔してるのよ、柄でもない」

「泣きたくもなるさ」


こいつの飼い主、そして俺たちの機体整備を担当する女整備員の「レノイ・シュルト」が腕を組んで立っていた。


「六機も帰ってこなかったんだ、大丈夫なフリするのもかなりキツい」

「戦闘だもの、仕方ないわ」

「分かってる」


感情を表に出さない彼女はスラリと背の高くピシッとやや油で汚れたツナギを着こなし、焦げ茶のロングヘアを風になびかせる彼女。俺がこの基地に配属された時から整備を担当してもらっているから五、六年の付き合いか、歳も同い年で腐れ縁ってやつなのかな。


「上も戦況をイマイチ分かってない、トリークグラードだけが相手ならまだ戦えるが、軍事大国のローレニアも相手だ、いくら三つ巴の戦いだからって無理だろ。それに傭兵に転向したらしいイエローラインまで出張ってきた、無理無理」


はーぁ、やってらんね!

早く石油資源なんて諦めねーかなぁ、って感じだ。


「え、イエローラインが敵にいるの?」


レノイもさすがにあいつらの存在は知っているか、目を点にしている。


「ああ、あいつらにみんな殺られた」

「よく生きて帰ってこれたわね」

「隊長がな、囮になってくれた」

「そう・・・・・・」


戦争だから仕方ない、そう言っていたレノイも状況を理解するとやや俯く。


「俺は対策を考える、レノイは整備をよろしくな」


レニーを抱き抱えて彼女に渡す。


「ええ、わかったわ」


最後にまたレニーの頭を撫でて癒しパワーをもらい、俺はみんなの待つ待機室に戻った。

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