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【青いブルース】  作者: トーギィ
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2話『ガルム村の出会い』

丘から見えた村に辿りついた。

獣族が沢山いる。

ここはレオン王国領って事か。

村の入り口付近を歩いていると獣族の青い髪の青年に声をかけられた。


「お、兄さん旅人かい?随分汚ねぇ格好だなw」


俺より少し歳上だろうか。

精悍な顔立ちで気さくに話し掛けてくる。

悪い人ではないようだ。


「旅なら気をつけな。この辺りは魔物が多いからな!」


村にしては大きく、教会、宿屋、武器屋、酒場など、一通りの施設が揃っている。



カンカンカンカン!!

鐘の音が鳴り響く!


「祭りじゃー!!!」


魔物の群れが村に入って来た!

危ない……

いや、村人は楽しそうだ!

剣や斧や槍を使い男女総出で魔物を狩りまくる!

個々の戦闘も強いが、あんな小さい子供達まで連携が取れて戦闘慣れしている。

魔物のほうが襲われているようにも見える。

これが獣族の力か!

それにしても、祭って……。


呆気に取られ、口を開けて見物していた俺の背後から馬ようにデカい犬が襲いかかってきた!

爪で腹を引き裂かれ、腕と足を何度も噛み付かれる!


「ぐはっ!」

それでも倒れない俺が気に食わないのか左腕に噛み付いて放さない!


「痛てぇな、放せ!……放せって言ってんだろが!」

左腕を噛むのに夢中でスキだらけのうちに脳天に右手で短剣を刺した!

明らかに『まぐれ当たり』ではあったが、何とか倒した。


やはりキズは瞬く間に治っていた。

村人達は、あっという間に魔物の群を全滅させている。

「みんな~お疲れ!」

「楽勝楽勝w」

「お疲れ様でした~!」


……凄いな、さすが戦闘民族だ。

魔物からの戦利品を集めて山分けしているのが微笑ましい。

帝国とは全く違う文化だ。


先ほどの青年が来た。

「おう、兄さんもお疲れ!戦利品貰いに来いよ。」


「いいんですか?」


「おいおいw兄さん、アンタが倒したのは今回の群のボス『ケルベロス』だぜ?当然よ。報酬は参加者全員で平等に分けるもんだ。しかし短剣1本で戦うとか。あまり無茶すんなよw」


宝石や干し肉など戦利品をわけてもらった。

干し肉をガツガツ食った!味なんてどうでも良い。

そんな俺を見て笑ってる人もいるが、知った事ではない。


「俺はラルフ。ここガルム村の村長の息子だ。アンタは?」


「ブルー……。」


「そうか。なんか訳アリみてぇだな……。親父に会わせてやるから付いて来な。」


ラルフは自宅に案内してくれた。



村長を見て驚いた。人族だ!

金色の短い髪、人族の耳。

村長という割には若い。40代だろうか。

椅子に座っている村長は右足の膝下からが杖のような義足で、左手は無い。


「奴隷か!?」


奴隷服、汚く痩せた体、伸びて傷んだ黒髪。

奴隷という存在を知っている人だろう。


「なぁ親父、この兄さん人族なのにケルベロスを無傷で1人で倒したんだぜw」


「何?!ラルフ、母さんを呼んで来なさい!」


ラルフは母親を呼びに家を出て行った。


村長の名は『エドガ』。

強面だが帝国の人族とは違い、話してみると温かい雰囲気の人だ。

俺は教会で育った事、

奴隷として働いていた事、

教会が無くなり絶望して自殺した事、

警備隊に殺され国境から放り捨てられた事、

生きる希望も目的もなく、死ねずに途方にくれている事、

ケルベロスに腹を切り裂かれても治った事など

全てをエドガ村長に話した。


村長はレオン王国で産まれた人族ながら帝国の事情にもかなり詳しい。

奴隷制度の廃止と、この村での奴隷の受け入れを帝国に訴え続けているそうだ。


国境の近くに村を構えているのは、そういう事か。

魔物も多いから稼ぎにもなっている。合理的だ。


「君には縁を感じる。君がシスターの子なら、まだ使命があるぞ。」


「俺の使命……」


「教会の子供たちは全員生きている。」


「!?」


「理由は解らないが帝国の城内に捕らわれている。どうだ?目的が無いなら、俺の手伝いをしないか?」


「はい!是非!」


村長に協力して奴隷解放と教会の家族を救う事になった!

