プロセルピナ編1
「それ」はどこからともなく現れた。それは国防省に出現した。
「なんだ!?」
「こいつはいったい!?」
国防省の軍人たちは混乱し、狼狽した。国防省にはエリート中のエリートが集められていたが、そんな彼らにも手も足もでない存在だった。
それはまるで彫像のような生き物であった。それが何をしに国防省に現れたのかさだかではない。
ただ、国防省の官僚たちを虐殺しているだけだ。
それの名はマグノリア Magnolia 。
マグノリアの前に国防省はなすすべがなかった。マグノリアは闇の槍で軍人たちを殺害していった。
国防省は完全に不意を突かれた。それよりもマグノリアがなんなのか、さっぱり分からなかった。
マグノリアは用が済んだのか、とたんに姿を消した。
脅威は去った。国防省には死体の山が残った。
次にマグノリアは軍の基地に現れた。マグノリアは軍の兵士たちを多数殺害した。
軍も混乱した。普段は厳しい訓練をつんでいる兵士たちも、未知の敵の前に屈するしかなかった。
それでも精強で知られるツヴェーデン軍である。マグノリアに対して積極果敢な攻撃を仕掛けた。
マグノリアは頭部らしきところの口から光線を薙ぎ払うようにはいた。多数のツヴェーデン軍兵士たちが倒された。マグノリアは背後から兵士たちに攻撃された。それでもマグノリアは平然としていた。
マグノリアの傷は再生した。マグノリアは全周囲に放電を放った。ツヴェーデン軍の兵士たちはマグノリアを取り囲んでいた。それがあだになった。多くの兵士たちが倒れた。
「こいつは何が目的なんだ!?」
マグノリアに目的らしきものは見当たらない。あるのはただ殺戮本能のみだ。
マグノリアは生き残っている兵士たちにゆっくりと近づいてきた。兵士たちは未知の敵の前になすすべがなかった。
マグノリアは闇の矢を多数放ってきた。兵士たちはよけきれずに倒された。
マグノリアの前に死体がたくさん築かれる。兵士たちは恐れた。
マグノリアは全長三メートルほどの大きさだった。マグノリアの巨体が兵士たちを圧倒した。
生き残った兵士たちが死を覚悟した時、マグノリアは回転して上昇し姿を消した。
兵士たちは茫然自失し、地面に座り込んだ。多くの死体が残された。血が床を汚していた。
マグノリアは新聞社にも現れた。闇の槍が社員たちに突き刺さり、絶命させた。
新聞社はかつてない混乱を経験した。どうやら社員たちは自分たちはこうした流血ざたとは無縁だと高をくくっていた。マグノリアによる虐殺は無慈悲に行われた。
マグノリアはニイッと笑った。
「俺たちには、俺たちには関係ないんだ! どこかよそへ行けよ!」
社員たちには当事者意識は全くなかった。マグノリアは闇の槍でこの社員を殺した。
もう十分だと思ったのかマグノリアは地面に潜って姿を消した。
後には新聞社員たちの死体が残された。
マグノリアは警察署にも現れ、同じような虐殺を行った。
警察はマグノリアの前に無力だった。
セリオンとエスカローネは街に買い物に出かけた。新婚ほやほやだった。
「あれも買ったし、これも買った。もう買う物はないかしら?」
セリオンは買った物が入っている紙袋を持っていた。
「そうだな。もうこれ以上買う物はない」
「じゃあ、帰りましょう」
久しぶりのデートだからかエスカローネはほわほわしていた。セリオンはそんなエスカローネの姿を見ていとおしく思った。
街の中央通りに何か奇妙なものが出現した。それは徐々に体を展開した。突き出た両肩。ない脚。それはまるで彫像だった。
マグノリアがツヴェーデンの街中に出現した。
「うわあああああああ!?」
「きゃあああああああ!?」
突如出現したマグノリアに市民たちは驚愕の悲鳴を上げた。
市民たちはパニックに陥った。恐れをなして我先に逃げ出した。マグノリアは無情に闇の槍を放った。
マグノリアは今度は市民たちを虐殺していく。
セリオンは遠くから異変を感じた。
「今、悲鳴が聞こえなかったか?」
「? どうしたの、セリオン? 何か聞こえたの?」
「エスカローネ、これを頼む。俺はちょっと行ってくる!」
セリオンは紙袋をエスカローネに渡した。
「え? ちょっと」
セリオンは異変が起きている現場へと走り出した。セリオンは駆けた。セリオンは神剣サンダルフォンを出した。
「わあああああああ!?」
セリオンは走りながら市民の叫び声を聞いた。
「間違いない! こっちだ! いったい何が起きているんだ?」
セリオンは現場へと急いだ。その途中で逃げまどう市民たちに出くわした。セリオンは市民たちが逃げ出した現場へと向かった。
「あれは?」
セリオンはマグノリアを見た。まるで彫像だとセリオンは思った。
「モンスターか」
マグノリアの周りには市民の死体が倒れていた。セリオンは大剣を構えた。
マグノリアは口から光線をはいた。
セリオンは後方に跳びのいてかわした。すぐにダッシュして間合いをつめた。そして強力な斬撃を放った。
マグノリアは傷を負ったが、その傷は再生した。
「再生したのか!?」
セリオンは間合いを取った。セリオンはおかしいと思った。マグノリアから圧倒的なプレッシャーを感じる。これは普通のものではなかった。プレッシャーの大きさではかつて戦ったファーブニルのほうが勝っていたはずだ。こいつが三メートル級の巨体を持つとはいえ、これほどのプレッシャーを持ちえるものだろうか?
「……絶対恐怖か」
セリオンはプレッシャーの正体を見破った。こいつのプレッシャーは相手に恐怖を抱かせる。強制的に恐怖に陥れるものだ。セリオンは自分の体に震えが走るのを感じた。
セリオンは接近してマグノリアを斬りつけた。セリオンが与えた傷はまた再生した。
「この再生は厄介だな」
マグノリアは口から音波を放った。セリオンの体がこわばった。
「これも絶対恐怖を伴っているのか」
セリオンは冷静に分析した。マグノリアは闇の槍を複数放った。セリオンは最初の一発を斬り捨てると、残りは蒼気を展開し蒼気の斬撃ですべての闇の槍を打ち払った。
セリオンは接近し、蒼気を纏い、連続で蒼気の斬撃を繰り出した。
マグノリアの再生を上回るダメージを与えていく。
マグノリアは闇の力を収束し、大きな光線をはいた。セリオンはさっと右によけてかわした。
セリオンはさらなる猛攻を続ける。態勢不利だと思ったのか、マグノリアは地中に潜って消えた。
「逃げた、か」