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迷子の森  作者: 明日栄作
9/13

昔話

続き書きました。


昔話を主人公が聞かされる事になった話の続きです。

俺は化け物と戦った時に目覚めた強力な力の代償で、そのまま意識を失った。


自分の家まで運んでくれたタイランが、ベットの上で動けなくなった俺の隣で昔話を喋り始める。



むかしむかしあるところに、二人の兄妹が父と母と四人で暮らしていた。


兄妹は、よく二人を抱きしめてくれる大きな温もりをくれる優しい母が好きだった。


そして、そんな母を相手に毎晩のように拳を握って手をあげ、自分勝手な理由で責め立てる父を心の底から憎んでいた。


その日は嵐だった。


風で窓がガタガタと音を立て、父はいつもよりピリピリして、夕飯が気に食わないという理由で母を叩き始める。


その後も母をいじめる父を止めようと、兄は握り拳と母の前に立ちはだかった。


すると父は躊躇いなく兄を殴った後に「邪魔すんじゃねぇ! おい、どういう教育してんだ!」と言って、次は母を叩いた。


そして、その場にうずくまって苦しむ兄は下唇から血が出るほど強く噛んで、「ごめんなさい、ごめんなさい。助けて上げられなくて、ごめんなさい」と繰り返すばかり。


そこは、地獄だった。


弟は母を守ろうとした兄と、そんな子供達を守ろうと父の怒りを自分に集めることで守ろうとしている母を前にして、恐怖で動けない自分に絶望した。


その地獄は一晩中続いたが、母と兄弟は心と身体が悲鳴を上げていても逃げる事はしない。


なぜなら母が、そんな父でも子供達には「お父さんは今は疲れてしまっているだけだから、嫌いにならないであげて欲しいの。きっとまた家族みんなで笑える日が来るからね」と、毎日兄弟に優しく言い聞かして、安心させようとしていたから。


そんなある日、兄が学校から帰ってくると、こんな環境でもいつも鼻歌混じりで家事をしていた母が部屋の隅っこで壁にもたれかかって座っていた。


「ただいま」と言う兄に、「おかえり」と返す母の視線はどこか遠くを見つめている。


その不自然な母の反応に、兄は言葉を失う。


母はついに限界を迎えて、心が壊れてしまったのだ。


その夜は父がは虚な目をした母に、帰ってくるなり「酒!」と言い放って机の前に座る。


だが、いつもならすぐに酒瓶を持ってきてくれていた母は、十分経っても立ち上がる素振りも見せずに壁に背中を預けて、うっすらと微笑んでいる。


そんな母の顔を見て、父は案の定ワナワナと肩を揺らして母の元へとドタドタと足を鳴らして向かう。


それを見た兄は父に飛びつき母への攻撃を妨害するが呆気なく、引き剥がされて今度は兄がやられてしまう。


弟は今回も恐怖に震えて動けずにいたが、兄の「誰か! 誰か俺たちを助けてくれ!」という神にでもすがるような宛てのない声が聞こえる。


しかし、その言葉は弟の眠った力を目覚めさす事になる。


弟は兄の声を聞いて恐怖が消えた瞬間に、身長が一八◯センチほどまでに大きくなり、膨張した筋肉が黒く染まった化け物へと変化する。


そして兄が制止の声をかけるまでの間、父親相手に暴虐の限りを尽くして暴れ回っていたらしく、弟が正気に戻った時、父親は鮮血に染まった顔で浅い呼吸を繰り返していたという。


その後、両親はどちらとも入院する事になり、二人は児童養護施設に引き取られる事になった。


兄弟は母の回復を願い、忌々しい記憶を思い出させない為に、二度と会わないと心に決めて二人だけで生きていこうと約束を交わす。


施設は綺麗で、兄弟の他にも沢山の子供がおり、生まれて初めて友達というものが出来た兄弟は少しづつ楽しい時間を過ごしていた。


しかし、兄弟の平和は長くは続かなかった。


施設に来て一年が過ぎた頃、施設長が変わり施設内のルールは厳しいものが増え統率された組織のような行動を強制されるようになる。


その結果、施設内の空気は常にピリつき、ルールを守れていないと殴る蹴るは当たり前になっていく。


そんな地獄のような状況の中で、兄の中である考えが浮かぶ『大人が居るから俺達は平和になれないんじゃないか?』と。


その日、施設の大人は一人残らず姿を消し、兄弟も二度と施設には戻らなかった。


その後、兄弟は大人を次々と襲い、両親を失った子供達に次々と弟の力を植えつけ黒き巨人に変貌させていく。


それから五年後には、ほとんどの子供達が兄の声に従う巨人へと姿を変えていた。


そんな世界の支配者となった兄を見て、今まで何も考えずにただ兄を頼りに生きてきた弟の中で、芽生え始めていた疑問がある。


兄は本当に正しいのだろうか?