急ぎたい気持ちもあるが、今の俺は無力だ。

暫くは訓練するよう言われた。


「ついでだが、君の特殊スキルは他言しないほうが良いだろう。レオンの師団に勧誘されるぞ。」


「特殊スキル??」


「君のスキルは『神速回復』だ。人族ってのは、稀に自分を守る能力を持って産まれる者がいるのだ。」


「そういう事だったんですね。」


「他には、攻撃が当たらない『風神の加護』と、守ってくれた人を1分程無敵にする『女神の盾』がある。俺は風神の加護だった。もう使えない体になったがな。」



ラルフが外から母親を連れて帰ってきた。

青く長い髪の美しい獣族の女性だ。


「いらっしゃい。」


ラルフの母親を見て、俺は涙が止まらなかった。


「うっ、あぁ、シスター……。」


「!!」

ラルフの母が驚いている!


「妻のメイだ。マイとよく似ているだろう。」


メイさんが微笑む。シスターと瓜二つだ。

シスターじゃないと判っても涙は止まらない。


「マイは私の姉よ。シスター職は頭のベールを脱がないから獣族だとは知らなかったでしょ。」


メイさんがエドガ村長の隣に座り語り始めた。

シスターは奴隷解放のためシスターになり入国。

シスターは志半ばにして災厄で命を落としたという。

人族ですら不当な扱いを受ける者が多い帝国だ。

シスターは自分が獣族である事を隠していたのだろう。


姉妹で『鳩』を使い情報を交換して奴隷解放策を模索していたそうだ。

最後に飛んで来た鳩の足に結ばれていた手紙には『教会の子は全員無事だが城にいる』と書かれていた。


「君をガルム村の住人として認めるが、どうかな?」


「勿論宜しくお願いします!」


「そうだブルー、俺の服をわけてやるよ。」

ラルフは自室に戻っていった。

有難い。

何から何まで夢のようだ。

シスターの恩恵に感謝しないと。



「ただいま。」


小さい獣族の女の子が帰ってきた。

肩に届かない程の短い金髪で日焼けした浅黒い肌。

村長の娘さんか?


「おかえり、ミウ。こちらはブルーさん。お父さんに認められて今日から村人になった人よ。」


「ふ~ん。兄貴は?」


「帰って来てるわ。ブルーさんにあげる御下がりの服を選んでるわ。」


村長が何か閃いたかのようにニヤリと口を曲げた。

「ミウ、頼みがある。」


この村はおろか、レオン王国の事も生活上のルールも何も知らない俺に案内役としてミウを付けてくれた。

『家族』を助ける策を探すには、今の俺は弱すぎる。

1週間ほど稽古してもらう事になった!


「宜しくお願いします。」


「面倒臭い。足手纏いにならないでね。」


生意気なガキンチョだな。



「なぁブルー、風呂行こうぜ。祭の後はやっぱ風呂だ!」


ラルフは村自慢の露天風呂に誘ってくれた。

奴隷になってから風呂に入ってない……久々だ。

男湯には既に沢山の村人が入っていた。

先程の戦いや大会を見た話など和気あいあいだ。


「明日から暫くミウと行動すんだろ?あいつは口下手だから、要点は教えておいてやるよ。」


ラルフは22歳。昨年はコロシアムの個人戦で優勝もしている。

ミウは20歳。3歳も歳上だった……。生意気なガキンチョにしか見えない事は言わないでおこう。

次の大会でコロシアムデビューするらしい。

「ミウはああ見えても、この村で1番強いんだぜ!w」


金は、戦利品や工作品を買取屋で換金したり大会の賞金で稼ぐそうだ。通貨は、

銅貨100枚=銀貨10枚=金貨1枚。

宿代が1泊銀貨2枚、食事は銅貨5枚くらいが相場と覚えたら良いらしい。

武器は程度にもよるが、買うには金貨数枚が必要になる。


怪我をしたら教会に売っている薬や聖水で治す。

呪いや毒は神父が治癒師の魔族なので頼める。


レオン王国には、王国とガルム村の他に2つ村があり、ここガルムと同じように村人が暮らしている。

どこに行くにも馬車なら30分、徒歩で2時間程度。

馬車輸送を生業としている人も沢山いる。


「知らない事ばかりだ。ラルフさん、ありがとう。」


「ラルフでいいよw」


「ありがとう、ラルフ!」


風呂から上がり、ラルフから貰った服を着る。

伸びた髪を束ねる青いバンダナ、白い下着にジャケット、半ズボン、シューズ。

これは動き易い!


今日は村長宅に泊めてもらい、明日ミウと出発する事になった。



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