星の降る日
「僕はもう疲れたんだ。君たちが苦しんで死ぬ姿が見たくてたまらない」
そう言って僕は、誰に見せるでもなくニヒルな笑みを浮かべて、核ミサイルの発射スイッチを押した。
奇しくも、唯一の核爆弾による被爆国が、第三次世界大戦の火ぶたを同じ兵器の力によって切って落とした。
モウモウと発射台から上がる白煙は、まるで焚火さえ満足にできなくなった現代社会への反抗の狼煙に思える。見ていられないほどの強い光を放つロケットは、すぐさま雲を突き抜け、青空に消えていく。
10秒後。本燃焼を終えたロケットから弾頭が切り離される。大気圏外に一度射出された弾頭は、凍えるような寒さと強力な紫外線の中で3秒間飛翔し、母なる大地の重力に引かれて再び大気圏へ。
推進力を失った耐熱セラミックの外壁を溶かさんばかりに濃厚な空気を切り裂いて真っ黒な空から自由落下を始めた。
誰が想像できただろうか。GPSもレーダーも万能ではない。自分たちは誰かが作り上げた化学、工学という神話の世界に生きているのであって、この地球を全て知るには随分とお粗末な存在にすがって生きている。きっとこの季節、それも昼間に空を引き裂いて降ってくる核弾頭を世界中の子供達が見た事だろう。大気圏で猛烈な熱にさらされた核弾頭は、下からだと流れ星に見えるはずである。きっと真夏に見るオリオンの様に幻想的で、虫唾が走る光景だったに違いない。
きっかり地上から15メートルという高さで、核弾頭は正常に機能した。
爆心地には高層ビル群が立ち並び、大勢の人間がまだそこにはいた。皆家族を持ち、自分の時間を削り、自分が真面目でいい人間だと思っている人たちであった。
たった一発で何十万という人間の命が灰となって消えた。
自然豊かだった国土は放射能汚染に包まれ、自分の知る世界から人間が消えた。
僕は『さいごのにんげん』になった。