大人は全てが悪だったのだろうか?


その問いに答えが出たのは、兄が最後の大人を見つけた時だった。


その両親は子供の前に立ち、我が身を盾にして、兄と巨人の軍団から必死に我が子を守ろうとしている。


今は亡き、二人の母親のように……


弟は気がつくと兄を殴り飛ばし、その家族に「早く逃げろ!」と言い放ち、巨人の軍団を迎え討った。


巨人の数は凄まじかったが、能力のオリジナルである弟相手では三日間をかけて、ようやく兄は弟を拘束でき、自分に逆らえないようにと地下深くに幽閉する。


こうして、仲の良かった兄弟は違う正義のもとに決別する事になるのだった。



話が終わると、タイランは深いため息をついてから俺に語りかける。


「これが、この世界が木々に覆われ森になってしまう前の話だ。何か質問はあるか?」


人間の話は俺にとって、母と父や大人それから家族といった未知の事柄が出てくるばかりで、正直何を質問すればいいのか分からない。


とりあえず、俺は最後に弟が助けたという家族の事が気になった。


「逃げた家族はどうなったんだよ?」


「ああ、後になってわかった話だが、逃げた家族の父親は研究者で、孤児院を研究所にして巨人に対抗できる人造人間を作っていたそうだ」


「じゃあ、もう一つその黒き巨人が、あの森にいる巨人達なのか?」


「そうだ、お前はアイツらがぶつぶつと独り言を言っていたのを聞かなかったか?」


聞いた。


初めて奴らを見た時、隠れている俺とハチは「ママ……ママ……ママ……ママ……」と不思議な言葉を口ずさむ巨人の姿を見た。


「アイツらは失った両親を探して彷徨い続けている子供で……そして、暴虐の化身だ」


「あの巨人が子供?」


「元の姿はな。だがお前は才能があるぞ? なんせ今まであの力に目覚めて暴走しなかったのは、話に出てきた弟、私、そしてお前だけだ」


「え? でも俺もハチもそんなもん植え付けられてないぞ? なのになんでこんな力が目覚めてるんだよ」


「さっき言っただろ。自分の身体についてはお前の故郷に居る奴に聞けとな」


勿体ぶるタイランに、半眼になりつつも俺は抗議の言葉を飲み込み、違う事を聞く。


「それで? さっき言っていた、弟のハチを治す方法っていうのはどうやるんだよ」


昔話の前にタイランが言っていた俺にとって一番重要な事を。


「花だ。あの奇跡の花から作られた薬液を弟の身体に取り込ませれば、とりあえず元の身体に戻す事は可能だ」


「あの花に、そんな効果があるのか」


「そうだ、あの花は延命の花といって身体の記憶を一年間巻き戻す効果がある花だ。だから、弟に使えば必ず元に戻れるだろうな」


って事は、村長はこれを知っていてあの花を欲しがっているのか? でも、なんの為にだ? 村長は俺が生まれた十五年前から白髪頭の腰の曲がった老人だったはずだ。


まあ、分からない事を考えても仕方ないし、その辺も含めて村長に聞いてみるとしよう。


俺は少しずつ感覚の戻ってきた身体の感触を確かめながら、今後の予定を考えていく。


まずは、村に戻って村長に、花から薬液を作ってもらう。


その後森に戻って、化け物になってしまったハチを探して、見つけたら薬液を飲ませる。


そして、ハチを化け物に変えた神とかいう奴をぶっ飛ばして帰る。


よし!そうと決まれば出発だ!


俺は勢いよくベットから起き上がると近くの机の上に置いてあった俺の鞄を背負う。


「助けてくれてありがとう! タイラン! 今度来た時は戦い方を教わりに来るな」


「礼など言わなくていい、動けるようになったなら早く弟を探しに行ってやるんだな」


そう言って、こちらを振り向く事なく見送るタイランの背中に別れを告げて、俺は家を出るなり、村の方向へと全速力で駆け出した。

最後まで読んでいただきありがとうございます。


今回は割と暗めの話で、書くのが難しい回でした。


面白いと思っていただけたら、ブクマ、ポイント評価など方、何卒よろしくお願いします。


それでは、よろしければ次回もお付き合いください。

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